BMW 220dグランクーペMスポーツ(FF/7AT)
カーマニアも納得 2025.09.29 試乗記 「BMW 2シリーズ グランクーペ」がフルモデルチェンジ。新型を端的に表現するならば「正常進化」がふさわしい。絶妙なボディーサイズはそのままに、最新の装備類によって機能面では大幅なステップアップを果たしている。2リッターディーゼルモデルを試す。全幅1800mmがありがたい
ほぼ5年ぶりのフルチェンジとなった2シリーズ グランクーペは、DNAを共有する「1シリーズ」の最新型と同様、2670mmというホイールベースを含む骨格設計や、昔ながらのグラブバー式ドアアウターハンドル、そして上屋のアウターパネルの大半が先代から継承されている。口の悪い好事家は「ビッグマイナーチェンジ?」とツッコミをいれるかもしれないが、カーブドディスプレイや隠しデザイン空調吹き出し口、ツマミ型シフトセレクターなど、インテリアデザインは完全刷新。このグランクーペにかぎっては、シャープな造形になったトランクリッドや新しいテールランプに合わせたリアフェンダーなどは、パネルも新しい。
これがフルかビッグマイナーかはともかく、先代より全長で10mm、全高で5mm大きくなっただけで1800mmという全幅は変わらず、先々代の「3シリーズ(E90)」と同等のスリーサイズが維持された点は、日本市場では歓迎されるだろう。このサイズ感は日本の交通環境にドンピシャで、とくに全幅が1800mmのボーダーをぎりぎり守っている輸入4ドア車はもはや貴重な存在だからだ。
これと同じ全幅の「メルセデス・ベンツAクラス セダン」はすでに生産が終了。日本でも2025年5月に「ファイナルエディション」が出て、後継機種の計画もない。「アウディA3セダン」は2シリーズ グランクーペより全長は小さいが、全幅はボーダー超えの1815mmである。
4ドアといってもクーペを名乗る2シリーズは、先代同様のドアに窓枠のないスタイル重視派だ。後席は身長178cm胴長体形の筆者だと、普通には座れるが、頭上空間がタイト。また、ラゲッジルームのフロアが4ドア車としては高めなのは、床下のフロント側にマイルドハイブリッド用のリチウムイオン電池を積むからでもある。そのかわりに、パーティションとして使えるフロアボードなどの工夫が仕込まれている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
スムーズ&高効率&静かなパワートレイン
今回試乗した「220d Mスポーツ」は、日本で3種用意される2シリーズ グランクーペのラインナップの真ん中である。トップモデルの「M235 xDrive」が4WDなのに対して、220dは前輪駆動となる。
先代の「218dグランクーペ」と比較しても、エンジン単体の150PSという最高出力は変わらず、最大トルクも10N・m上乗せとなるだけだが、20PS、55N・mを発生する48Vマイルドハイブリッドが追加されたことで、車名末尾の数字が“20”に格上げとなった。さらに変速機がトルクコンバーター式の8段ATから7段DCTとなったのも、このクルマを含めた最新の1シリーズやFF系2シリーズのディーゼルモデルに共通する変更点だ。
……といった内容をもつ新パワートレインの完成度はとても高い。この種のハイチューン型ディーゼルだと、中低速トルクが強力ないっぽうで、アクセルを踏み込んだ瞬間のラグは大きくなりがちだったりする。しかし、この220dはマイルドハイブリッド機構による加速アシストに加えて、可変ジオメトリーターボなどのエンジン本体側の改良もあってか、その加速特性は、アクセルペダルの踏みはじめから右足に吸いつくようにリニアだ。新しい7段DCTも変速のスムーズさでは従来の8段ATに大きく負けていない。
先代にあたる218dグランクーペに対して、体感的な動力性能では大きな差は感じないが、柔軟性やマナーがこれだけ向上したうえに、WLTCモードのカタログ燃費も2割以上改善(218dは17.1km/リッターだった)しているのだから文句なし。また、車外で聞くエンジン音はけっこう勇ましいが、車内では明らかに静かにもなっている。
シャシー性能も一級品
トップモデルがMパフォーマンスモデル=M235 xDriveになるのは近年のBMWのお約束だが、それ以外の2機種も日本仕様は「Mスポーツ」に統一された。ということはつまり、周波数感応式パッシブ可変ダンパーの「アダプティブMサスペンション」を含むスポーツサスペンションや、シフトパドルを長引きすると10秒間だけパワーが上がる「ブースト」機能は、今回の試乗車にも標準装備となる。
かつてのドライブモードにあたる「マイモード」で用意される選択肢は、今回の試乗車では、デフォルトの「パーソナル」、そしておなじみの「スポーツ」と「エフィシエンシー」の3つだった。「エクスプレッシブ」や「デジタルアート」「ビビッド」「サイレント」など、斬新な選択肢は、サブスクサービスの「BMWデジタルプレミアム」を選ぶと追加されるとか。
