デビューから12年でさらなる改良モデルが登場! 3代目「レクサスIS」の“熟れ具合”を検証する
2025.10.27 デイリーコラム求めたのは“実のある”リファイン
2013年にデビューした3代目レクサスISは異例の長寿モデルとなっている。モデルライフは初代が6年、2代目は8年のところ、すでに12年。ほどよく4代目に移行するタイミングの2020年に新型が登場したが、フルモデルチェンジではなく、プラットフォームをキャリーオーバーしてのビッグマイナーチェンジだった。
これは、すでにセダン離れが顕著になっていたからコストをかけられず、やむなしの判断だろうといわれていた。2018年デビューの15代目「クラウン」が新しいGA-Lプラットフォームを使っていたのだから、そう思われても当然だろう。
だが、レクサスの説明は違っていた。GA-Lを採用すると想定よりも重量増となってしまうからだという。GA-Lはレクサスの大型車である「LC」や「LS」に向けて開発されたもので、クラウンでは軽量化を施したナロー版を使用したが、ボディーサイズのわりに重量がかさみ、ISに比べるとざっくり100~200kg重かった。それでも当時試乗したときには、ニュルブルクリンクで鍛え上げたと自慢するだけあって走りはずいぶんとスポーティーで、次のISもこれを使いレクサスのクオリティーで仕上げればもっと良くなるだろうにと思ったものだ。
ところが、ISはGA-Lを使わずビッグマイナーチェンジにとどめたにもかかわらず、想像よりもずっといい仕上がりだった。「サイドラジエーターサポートの補強」「フロントサイドメンバーのスポット打点追加」「Cピラーからルーフサイドに向けての構造最適化」などでボディー剛性を向上。ホイールの締結にはハブボルトを使用。そしてスイングバルブショックアブソーバーの採用。これらが、シャシーにおける走りの進化ポイントとなる。
なかでも効果てきめんで大鉈(なた)を振るったと思われるのがホイールの締結だ。日本車で一般的なのはナット式だが、欧州車のようにボルト式に変えることで締結剛性の強化が図れる。日本のメーカーもそれは承知だが、ナット式のほうがホイールをはめるときの位置決めがしやすくメンテナンスが楽というメリットがあり、生産設備に手を入れてまで変えるほどではないという判断が下されている。レクサスはそこに目をつけたというわけだ。ISでは締め付けトルクが約20%向上して締結剛性を高めるとともにバネ下重量の削減も果たせたことで、走りの性能とフィーリングを大いに向上させた。
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熟成作業はまだまだ続く
ホイール締結方法の違いをじかに感じる機会はなかなかないものだが、以前にホンダが開発スタディーとして「CR-V」をボルト式に換装した試作車に、ノーマルのナット式と比較しつつ試乗したことがある。
その差は想像以上。テストコースのハンドリング路でナット式からボルト式に乗り換えるとステアリングの切り始めから反応が良く、切り増していったときのビルドアップも手応えが違った。同じコーナーを同じように走らせると舵角が少なく、アンダーステアが減って速くもなっていたのだ。同様の効果をサスペンションのセッティングで導き出そうとするのは大変なうえに、乗り心地が悪化するなど何らかの悪影響がありそうなものだが、ホイールの締結方法を変えるだけでここまで良くなることに、目からうろこが落ちた思いだった。
クルマを進化させるには、電子制御の飛び道具などを使うだけではなく、こういったベーシックなところにも工夫する余地がまだまだある。それでも日本のメーカーの多くが尻込みしているなかでレクサスが好判断を下したことをうれしく思うし、実際に、2020年のビッグマイナーチェンジ以降のISのハンドリングはすこぶる良くなっているのである。
この仕事をしていると、プラットフォームやパワートレインが新規開発されたモデルのほうが取材のしがいがあったりするものだが、キャリーオーバーしながらコツコツと手を入れた結果、いいクルマに仕上がっているケースに出会うと、それはそれで心が躍る。クルマづくりにおける熟成という手法に滋味深さを感じるからだ。
2026年初頭からは再度のビッグマイナーチェンジを受けたISがデリバリー開始となるという(関連記事)。BEVシフトを考慮すると、エンジン搭載車のプラットフォームを新たに開発するか否かは悩ましく、その影響による延命かもしれない。ISの仮想的である「BMW 3シリーズ」も現行のG20型は異例となる2度のLCI(Life Cycle Impulse=マイナーチェンジ)を行っているのも同じ理由だろう。だが、そんなことは関係なしに、個人的な興味は熟成によってクルマはどこまで良くなるのかにある。ISにはそんな深淵(しんえん)なテーマを追求し尽くしてもらいたいものだ。
(文=石井昌道/写真=トヨタ自動車、荒川正幸/編集=関 顕也)
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石井 昌道
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