第27回:真夏の夜の災難と新しい教訓
2018.08.22 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
レスキュー隊がジャンプスタートでさじを投げる! 友人が引き起こしたバッテリーあがり事件をきっかけに、「ダッジ・バイパー」を襲った災難の連鎖と、コトのてんまつを通して記者が得た、“ちょっとヘンなクルマ”を持つ上での教訓を語る。
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リアのトーアウトは確信犯?
どうも皆さまこんにちは。webCGの堀田です。近年まれにみる酷暑の中、いかがお過ごしでしょうか? 御多分に漏れず東京・武蔵野もすっかりジリジリ。思わずTHE HIGH-LOWSの『夏なんだな』を口ずさみたくなってしまいます。こういう日のためにバイパーのエアコン直しておいたのに、トホホ。
バイパーといえば、前回は多数の感想・激励のメッセージをありがとうございます。皆さまのアドバイスに従って、キーの写真、歯の形が分からないものに差し替えておきました。その他にも、何通かでちょっと興味深い指摘をいただいたので、合わせてここで紹介させていただきます。
指摘の内容はわがバイパーのアライメントに関するもので、フロントの“左曲がり”はさておき、リアの“ガニ股”は不具合ではないのでは? とのこと。さる御仁のメールによると、「ジムカーナかいわいでは、コーナリングでクルマを曲げやすくするために、リアをトーアウトにするアライメント調整は、珍しいものではない」とのことだった。
確かに、リアのトーアウトっぷりは左右でそんなに変わらなかったし、普通に走っている分には挙動に破綻を感じることもなかった。記者だけがそう思ってたんならアヤしいもんだが、過日試乗してもらったワタナベ女史にも山田先生にも、そうした違和感を訴えられたことはない。SNSで“アメ車 de サーキット”なかいわいを探ってみても、「俺の/あいつのクルマ、リアをトーアウトにしています」という情報がちらほら。……これはやっぱり、くだんのリアトーアウトは不具合の類いではなく、計算の上でのセッティングだったのかもしれない。
これは興味深い事である。もしこの説が当たっていたとしたら、エキゾチックカーかいわい(?)では変わり者な、「飾っておくより走らせてナンボ」なバイパーの性格をよく表すエピソードではないか。「なんだかんだいって、やっぱりこれは風変わりなクルマなのだ」と一人ニヤニヤしてしまった。
……まあ、こんなことでかみしめるまでもなく、バイパーはけったいなクルマなんですけどね。最近忘れかけていたけれど、過日あらためてそれを実感させる事態に出くわした。
“1日試乗”を楽しんでいた友人が、バッテリーをあげてしまったのだ。
なんでもかんでも、クルマがやってくれると思うなよ
この御仁……「ネタにするのはいいけど、名前出しはご勘弁を」との事だったので、仮にJ氏としよう……は、別にクルマに疎い人物ではない。現在のマイカーは「BMW 5シリーズ ツーリング」(ディーゼル)。免許の取得は記者より早く、当然のこと自動車歴も長い。そもそも、海のものとも山のものとも知れないバイパーなんてクルマに「試乗したい!」というのだから、クルマ慣れした人となりは理解してもらえることだろう。
しかし、彼は実際にバッテリーをあげてしまったのである。原因は“ヘッドランプのつけっぱなし”という初歩的なものだが、この失敗には読者諸兄姉の中にもピンときた人……というか、「あ、私もやったことある」という御仁がおられることだろう。先述の通り、氏のマイカーは高年式のBMW 5シリーズ。当然ながらオートライト機能付きで、夜になれば、トンネルに入れば、自動で点灯してくれるスグレモノだ。もちろんキーロックすればランプは勝手に消灯し、バッテリーがあがる事はない。氏はつまり、そんなマイカーに慣れ過ぎていたのだ。
事情聴取から得た情報をもとに、当日の犯人の動きを再現してみよう。
圏央道を試乗中だった氏は、トンネルに入ってもヘッドランプがついていないことに気づく。そして「今日日、カミさんの軽にだってオートライトぐらいついてるぜ」と苦笑いしつつ手動でヘッドランプをON。某駐車場にて、消灯するのを忘れてクルマから離れてしまったのだ。
バッテリーあがりに気づいた氏から記者のケータイに電話が入ったのは、その日の18時のことだった。
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まさかADバンで来るとは
記者が某駐車場に到着したのは、19時をちょっと過ぎた時分である。J氏から事情を聞くと、「今度叙々苑ね」「分かった」の二言で示談は成立。手を振り去っていく氏を見送りつつ、記者は保険会社に電話を入れた。JAFではなく、保険に付帯しているロードサービスを利用しようと思ったのだ。
「車種をいただけますでしょうか?」
「2000年式のダッジ・バイパーです」
「承知しました」
コールセンターのお姉さんの、やけにあっさりした反応が気になった。いや、だってこの人、どこの国のクルマかも聞かなかったんですよ。アナタ本当に承知してます?