3つのマイモードのどれを選んでも、乗り味の面で変わるのは、パワトレとパワステ、そして横滑り防止装置のセッティングのみ。ダンパーは前記のとおり、あくまで走行状況に応じてのメカニカル可変となる。
そんなシャシーの味わいは、車体形式以外のハードウエアを共有する「120d Mスポーツ」とほぼ選ぶところはない。まあ、2台ならべて試乗すれば、静粛性や乗り心地、リアの安定感で、グランクーペがわずかに有利なのが理屈だろうが、実際には特筆するほどの差はない。その120d Mスポーツの試乗記(参照)で生方さんが「硬め」と評したとおり、その乗り心地は総じて引き締まった印象ではある。
……と、あくまで硬めのスポーツ志向シャシーではあることを前提とすると、ハードウエアの基本設計はそのままに改良・熟成を重ねただけあって、シャシーもパワートレインに輪をかけて完成度が高い。荒れた路面での突き上げは少しばかり強めでも、ドライバーの目線が揺すられるわけではないので不快感はない。さらにステアリングがすこぶるタイトで正確なのも印象的だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
渋滞時のハンズオフも可能に
このように、新しい220dグランクーペは目線が上下しないフラットライド、クリッピングポイントを正確に突き刺せるステアリング、そしてリニアなパワートレインが美点となる。そのおかげもあって、少しばかり硬めの乗り心地もカーマニアなら十分に許容範囲だろう。
さらに先進運転支援システム(いわゆるADAS)も今回から最新タイプとなり、先代にはなかった「ハンズオフ機能付きの渋滞運転支援機能」も用意される(220dではオプション)。今回の試乗中には東名高速の横浜青葉インターから首都高速の大橋ジャンクションまで、20km以上の大渋滞に巻き込まれるというラッキー(?)に恵まれたが、(途中の用賀料金所付近以外は)ほぼハンズオフ(にしてフット操作も完全オフ)で移動できた。まあ、近年では当たり前の機能ではあるが、このレベルの“半自動運転”が量産エントリーモデルに普通につく時代になったことに、あらためて驚く。
また、先日のM235 xDriveの試乗記(参照)でも触れたが、2シリーズ グランクーペはインフォテインメントシステムが最新の「OS9」となったことで、「Apple CarPlay」に加えて「Android Auto」も正式に使えるようになった。もちろん、本国では以前からどちらにも対応していたのだが、これまではワイヤレス接続用の電波が、日本の電波法に引っかかっていたのが理由とか。いずれにしても、日本では少数派のAndroidユーザー(筆者を含む)には朗報だ。
新しい2シリーズ グランクーペは、驚くような新機軸はないものの、先代までのネガの多くを確実に解消している。乗り味の面でも「FRでなければBMWとは認めない」といわれればそれまでだが、FF車としてはステアリングフィールは文句なし。これほどのデキなら、過剰に速くはないけど心地よいスポーツコンパクトセダン(これは厳密には4ドアハードトップだけど)として好ましく受け取る向きは、口うるさいカーマニアも含めて少なくないと思う。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=BMWジャパン)
テスト車のデータ
BMW 220dグランクーペMスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4550×1800×1435mm
ホイールベース:2670mm
車重:1560kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:150PS(110kW)/4000rpm
エンジン最大トルク:360N・m(36.7kgf・m)/1500-2500rpm
モーター最高出力:20PS(15kW)/5500rpm
モーター最大トルク:55N・m(5.6kgf・m)/0-2000rpm
システム最高出力:163PS(120kW)
システム最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)
タイヤ:(前)225/45R18 95Y XL/(後)225/45R18 95Y XL(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック6)
燃費:21.1km/リッター(WLTCモード)
価格:548万円/テスト車:617万2000円
オプション装備:ボディーカラー<サンダーナイト>(0円)/テクノロジーパッケージ(31万3000円)/ハイラインパッケージ(20万6000円)/電動パノラマガラスサンルーフ(17万3000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1336km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:541.1km
