航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10 デイリーコラム急速に進化する世界のBEV
登録車としては世界初の量産電気自動車(BEV)として、2010年に登場した「日産リーフ」。15年間の累計販売台数は約70万台(うち日本向け17万台)で、総走行距離は280億kmにもおよぶ。このほど3代目が登場したが、量産BEVが3代続くのも、また世界初のことだ。
思い起こせば、初代リーフは世界に先駆けた存在であり、ハイブリッドカーに続いてBEVでも日本メーカーが世界をリードするかと思われた。しかし、今日はそうとも言えない状況にある。新興メーカーだったテスラは大きく飛躍。ここ最近は欧州メーカーもBEVへ本腰を入れ、中国勢や韓国勢もとんでもない進化のスピードを見せている。日本メーカーはBEVが本格的に普及するのはまだ先だろうと高をくくっていた感が強く、エンジン車の延長線ぐらいにしか考えていなかったように思う。実際、まだBEVは本格普及に至っていないので、その読みは間違っていなかったのだが、世界のライバルはゲームチェンジを狙って想像以上に本気なのだ。
実際、2017年に登場した2代目リーフのスペックを見れば、この8年ですっかり物足りなくなってしまった。WLTCモードの電費は、車両重量1670kgの「e+ X」で161Wh/km。車両重量1750kgの「BYD ATTO 3」は139Wh/kmで、車両重量1780kgの「テスラ・モデル3」は123Wh/kmとなっている。ハイブリッドカーはもちろん、純エンジン車でも日本車が燃費で海外のメーカーに負けるなんてあり得なかったが、BEVでは状況が違うのだ。
その理由のひとつが、パワー半導体。モデル3が採用して話題になったSiC(シリコンカーバイト)半導体は、従来のSi(シリコン)半導体よりエネルギーロスを80%削減でき、電費を5~10%ほど改善する効果があるといわれている。加速力の強化や急速充電対応などでも有利だ。BYDも積極的にSiC半導体を採用しており、次世代モデル向けに自社開発。出力1000kWでの急速充電を可能にしたという。
これまでとは力の入りようが違う
リーフの生い立ちをひも解くと、当時の日本ではトヨタとホンダのハイブリッドカーが人気で、乗用車の中心的存在になりつつあった。当時ハイブリッドカーを持っていなかった日産は、一段抜かしで階段を駆け上がってリードを奪うべく、BEVを開発。拡販が期待できるCセグメントのハッチバックとしたことに、「トヨタ・プリウス」への対抗心が見え隠れしていた。だがもくろみどおりにはいかず、初代リーフの販売は不振。2代目は今度こそ普及させるべく一充電走行距離の拡大に腐心し、「eペダル」などの新機軸も取り入れていったが、同時に価格上昇をきらってコスト削減にも力を入れた。ハードウエアの多くはキャリーオーバーで、性能が大幅に進化したわけではなかったのだ。
こうした流れもあってか、3代目となる新型は、3度目の正直と言わんばかりに本腰の入った内容になっている。わかりやすいのがプラットフォームで、新たにBEV専用の「CMF-EV」を採用。これまではエンジン車用プラットフォームをベースにしたものを15年にわたり使い続けてきたが、ようやく一新された。一回り大きい「アリア」と同様のプラットフォームだから、リーフには余裕がありそうだ。
バッテリーは2007年に日産とNECの合弁として発足したオートモーティブエナジーサプライから引き続き供給される。同社は2019年に中国エンビジョングループの傘下となり、現在はAESCという社名となっているが、リーフの心臓部を支えていることにかわりはない。
そのバッテリーは、2代目リーフでは第4世代だったが、新型では第5世代となっている。重量あたりのエネルギー密度は17%高まり、さらにビッグモジュール化を果たしてスペース効率も改善している。2代目ではプラットフォームがエンジン車用のものをベースにしていたので、その形状に合わせてバッテリーを詰め込むべく、サイズ違いの細かいモジュールを3タイプ用意。40モジュール近くを搭載して、ようやく60kWh(e+)の容量を実現していた。それが新型では、1タイプ4モジュールの「B5」仕様で55kWh、そこに違うタイプのモジュールを追加して2タイプ5モジュールとした「B7」仕様で78kWhとなった。ホイールベースは従来と変わらないが、専用プラットフォームの搭載性と新世代バッテリーセルによって、30%の容量増大が図れたのだ。24kWhだった初代と比べると、じつに3倍以上に増えている。
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SDVの分野ではまだ一歩譲るものの……
日本仕様の電費性能を見ても、B7 Xでは130Wh/km、B7 Gでは133Wh/kmへと改善。一充電走行距離も前者で702kmに達している(いずれもWLTCモード計測値)。これならBEVとしての性能も世界トップレベルと言えるだろう。くだんのSiC半導体に関しては、リーフをアフォーダブルに提供するために今回も採用は見送られたが、その他の努力でこれほどの電費改善を実現できたのだ。
一番の見どころは、徹底した熱マネジメントだ。2代目は空調システムとバッテリー、パワートレイン(モーター、車載充電器、ラジエーター)の冷熱システムがそれぞれ独立しており、たとえば冬には、「車内を暖めるために電気で熱をつくるいっぽうで、バッテリーやモーターが発する熱は別途冷却する」といったように、余計なエネルギーを使っていたのだ。そこで2021年登場のアリアでは、空調システムとバッテリーを統合することで効率化を図ったが、新型リーフではすべての熱管理を統合。今まで大気放出していた熱を回収し、空調などに生かし切るシステムを実現した。もったいない精神でわずかな熱も回収し、クルマ全体のエネルギー効率を向上させたのだ。また空力性能を高めたのも電費改善の大きなポイントだ。
他方で、いまどきは「SDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)」もクルマづくりの話題であり、クルマの頭脳と神経の役割を果たすE/E(電気/電子)アーキテクチャーは、ECUを少数に集約させるのが次世代の主流だ。テスラやBYDはすでにそれに取り組んでいて、携帯電話のように広範な機能の通信アップデート(OTA)を可能にしている。対してリーフは、そこまでには至っておらず、従来型のアーキテクチャーのままだ。インフォテインメント系などはOTAができるようだが、走行にかかわる部分はまだ可能となっていない。日産でも次世代アーキテクチャーの開発に取り組んでいるが、市販車への採用はもうしばらくかかりそうだ。
とはいえ、走行性能や電費性能、充電性能、加えてインフォテインメントシステムや先進運転支援システムの機能などは、海外のライバルに見劣りすることはなくなった。新型リーフは、ユーザー目線でいえばテスラやBYDに追いついたと言っていいだろう。
(文=石井昌道/写真=webCG、日産自動車/編集=堀田剛資)
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石井 昌道
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