【番外編】バイパー、磐越を駆ける
2026.01.27 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして 拡大 |
webCG編集部員が、排気量8リッターの怪物「ダッジ・バイパー」で福島・新潟を縦走! 雄大な吾妻連峰や朋友との酒席で思った、自動車&自動車評論へのふとしたギモンとは。下手の考え休むに似たり? 自動車メディアの悩める子羊が、深秋の磐越を駆ける。
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久々の奇襲攻撃
今さらだけど、旧年の話をしたいと思う。
2025年10月某日の昼前のこと。記者は途方に暮れていた。バイパーのリモコンキーが利かなくなったのだ。お世話になっている主治医に電話したところ「その症状は電池切れですね」。しかるに道の駅の売店にボタン電池はなく、最寄りのコンビニは7.2km先である。記者は胸裏でバイパーに語りかけた。やってくれたな、お前。久々に。
電気モノだし、何年かに一度、キーの電池が切れるのは仕方ない。しかし、よりによってこんなときに、こんな救いのない場所で切れることはないだろう。さすがはわが相方、オーナーへの悪意に情け容赦がない。
現在、記者がいるのは福島県の「道の駅つちゆ つちゆロードパーク」である。土湯バイパスと本宮土湯温泉線のクロスポイントに位置する、実に景勝な道の駅だ。なんでそんなところにいるかといえば、毎年恒例、10月の年休消化で福島・新潟をめぐろうと思ったからだった。
それにしても、電装のトラブルとは厄介なものである。音振や臭い、計器の表示などで察知できるメカ系の不調と違い、なんの前触れもなくやってくる。実際この日も、この直前まで、バイパーはずっとゴキゲンだった。朝の始動は一発で決まり、深秋の澄んだ空気でエンジンも快調好調(まぁインジェクションなんでプラシーボ効果でしょうが)。換えて半年のミシュランは依然として若々しく、乗り心地も快適至極だった。いつもは顔を出す謎の異音、ハンドルの違和感なども一切なく、「お前、ついに心を入れ替えたか?」と感動しながら、二本松でホルモンを食べていたのだ。それからわずか1時間。記者はこうして、道の駅で天を仰いでいる。ほとほと、電装品というのは厄介この上ない。
……いや、そんな主語をデカくする必要はないな。リモコンキーに電池残量のインジケーターをひとつ仕込んどけば、こと足りる話ではないか。そういうところは抜けているくせに、頼んでもいない先進装備ばかり盛ってくるんだよなぁ、新しいクルマって。本当、自動車の進化ってなんなんだろうな。……と、元「Mini」乗りは2000年製造のハイテクマシン(笑)に毒づいたのだった。
バイパー、磐梯吾妻スカイラインをゆく
自動車の進化から性悪バイパーに話を戻すと、リモコンキーは30分ほど放っておいたら、なんか復活した。まともな神経なら「お前、電池切れてたんじゃないの?」と不気味に思うところだろうが、こういうのはわがバイパーではあるあるなので、無問題。それでも一応、コンビニに寄り道してボタン電池を買い、サイフに突っ込んで予備とした。
道草から本来の旅程へと戻るべく、来た道をいそいそリターン。ようやっと道の駅つちゆまで戻ったら、あえて国道ではなくグネグネした本宮土湯温泉線へと舳先(へさき)を向けた。人生、楽な道より面白そうな道よ。木々の間に空がのぞく山坂道をひた走り、幕川温泉の分岐をやり過ごしたら、その先はいよいよ磐梯吾妻スカイラインだ。「日本の道100選」にも選ばれるこの名道、さるバイパー乗りから素晴らしさを聞いて以来、ずっと走りたかったのだ。その実はまさに絶景・佳景のつづら折れ。記者は展望台に出くわすたびにバイパーを止め、スマホが発火するほど山と紅葉を撮りまくった。
双竜の辻を越え、道が北へと進路を変えると、この日の主目的地の旗印が見えてくる。一切経山である。平日なのに浄土平はなかなかの混みようで、駐車場に入るのに10~15分はかかった。しかしそれも、この絶景を思えばむべなるかな。しかも空には晴れ間が広がり、紅葉が実に映える。記者は功徳を積んでいただろう前世の自分に感謝し、トレッキングシューズを持参しなかった現世の己を呪(のろ)った。山へと向かう人々の姿に散策好きのココロがうずくが、いかに道が整備されていようと、靴もナシでの山歩きは厳禁。せめて湿原の遊歩道をぶらぶらし、吾妻小富士をぐるっとめぐって満足することにした。