胸騒ぎを覚えつつ、「レスキューの到着時間が分かりましたらお知らせしますので、電話を切ってお待ちください」という言葉に従って電話をOFF。しばらくしてお姉さんからの折り返しがあり、「30分から40分ほどで到着しますので、お待ちください」と告げられた。意外に早いな。その程度の時間なら、クルマから離れて待つほどでもない。記者は最寄りの自販機で缶コーヒーを購入すると、街灯の下で戌井昭人著の『のろい男 俳優・亀岡拓次』を読んで過ごすことにした。程なくして、「日産ADバン」に乗ったレスキューのお兄さん(1人)が、さっそうと駐車場に現れた。
ん? ADバン? これってジャンプでエンジンがかからなかった場合、どうやってクルマを運ぶつもりなの? 確かにただのバッテリーあがりではあるんだけど……。いぶかる記者をよそに、「大丈夫ですよ」を連発するお兄さん。不安を覚えつつ記者がフロントカウルのロックを引いたら、彼はなぜかバンパーとカウルの隙間に手を突っ込み、なにやらごそごそやり始めた。しばらくの後、ようやくお兄さんが何をしたいかを悟った記者は言った。
「……すいません。このクルマ、前じゃなくて後ろからボンネットが開くんです」
「ああ、すいません。すいません」
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このクルマ、機械式インジェクションですよ?
その後も、バッテリーの位置が分からなくてきょろきょろしたり、アースする場所が分からなくてうろうろしたり、記者の不安を大いにあおったレスキューのお兄さん。ようやくジャンプの準備を終えると、記者に「それじゃあセルを回してください」。その言葉に従い、車内に乗り込んだ記者はクラッチを踏んでセルを回した。バイパーのV10は一瞬だけかかって見せたが、わずかの後にプスンといってしまった。
「……アクセル、どのくらいあおってます?」
「ちょい強めくらいです」
「じゃあ、めいっぱいあおりながらセルを回してください」
言われるがままに、アクセルをべたんと踏んでセルを回す。爆音をとどろかせながら再びお目覚めする8リッターV10。何事かと周辺住民が顔を出すが、彼らから怒号を浴びせられることはなかった。程なくして、エンジンはやはりカクンと落ちてしまったのだ。
その後は何をどうやってもエンジンは目覚めず。途中からは記者に代わってお兄さんがセルを回したが、当然ながら結果は同じである。
やがて、お兄さんは言った。
「これは、エンジンをカブらせちゃいましたね。ガス臭いでしょう?」
「……」
……いや、いや、いや。
お兄さんよ。それはないでしょう。バイパーの燃料噴射はキャブじゃないよ? 腐っても電子制御式よ? それに、このバイパーは普段からこれくらいガス臭いよ? 以前、5発カブった状態で走ったことがあるけど、その時の臭いはこんなんじゃなかったよ?
すっかり不信感でいっぱいの記者をよそに、いずこにか電話を掛けるお兄さん。あて先は保険屋さんのサービスセンターで、要するに「自分には手に負えないので、他の業者を回してほしい」ということだった。サービスセンターのお姉さんと、お姉さんに紹介された次の業者に、クルマの状態や周辺の道路環境などを報告。もろもろの手続きを済ますと、彼は「力になれなくて申し訳アリマセン」とひとつ頭を下げ、さっそうと去っていった。
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自力で引いた“三度目の正直”
さらに待つこと1時間、けん引車で現れた次なるお兄さんは言った。
「ここ、周りの道が細いじゃないですか。僕一人しかいないし、そもそもこのけん引車だと運び出せないんですよね~」
記者は思った。アナタ、じゃあ何しに来たのよ?