使用燃料:31.9リッター(軽油)
参考燃費:17.0km/リッター(満タン法)/17.1km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
レクサスRZ350e(FWD)/RZ550e(4WD)/RZ600e(4WD)【試乗記】 2025.12.24 「レクサスRZ」のマイナーチェンジモデルが登場。その改良幅は生半可なレベルではなく、電池やモーターをはじめとした電気自動車としての主要コンポーネンツをごっそりと入れ替えての出直しだ。サーキットと一般道での印象をリポートする。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(FF)【試乗記】 2025.12.23 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」に新グレードの「RS」が登場。スポーティーなモデルにのみ与えられてきたホンダ伝統のネーミングだが、果たしてその仕上がりはどうか。FWDモデルの仕上がりをリポートする。
-
メルセデス・ベンツGLA200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.12.22 メルセデス・ベンツのコンパクトSUV「GLA」に、充実装備の「アーバンスターズ」が登場。現行GLAとしは、恐らくこれが最終型。まさに集大成となるのだろうが、その仕上がりはどれほどのものか? ディーゼル四駆の「GLA200d 4MATIC」で確かめた。
-
フォルクスワーゲンTロックTDI 4MOTION Rライン ブラックスタイル(4WD/7AT)【試乗記】 2025.12.20 冬の九州・宮崎で、アップデートされた最新世代のディーゼルターボエンジン「2.0 TDI」を積む「フォルクスワーゲンTロック」に試乗。混雑する市街地やアップダウンの激しい海沿いのワインディングロード、そして高速道路まで、南国の地を巡った走りの印象と燃費を報告する。
-
フェラーリ・アマルフィ(FR/8AT)【海外試乗記】 2025.12.19 フェラーリが「グランドツアラーを進化させたスポーツカー」とアピールする、新型FRモデル「アマルフィ」。見た目は先代にあたる「ローマ」とよく似ているが、肝心の中身はどうか? ポルトガルでの初乗りの印象を報告する。
-
NEW
第942回:「デメオ劇場」は続いていた! 前ルノーCEOの功績と近況
2025.12.25マッキナ あらモーダ!長年にわたり欧州の自動車メーカーで辣腕(らつわん)を振るい、2025年9月に高級ブランドグループのCEOに転身したルカ・デメオ氏。読者諸氏のあいだでも親しまれていたであろう重鎮の近況を、ルノー時代の功績とともに、欧州在住の大矢アキオ氏が解説する。 -
NEW
スバリストが心をつかまれて離れない理由 「フォレスター」の安全機能を体感
2025.12.25デイリーコラム「2025-2026 日本カー・オブ・ザ・イヤー」に選出された「スバル・フォレスター」。走り、実用性、快適性、悪路走破性、そして高い安全性が評価されたというが、あらためてその安全性にフォーカスし、スバルの取り組みに迫ってみた。 -
NEW
フォルクスワーゲンID. Buzzプロ ロングホイールベース(後編)
2025.12.25あの多田哲哉の自動車放談ありそうでなかった、ミニバンタイプの電気自動車「フォルクスワーゲンID. Buzz」。ようやく日本の道を走り始めた実車に触れて、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんは、どんなことを感じたのか? -
レクサスRZ350e(FWD)/RZ550e(4WD)/RZ600e(4WD)【試乗記】
2025.12.24試乗記「レクサスRZ」のマイナーチェンジモデルが登場。その改良幅は生半可なレベルではなく、電池やモーターをはじめとした電気自動車としての主要コンポーネンツをごっそりと入れ替えての出直しだ。サーキットと一般道での印象をリポートする。 -
病院で出会った天使に感謝 今尾直樹の私的10大ニュース2025
2025.12.24デイリーコラム旧車にも新車にも感動した2025年。思いもかけぬことから電気自動車の未来に不安を覚えた2025年。病院で出会った天使に「人生捨てたもんじゃない」と思った2025年。そしてあらためてトヨタのすごさを思い知った2025年。今尾直樹が私的10大ニュースを発表! -
第97回:僕たちはいつからマツダのコンセプトカーに冷めてしまったのか
2025.12.24カーデザイン曼荼羅2台のコンセプトモデルを通し、いよいよ未来の「魂動デザイン」を見せてくれたマツダ。しかしイマイチ、私たちは以前のようには興奮できないのである。あまりに美しいマツダのショーカーに、私たちが冷めてしまった理由とは? カーデザインの識者と考えた。





















































