BMW Z4 sDrive35is(FR/7AT)【試乗記】
最後の大輪 2010.10.04 試乗記 BMW Z4 sDrive35is(FR/7AT)……838万4000円
「Z4」シリーズに、新たに加わった肉食系モデル「sDrive35is」。340psと強心臓と「M Sports」のアシで武装した、その走りは……?
自動車メーカーの元気
「BMW Z4」はカッコいいクルマだ。いま日本で普通に買える自動車のなかで、1、2を争う……というには少々アクが強すぎるけれど、五指には入ると思う。2シータースポーツの古典的なプロポーション「ロングノーズ・ショートデッキ」をわかりやすく採りながら「フレイムサーフェス」と称される、ボディ表面の炎のようなうねりでもって十分に新しさを演出する。しっかり基本を押さえたうえでの新奇、それも2代目になってこなれた感がある。
初代のロードスターとクーペを統合した現行Z4は、屋根を開けても閉めていてもさまになる。20秒ほどでトランクに収納できるリトラクタブルトップは、2人乗りゆえの短いキャビン前後長を生かして、クローズド状態ではいかにもスポーティなルーフラインを形づくる。折りたたまれたトップを収納するトランクの天地が無粋に厚くなっていないのは、スポーツカーという、ある程度まで実用性を犠牲にできるわがままな車種の特権だろう。ただしルーフ収納時の荷室容量は決して広いとはいえないから、おしゃれなカップルの小旅行というよりは、取るモノもとりあえず駆け落ちしたふたり向け……という想像は、あまりに時代がかっているか。豊かなデザインをまとったBMW Z4は、どこか中年男の押し出しの強さを感じさせるクルマである。
試乗したのは肉食系モデルの最右翼「Z4 sDrive35is」。「is」の記号通り、ノーズに押し込まれた3リッター直6ターボは、「sDrive35i」のそれと比較して、34psと5.1kgm大きい340ps/5900rpmの最高出力と45.9kgm/1500rpmの最大トルクを発生する。これだけでも十二分の強心臓だが、さらにアクセルを一気に踏み込めば、一時的に過給圧を上げて51.0kgmまでトルクを太らせる。まさに究極の追い越し加速。バイエルンの発動機メーカーにとってエンジンのチューニングはお手のものだろうが、「オーバーブースト」という機構をアピールするあたり、いかにもクルマ好きの気持ちがわかっているというか、商売上手というか、なにはともあれ自動車メーカーの元気が感じられる。
迫力のダッシュ!
革張りの低いシートに座る。Z4 sDrive35isの室内は、黒とシルバーの、いわゆるスポーツカーの文法通りのインテリア。パネル類には、現代版ハンマートーンとでもいうべき模様が描かれる。目の前のハンドルには「M」の文字。sDrive35isには「M Sportsパッケージ」と呼ばれるセットオプションが標準で装備されるのだ。
前後の空力パーツ、スポーツシート、ハンドルはマルチファンクションタイプになり、さらにスペシャルホイール、スポーツサスペンション(アダプティブMサスペンション)などがおごられて、車両本体価格は815万円。40万円以上の装備がついてくるとはいえ、sDrive35iが695万円だから、なかなかのお値段である。ここはぜひ、is専用カラーの「メルボルンレッド」を選びたいところだ。さらにホイールも1インチアップして19インチのダブルスポークタイプにしたい……などと考えていくと、ますます高価になっていく。
Z4 35isは財布を軽くするクーペ/ロードスターだが、走りは軽くない。初代Z4ロードスターより14%ほど、200kgばかり重くなった1600kgのボディを約47%増し(!)のハイパワーで押し出す。3リッターターボは過給器付きエンジンの美点でわずか1500rpmで最大トルクを得ることができるから、35isはいきなり迫力あるダッシュを決める。1速で70km/hあたり、2速ですでに高速道路の法定速度に達する。骨太なストレート6と組み合わされる7段のダブルクラッチ式トランスミッションが余裕を持って大出力を後輪に伝える。滑らかなうえ、エンジンの魅力を薄めないすばらしい動力伝達装置である。
駆け続けていたい
この日の試乗車は、オプションの19インチを履いていた。タイヤは、前225/35、後255/30という薄いランフラットタイプだが、Z4 35isの高速巡航は、乗り心地も加速もスムーズ至極。アクセル操作に対する6気筒の反応は俊敏で、エンジンサウンド、排気音の盛り上げ方もお上手。35isの室内は、いつでも手綱を緩めてくれといわんばかりの雰囲気に満ちている。ドライバーをして、いかにもスポーツカーに乗っている気にさせる。駆け抜けるというより、いつまでも駆け続けていたいクルマである。
sDrive35isの100km/h巡航時は、トップギアでは2000rpm付近。すでに最大トルクの発生回転数を超えているから、あとはエンジンを回すだけ。タコメーターの針に合わせたかの、息の長い、怒濤(どとう)の加速を堪能できるはずだ。BMWによると、sDrive35isの0-100km/h加速は4.8秒というから、同加速5.1秒、3.4リッターNAのポルシェ・ケイマンS(7段PDK)を信号ダッシュで置き去りにすることもできる。それでいて、10・15モード燃費は9.9km/リッターとケイマンSの8.3km/リッターを上回るのだから、(ハイパフォーマンスカーとしては)立派なものだ。
華やかなスタイリングをもつZ4だが、最近のBMW車全体のデザインは、振り子が戻って落ち着いた方向へ向かいつつある。だからZ4の派手な格好は、自動車のデザインに一時代を築いたクリス・バングルの流れがいきついた最後の大輪……そんな風に感傷的に眺めると、また違った趣がある。
(文=細川 進/写真=D.A.)

細川 進
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