「全力を尽くします!」「頼んだよ!」 業績不振に揺れる日産の定時株主総会に参加して
2025.07.02 デイリーコラム再建に向けての意気込みを確かめるために
6月24日午前8時40分、横浜みなとみらいにある日産グローバル本社に到着。第126回定時株主総会に出席するためだ。開会時刻は10時で入場開始が9時なのだが、すでに行列ができている。日産は2024年度に業績が悪化し、ホンダとの経営統合に向けて協議が始まったものの2025年2月に破談となった。経営体制刷新も発表され、内田 誠社長が退任。4月にはイヴァン・エスピノーサ氏が代表執行役社長兼最高経営責任者(CEO)に就任した。新体制となって初の株主総会ということで注目が集まったのだ。
日産株を所有するステークホルダーとしては、再建に向けての意気込みを確かめる責任がある。前回出席したのは2019年で、カルロス・ゴーン氏の解任とルノーとのアライアンスの見直しがテーマだった。あれから6年。残念ながら日産は完全復活を果たせていない。日産車に試乗する機会は何度もあったのだが、ほとんどがNISMOやAUTECHの派生モデルで、魅力的な新車には出会えなかった。
会場に降りる通路には天井から大きなPR幕が垂らされていた。このタイミングで日産のブランドアンバサダーを買って出た勇気と信念の男・鈴木亮平が爽やかな笑顔で「やっちゃえNISSAN」とエールを送っている。定刻に入場が始まり、出席票0048をゲット。メイン会場の最前列に陣取ることができた。満席になったときのために、モニターを設置した第2会場も用意されている。開会までの間、新型「リーフ」のPR動画が繰り返し流された。小雨が降る暗い場面から始まり、リーフが走ってくると空が晴れて街はカラフルな服をまとった人々で満たされる。
明るい未来を予感させる映像の後、イヴァン・エスピノーサ社長が姿を現した。日本語のあいさつは「ミナサン、コンニチワ」だけで、愛嬌(あいきょう)を振りまくこともなく事務的な報告が始まる。地味で素っ気ない進行に少々落胆。前回はクリント・イーストウッド似のジャン=ドミニク・スナール会長と名古屋章似の西川廣人社長が並んで緊張感が漂ったのだが、そういうエキサイティングな舞台設定にはなっていない。
勝てない競争はないのです!
エスピノーサ氏は似ている俳優が思い当たらないのだが、なんか見覚えがある……そうだ、元プロレスラーの武藤敬司である。新日本プロレス闘魂三銃士の1人で、グレート・ムタの名で悪役としても活躍した。エスピノーサ氏は柔和な顔立ちだが、怒れば武藤にそっくりなのではないか。彼が得意とするシャイニング・ウィザードのような必殺技で苦境に立ち向かってほしいものだ。
エスピノーサ氏は派手なマイクパフォーマンスで聴衆をあおるようなことはせず、淡々と業績の説明を続けている。5月に発表した経営再建計画「Re:Nissan」の内容そのままで、5000億円のコスト削減、2万人の人員削減、車両生産工場を17から10へ削減といった元気の出ない数字が述べられていく。景気のいい話は、中国市場向けの新型電気自動車(EV)「N7」が1カ月半で1万7000台の受注があったことぐらい。それでも最後に「再生に必要なものはそろっています!」「ワンチームで協力すれば、勝てない競争はないのです!」と力強く宣言し、報告を終えた。
株主総会議長として、そつのない安全運転だったと思う。エスピノーサ氏はメキシコ出身ということで、就任した際には「ラテン系リーダーが日産を救う」とか「ラテン系の明るい風を吹かせて日産を上昇気流に乗せる」などという記事が目についた。ラテン系は陽気で明るく楽観的、自由でテキトー、と思われているようだが、エスピノーサ氏はそんなパブリックイメージとは無縁。有能で実務的な経営者という印象だ。
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内田前CEOに説明させろ!