「取りあえず“押しがけ”……この場合は“引きがけ”って言うんですかね? が、できるかなあと思って。このクルマ、フロントにけん引フックってありますか?」
賢明なる読者諸兄姉なら察しがつくだろうが、わがバイパーにそんなものはない。結局2人目のお兄さんは、さっきのお兄さんと同じ情報をサービスセンターと3つ目の業者に共有しただけで、けん引車に乗って帰ってしまった。
記者は思った。アナタ、ホント何しに来たのよ?
さらに待つこと40分。時間は既に11時を回り、『のろい男 俳優・亀岡拓次』もすでに佳境である。3本目の缶コーヒーでも買ってくるかな、と街灯から離れかけたところで、3人目の挑戦者たる3t積みの積載車が、ディーゼルをガラガラ言わしながら路地から現れた。
ようやく……ようやく当初から望んでいたものが来てくれたという気分だが、これにはちょっと事情がある。2人目のお兄さんがサービスセンターに電話をくれた折、横から電話をかっさらって、「もうクルマを始動させようとしなくていいから、積載車を呼んでくれ」と伝えておいたのだ。
またひとつ賢くなってしまった
早速作業に取りかかるおじさんに終電が迫っている旨を伝えると、「帰ってしまって大丈夫ですよ。後はやっておきますので」とのありがたいお言葉。キーを渡し、差し出された書類にサインをすると、記者は作業の終了を見届けることなく武蔵野へと帰ったのだった。
1人目、2人目のこともあったので一抹の不安はあったものの、翌日サービスセンターに問い合わせたところ、無事センターの駐車場にバイパーは届いているとのこと。電話口のお姉さんに、いつも世話になっているお店(毎度おなじみ、相模原のコレクションズさんである)に届けるよう依頼し、ようやく夏の夜のバイパー救出劇は終幕と相成った。
今回のトラブルにおいて、記者は2つの教訓を得た。
ひとつは冒頭でも触れたとおり、「なんだかんだいってバイパーは普通のクルマではない」ということ。少なくとも、たかがバッテリーあがりでも保険屋さんのロードサービスでは復旧できなかったり、けん引車でほいほい運び出せなかったりする程度には、ヘンテコなクルマなのだ。普段使いをしているうちに、20年も前のどマイナーなクルマであることを忘れてしまっていた。
もうひとつの教訓は、ものを頼むときははっきり意思を示し、ささいでも疑問に思ったら、その場で確認しておくべきということだ。今回のレスキューにまつわるグダグダは、記者がキッパリ要望を伝えなかったことが原因のひとつだろう。最初から「エンジンを始動できないときは運んでほしいから、できれば積載車で来てほしい」と言えばよかったのだ。優柔不断と下手な遠慮は、相手も自分もハッピーにしない。うーむ。またひとつ賢くなってしまった。
実は危ないところだった
そして1週間後、記者はさらにひとつ勉強することになった。
場所は、バイパーのエンジン始動とバッテリーの充電をお願いしていた相模原の専門店、コレクションズさんである。アライメント騒動からわずか2週間後の再訪に、顔は笑顔の本多氏も胸中さぞあきれていたことだろう。
早速症状の説明を受けたところ、エンジンの再始動ができなくなったのは、やはりというか当然ながらというか、プラグがカブったからではなかった。
「バイパーには異常を検知するとエンジンを止めちゃうセキュリティーが入ってるんですよ。多分それでしょう」
やっぱりね。だろうと思ったよ。
「でも次からは気をつけてくださいね。この世代のバイパーは、バッテリートラブルからの2次災害が多いクルマだから」
不穏な言葉に詳しい説明を求めたところ、初代バイパーのバッテリーあがりは、ジャンプスタートで「バチッ」っと火花が散り、その拍子にECUがおだぶつし、めでたくECU交換という必殺コンボに至るケースが少なくないのだとか。ではどうするのが正解なのかといえば、「いったんクルマからバッテリーを外し、よそでゆっくり充電するのが正解」とのことだった。1人目のお兄さんがジャンプスタートにこだわり続けた場合、記者のバイパーもECUがこんがり逝っていた可能性がある。運が良かったんだか、悪かったんだか。
今回のトラブルで得た最後の教訓、それは、「ささいに見えるトラブルでも、まずは主治医に電話しろ」である。
(webCG ほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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