新型「デリカミニ」の開発者に聞くこだわりと三菱DNAの継承
2026.01.06 デイリーコラム思い切った決断の成功
新型「三菱デリカミニ」の試乗(参照)を終えると、別会場に案内された。そこに置かれていたのは、ビッグマイナーチェンジが発表された「三菱デリカD:5」(参照)。デリカミニはかわいらしさとタフネスが好評なのだが、その兄貴分である。弟とは違い、こちらは力強さと剛健なたたずまいが身上だ。この2台をセットで三菱自動車の顔としてアピールするという狙いなのだろう。
2023年4月にデビューした初代デリカミニは、実質的には「eKクロス スペース」の後継車である。三菱の軽乗用車はハイトワゴンの「eKワゴン」と「eKクロス」、スーパーハイトワゴンの「eKスペース」もあるが、1台だけが変わるという変則的なモデルチェンジだった。eKクロス スペースは販売面で苦戦していたようで、テコ入れ策として浮上したのがデリカの名前を使った知名度アップ作戦だ。
デリカD:5は2007年に登場し、本格的な悪路走破性能を持つミニバンという他メーカーにはない特徴で高い評価を受けてきた。孤高の存在であるがゆえの困難があったことも事実である。熱狂的な支持を受けながらも、顧客層に広がりを持たなかった。控えめで端正な顔つきも、ギラギラした華やかさやマッチョなルックスを好む主流のユーザーには物足りなく感じられたのだろう。
2019年に大胆なフェイスリフトが行われ、三菱が打ち出すデザインアイデンティティーのダイナミックシールドを採用し、派手さとガッツをわかりやすく表現した。従来のユーザーからは猛反発を受けたが、一般には広く受け入れられて販売成績は上向きに。思い切った決断は成功したのだ。
晴れてデリカは三菱を代表するイメージリーダーとなる。かつては「パジェロ」が担った役割を引き継いだといっていい。アウトドア志向の軽自動車「パジェロミニ」があったのだから、デリカミニが登場するのは必然だった。SUV風の外観を持つ軽スーパーハイトワゴンはすでに「スズキ・スペーシア ギア」「ダイハツ・タント ファンクロス」が人気となっていたが、デリカミニは大きな期待をもってマーケットに迎え入れられたのだ。
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悪路走破性能の向上は外せない
初代デリカミニもライバルより高いオフロード性能をうたっていたが、新型ではさらに進化させたという。共同開発した日産の「ルークス」とは異なるサスペンションチューニングを施したうえに、ドライブモードに「GRAVEL(グラベル)」「SNOW(スノー)」を加えたことで悪路への対応力を高めた。具体的にはナックルやスタビライザーを含むサスペンションの基本形式はルークスと共通で、ショックアブソーバーの減衰力が三菱のオリジナルだ。
それだけで大きな違いを出せるのかと疑念を抱くかもしれないが、心配は無用だ。チューニングを担当したエンジニアは「トライトン」や「アウトランダー」の足まわりも手がけていて、オンロードと同じ乗り心地でオフロードも走れるようにデリカミニを仕立てたと言い切る。
一方、デリカD:5のリニューアルはうわべだけのものではない。内外装のデザインは、ギア感を強調することを意図して大きく変えた。従来のモデルは都会的な要素が強すぎたという反省に立ち、力強さと走破性の高さを印象づけることをもくろむ。
スタイリングが変わったのは、走りが進化したことの反映でもある。技術面では車両運動統合制御システム「S-AWC(Super-All Wheel Control)」の搭載が最大のトピックだ。4輪の駆動力・制動力を最適制御して操縦性と安定性を高めるという。4つのドライブモード(NORMAL/ECO/GRAVEL/SNOW)とヒルディセントコントロールも採用した。
デリカD:5とデリカミニで、三菱は未来に向けていかなる構想をみせようとしているのか。2モデルの商品戦略を担当した平山敦朗さんに話を聞いた。
「ブランドメッセージで“Drive your Ambition”と言っていますけど、開発としては環境×安全・安心・快適という目線でクルマを仕上げています。デリカD:5は悪路走破性能が高いワンボックスとして唯一無二の存在になって、お客さまから高評価をいただいていると思うんですね。デリカミニもデリカを名乗っていますから、そこは同じ。もともと持っているしっかりした走りや広い居住スペースはもちろん絶対キープしていきたいという思いがありました。それが三菱の四駆の提案でもありますし、デリカの提案でもあります」
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デリカミニの開発キーワードは「気軽」
デリカD:5は三菱の独自モデルだが、デリカミニは日産とNMKVで共同開発しなければならない。制約や困難はなかったのだろうか。
「先代はビッグマイナーという位置づけで、やれることが限定的でした。今回はデリカのテイストをどのくらい入れ込むのかといった要望を、企画の早いタイミングで出しています。アライアンスですからそれぞれの会社の考え方や方向性が違っているのは当然ですね。日産の設計部隊に三菱のテストコースでわれわれがセットアップしたクルマに乗ってもらい、こういう感じにしたい、量産するにはどうしたらいいか、といったことを話し合いました。日産には日産なりのプロダクトアウトがあるだろうし、われわれはデリカをつくり上げるんです」
デリカD:5とデリカミニに共通するキャラクターは、三菱が掲げる“デイリーアドベンチャー”という言葉に表れている。
「実際には悪路には行かなくても、普段の街なかや高速道路でもワクワクが感じられるように仕上げてきたつもりです。高いポテンシャルがあることで、日常の領域で安全や安心を余裕で感じていただける。デリカミニは日常から少しだけ踏み出す。大きくジャンプアップできるのがお兄ちゃんのデリカD:5なんです」
軽自動車全体の商品企画を担当する塩谷明大さんは、キーワードは「気軽」だったと語る。
「デリカD:5をそのまま小さくすればデリカミニになるのではありません。幅広いお客さまが使われるので、日常のさまざまな場面で使い勝手がよくなければならない。ただ、デリカを名乗るからには足まわりもチューニングしていく。オフロードをウリにするという考えではなくて、今まではためらっていたちょっと路面状況が悪いところにも行ける。カメラ機能を充実させたので、運転は苦手だけれど行ってみようかなとか、そういう気持ちを後押しするクルマでありたいんです。十分な性能を持っているから、気軽に冒険することができますよね」
1990年代にパジェロが大人気だったころは、タフでゴツいことが正義とされていた。今はSUVと称するモデルも、悪路を走ることを想定していないモデルが多数派になっている。デリカD:5やデリカミニのユーザーも、実際にオフロードに出かけることはまれだろう。それでも、心に冒険を秘めて走ることには高揚感と喜びがある。かつて「ジープ」をライセンス生産しパジェロを生み出した三菱のDNAを、新しい時代に合わせて受け継いだのがデリカ兄弟なのだ。
(文=鈴木真人/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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