大きな混乱もなく議事が進められてきたが、ここからが見どころである。会社提案は1号議案、2号議案だけで、3号から7号までは株主から提出された議案なのだ。定款や取締役報酬、配当などについて会社の方針に異議を唱えている。提案理由には「経営陣の極めて重大な判断ミス」「株主価値を大きく毀損(きそん)した結果責任のある取締役は、当社から去るべき」といった厳しい言葉が並ぶ。
質問に立った提案者の男性は、「経営陣は真摯(しんし)ではない」「ゴーン問題はまだ終わっていない」と強い言葉で指弾。次の女性提案者は「株価が下がっても取締役の報酬が同じなのはおかしい」と批判した。会場からは大きな拍手が起こり、怒鳴り声も聞こえてきた。井原慶子取締役が「実際には支給額が76%下がっている」と説明するが、混乱は収まらない。議長不信任の動議が出されるものの、エスピノーサ氏は「動議とは見なしません」と議長権限でシャットアウト。
騒然とするなかで、「内田前CEOに説明させろ!」との動議が提出された。後方の株主からは「工場がなくなると街が吹っ飛ぶんですよ!」と悲痛な叫びが。動議は拍手で採決され、エスピノーサ氏は「過半数に達しないので否決されました」と発言。明らかに会場の多数が拍手しているが、日産経営陣は事前に委任状で過半数を得ているので意味がないのだ。提案者が納得しないのは当然でも、日産に限らず株主総会というのは会社側があらかじめ多数を握ってコントロールするのが通例である。
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株主の気持ちを受け止めてほしい
この後は、会場入りのときに質問整理券を受け取った株主が質疑に立つ。全員が参加できるわけではなく、抽選制だ。商店街の福引のような方式で、透明な箱に女性が手を入れて2つ折りにした番号札を引き出す。パリオリンピックの柔道のようなデジタル方式だと要らぬ疑念を呼ぶかもしれないから、こういうレトロなやり方のほうがいいのだろう。
16人が選ばれたのだが、なかには特に質問したいことがない株主もいた。「日産車を何台も持っている」「他メーカーのクルマには乗ったことがない」などと日産愛をアピールする。人生経験の豊かな高齢男性が多く、持論を展開して独自のアイデアを披露する。提案されたのは、以下のようなプランだった。
- EVに強みがあるのだからもっとアピールすべき
- 「e-POWER」をハイブリッドではなくEVと言って宣伝すればいい
- 今のe-POWERはエンジンブレーキ(?)が利かないから初代のタイプに戻せ
- マリノスは日産のイメージ向上に貢献していないから責任者を解任せよ
- 「マーチ」「マグナイト」などの低価格帯のクルマを売れば業績は回復する
- GMのクルマにe-POWERを搭載して逆輸入すれば関税問題も解決
愛のある斬新な主張に場が和んできたところで、またも動議が提出された。ご老人がマイクの前に立ち、「72年生きてきて日産車にしか乗ったことがない。510は名車とかいってるけど、『コロナ』に引っ張ってもらったことがある。日産ファンとしては泣いてるよ……」という魂の訴えだった。もちろん動議とは認められず、エスピノーサ氏が「皆さんのフラストレーションは理解します。全力を尽くします!」と決意表明して株主総会は終わった。
会場からは「頼んだよ!」と激励の声も。将来への道筋が明らかになったとは思えないが、日産の復活を待ち望むファンは根強く残っている。ただ、気になったのは株主総会への出席者数だ。2019年には4119人が会場を訪れたが、今回は1071人。激減しているのは、諦めの境地に至った人が少なからずいるからなのだろう。ユーザーに見放されたら手の施しようがない。熱気が冷めないうちに再建の方策を示さなければ、今度こそ手遅れになってしまう。エスピノーサ氏をはじめとする日産経営陣は、株主のやむにやまれぬ気持ちを真剣に受け止めてほしい。
(文=鈴木真人/写真=日産自動車、鈴木真人/編集=藤沢 勝)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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