浄土平を出てからも、磐梯吾妻スカイラインはひたすらに風光明媚(めいび)で、遠景を眺めて走る山道が実に気持ちよかった。途中、「高湯温泉共同浴場 あったか湯」でひとっ風呂浴び、果樹園の直売所から梨とリンゴを実家に送る。記者の育った千葉県も梨の名産地ではあるが、品種の違いか環境の違いか、この時期にいただく梨の甘さは福島に譲るかなと感じ入った。千葉の果樹園の皆さまも、ぜひガンバってください。
進化の袋小路に陥った評論コンテンツを思う
福島市内の激安ビジホで一泊し、気分も晴れやかに2日目をスタート。この日は国道115号&459号と走って喜多方でラーメンを飲み下し、ひきつづきの459号および49号で阿賀野川沿いの治水施設を鑑賞。目的地の新潟に至る予定である。当初は裏磐梯で五色沼でも散策するかと思っていたが、足にたまる前日の疲れに、スルーせざるをえなかった。次はもう少し、あんばいを考えて計画を組もう。
それはさておきラーメンだ。喜多方といえば「坂内食堂」を筆頭に名の知れた店が数多く存在するが、記者は街を一巡して「来夢」を選択。理由はそのときすいていたのと、駐車場が広くてバイパーを止めやすかったからだ。食にこだわりがあるんだかないんだか。そして着席・着丼までの待ち時間を、スマホでワイヤレスイヤホンの試聴記を物色してつぶした。
メルマガ『webCG通信』のコラムでも触れたのだが、実は記者は、この旅の前にワイヤレスイヤホンを遺失していた。三鷹駅で頭がフラッときた拍子に、ホームから落としてしまったのだ。以来、次期主力機をどうしようかと、ガジェットや音響機器系のメディアを読みあさっていたのだ。そして思ったのである。なにが書いてあるか、ぜんぜんわからん! 音の輪郭や解像度ってのはギリわかるが、空間表現ってどゆこと? 温度感ってナニ? 音場? 肉感? バスク語で書いてあんのか、コレ??
それで結局どうしたかというと、浅学の記者は高尚なる批評の解読を断念。前のはソニー製だったし、同社から出る後継品を待てばいいやと考えるのをやめたのだ。それどころか、果てはそのブランド縛り(?)すら放棄。ヨドバシで誘われるままにビクターの新製品を試聴し、そのまま衝動買い(厳密には衝動予約)してしまったのである。普段、別の畑で評論の発信に従事している者として、自嘲を禁じ得ない結末であった。
しかし同時に思ったのだ。世間一般の消費行動って、こんなもんじゃないの? 言の葉が実体験に勝ることってあるのか。実際の購入で役立ててもらえる機会って、どのくらいあるのだろう。
記事の中身にしてもそうで、記者にとってガジェット系の批評が難解なのと同じように、一般の方からしたら、クルマの試乗記もチンプンカンプンだろう。ステアフィールだとか乗り心地のカドだとか、スロットルやブレーキのリニアリティーだとか、冷静に考えたらイースター島の古語ぐらい意味不明だ。ササしか食わんパンダじゃあるまいし、こんな進化の袋小路に陥った評論コンテンツって、正直、どうなんでしょうね。
……最近は、ビクターのウッドマスターを耳に突っ込みながら、かような自問でモンモンとして日々を送っている。下手の考え休むに似たり。読者諸氏の皆さまも、あんまり考えすぎるのは、考えものですよ。
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“新車縛り”から突然の宗旨替え
一ノ戸川橋梁や鹿瀬ダム、揚川ダムなどを写真に収めながら、阿賀野川沿いをひたすら下る。鹿瀬ダムあたりで降り始めた雨は、新潟に着いてほどなく本降りとなり、記者の嘆息を誘った。井上陽水じゃないけれど、こちとらカサがないんだよ。宿の駐車場にバイパーを止めた記者は、お天道さまに呪詛(じゅそ)を吐きつつ、J氏指定の居酒屋に向かった。J氏というのは、かつてわがバイパーのバッテリーを上げてしまった、うっかり八兵衛なビーエム乗りだ(第27回参照)。今回の旅は、当時よんどころない事情で新潟にいた、朋友に会いに行くものでもあったのだ。
さて。ともにクルマが趣味とくれば酒の肴もそっちになるわけで、記者はこれを機に、かねての疑問をJ氏に尋ねてみた。「アンタ、なんで『130i』なんて買ったの?」 J氏のところは夫婦そろってクルマ好きで、3年ほどでコンスタントに新車を乗り継ぐという、金持ちのみに許された(それでいて、実は存外コスパに優れる)カーライフを送っていた。それが突然、2007年だか2008年だかの「BMW 130i Mスポーツ」、それもMTを買い足したのだ。記者でなくとも疑問に思うのが自然だろう。
氏の回答は、おおむね以下のとおりだった。
(1)夫婦でクルマに乗るし、子供も免許を取る年になったので、セカンドカーを買おうとなった。
(2)今の主力機がSUVなので、背の低いクルマが欲しかった。
(3)進化を続ける昨今のクルマに、なんか納得いかなくなった。
(3)の回答に、記者は大いに戸惑った。そりゃ(1)の回答も独身の身にはショックだが、オートライトに慣れすぎてバイパーのランプを切り忘れるような御仁から、(3)のごとき意見を聞くとは思わなかったのだ。
まぁ最近は、コネクテッドだとかAIだとかSDVだとか、かまびすしいもんね……と知ったかぶったところ、それもあるけど、とJ氏は語った。氏が新しいクルマに冷めた本当の理由は、実際にはコンピューターで操作されているクルマに乗っていて、なにが「運転の楽しさ」なのか? という哲学的疑念だったのだ。
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自動車の進化って、なんなんでしょうね
トラクションコントロールがスロットルを制御し、トルクベクタリングや自動後輪操舵がコーナリングに介在するようになった昨今のクルマでは、純粋にドライバーの意思で操れるのは減速だけではないか。そんな状態でファン・トゥ・ドライブだとか駆けぬける歓(よろこ)びだとかいっても、すべては電子制御の見せる幻、お釈迦(しゃか)さまの手のひらではないのか?
理数系なのに(理数系だからか?)妙にへりくつっぽいJ氏の見解に、「ちょっと極論すぎやしないか?」と思いつつも、ぬるい文系のH氏はぐぅの音も出ない。「130iにもトラコンぐらい付いているのでは」なんてツッコむのも火に油だし、記者は「ソウデスネ~」と適当にうなずきつつ、どれもおいしい新潟の幸をハシでつついた。
それにしても、こういう話、ずいぶん前にもどこかで聞いたな。そう思って記憶を掘り返したら、かつての熊倉重春氏の言だった。「マツダ・ロードスター」の試乗記にも記述があるが(参照)、氏は現場でお会いすると、たびたび「今は『すごいクルマですね』と言われることはあっても、『運転が上手いですね』と言われることはない」と口にしていたのだ。厳密に見れば、J氏の言と熊倉氏の言はニュアンスが違うのだが、ともに同一の事象に対する疑念/指摘なのは事実だろう。そして記者も、道の駅つちゆに続いて思ってしまったのだ。クルマの進歩ってホント、なんなんだろうな?
ちなみにJ氏は、ホントは「Z4 M」が欲しかったらしいが、さすがに奥さまよりマウントポジションから2、3発ほど打ち下ろしをもらったらしい。それでも2ドア・2シーターに未練があるようで、別れしなに「バイパーに飽きたら、格安で譲りたまえよ」とほざかれた。しかし、Z4でグラウンドパンチならバイパーでは刃傷沙汰だろう。知己が新聞の社会欄をにぎわせるのもあれだし、記者は「一昨日きやがれ」と答えておいた。
そして、帰京前に寄っておくべき新潟の観光地を尋ねた。J氏は有名な寺社仏閣でも風光明媚な景勝地でもなく、ただ大河津分水と答えた。見事である。記者の嗜好(しこう)をここまで理解してくれている男は、世界広しといえそうはおるまい。
記者は大いに満足すると、氏と別れ、〆のカレーをいただくべく万代シテイバスセンターへと向かったのである。
(webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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