ユーノス・ロードスター Vスペシャル(FR/5MT)/マツダ・ロードスター RS RHT(FR/6MT)
今でも「夢」を語れるクルマ 2013.04.26 試乗記 ユーノス・ロードスター Vスペシャル(FR/5MT)/マツダ・ロードスター RS RHT(FR/6MT)……218万5660円/300万7000円
そろそろ「往年の名車」の仲間入りを果たしつつある初代「ユーノス・ロードスター」を、現代の「マツダ・ロードスター」と比較試乗。温故知新のインプレッションを通して、「スポーツカー」と「スポーツドライビング」の原点に触れた。
「スポーツカーって、こう“だった”よね」
21世紀を迎えたというのに、未来像はもちろん、今あるべき姿さえ明確に描けていないスポーツカー界。極端に言えば、いつもスポーツカーは1950〜60年代の面影を引きずっている。私たちの心の底に輝くスポーツカー像はあのころ完成し、今も色あせていない。その証拠が初代「ロードスター」だ。
本名「ユーノス・ロードスター」。販売店をユーノス、アンフィニ、オートザムなどに細分化した80年代マツダ陣営の混乱を詳しく振り返る余裕はないが、とにかくマツダではなくユーノスが表札。海外では「マツダMX-5ミアータ」と名乗ったが、どちらにしても89年デビューの瞬間、誰もが「そうそう、スポーツカーって、こう“だった”よね」と過去形の表現で歓迎した。
そうなのだ。黄金のfifties&sixtiesに育まれたスポーツカーは、安全性の魔女狩りが吹き荒れた70年代にほぼ死滅、わずかにジャガー、ポルシェ、コーヴェットなど、誰もが買えるわけではない特別なものが、辛うじて踏みとどまっていただけだった。そこへ、手頃なサイズ、過不足ない性能、ちょっと頑張れば買えそうな価格、そして「こう“だった”よね」と言いたくなるオープン2シーターの姿で新品が現れたのだから、歓迎されないわけがない。
そんなふうに既成概念ずっぽりだったが、機械として新しかったのもユーノス・ロードスターの人気の素。一見シンプルなオープンボディーだが、すべての部分を微細な三角形に区切って強度を算出する有限要素法で締めあげ、現代のクルマとして高く評価できる剛性感を備えていた。だからサスペンションも立派に任務を果たしたし、「ファミリア」ベースの4気筒1.6リッター(120ps)エンジンや「ルーチェ」由来の5段MTともども、非常に統一感の取れた走りっぷりを示した。
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16年で隔世の進化
はっきり言ってしまっては2代目、3代目の関係者がかわいそうだが、この初代(ユーノス)こそ真のロードスターだという声は、今でもファンの間に根強い。ずっと後になって、マツダ自身が全国から程度の良い中古車を買い集め、純正部品を惜しみなく投入して実質的な「新車」を仕上げたことがある。それを150万円でネット発売したら、その日のうちに完売だったとか。出遅れた私は口惜しがったが後の祭り。ところが奇跡的にも、90年型の「Vスペシャル」が1台だけ、大事にマツダに保存されていた。まさに「動く博物館」。デートを申し込まずにいられるものか。
さっそく最新の第3世代ロードスター(もちろん名字はマツダ)を引き連れて駆けつけたら、「うん、やっぱり」なのだった。
もちろんクルマとしては、2005年に登場した現行世代の方が100倍も優れている。もともと定評あった剛性感はさらに深く、自慢のパワーリトラクブルハードトップの立て付けもほぼ完璧。疑いもなく、リトラクタブルハードトップとしては世界一だ。なにしろ重量わずか数kgと軽いだけでなく、Z字形に折り畳んだ状態で、ほとんどトランクが犠牲にならない。電動による開閉も片道12秒だけ。
このシャシー/ボディーと2リッターエンジンの特性もドンピシャリ。最近やたら「トヨタ86」「スバルBRZ」が雑誌を賑(にぎ)わせているけれど、8年も先に出た現行ロードスター、決して勝るとも劣らない。大げさに褒めるなら、今やすっかり豪華高級車になり果ててしまった「BMW Z4」より「マツダ・ロードスター」の方が、本来あるべき人馬(人車)一体の実感を味わいやすい。
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これがスポーツドライビング
それはともかく、こうして最新のロードスターを満喫してから初代に乗り換えると、やはり全体に古くささが突き刺さって来る。技術の世界では、時間の経過は残酷だ。なのに、なんだかうれしいというか、「そうそう、こう“だった”んだよ」が胸の底から盛り上がるのを抑えられない。
たしかに、今とくらべればシャシーの能力限界は高くなく、前輪の踏ん張り具合を神経質に感じ取りながら切り込まないと曲がり始めが遅れがちだし、最大ロールのまま乱暴に踏むと、記憶していたより唐突に後輪がグリップを失う。
でも、それらはドライバー自身の工夫でカバーすべきもので、文句たれるのはクルマに甘えすぎている証拠。「曲がらんかったら、曲げろや」とは、元フォーミュラ・ニッポンで活躍したベテランドライバーの名言だ。それがスポーツドライビングなのであって、今どきの高性能車でどんなに速く走ってみせても、「すごいクルマですねえ」と感心されるだけで、「運転、うまいですねえ」なんて褒められたりはしない。
初代ロードスターは、危険なほどの領域に踏み込まないまま、しっかり主人公としてクルマと語り合い、性能を引き出した実感を抱かせてくれるという意味で、あの黄金時代のスポーツカーの正統と言える。
もし宝くじが当たったら
たまたま、こうして保存されていたのが90年型のVスペシャルなのも幸運だった。ナルディのウッドリム・ステアリングなど、あのころマツダが大好きだった名品仕立て。その後BBSホイールやレカロ・シートでまとめた仕様も出たし、今のロードスターにもビルシュタイン装着の「NR-A」(ちょっと骨っぽい軽量タイプで、変速機も6段MTではなく、実戦重視の5段)などあるが、そうした「ちょっと特別なロードスター」の始祖みたいなものだ。
少しクッションが分厚く座面が高くなる快適シートなど、スポーツカー・フリークとして不満に思うのが普通だろうが、これで助かることもある。初代ロードスターで誰もがやるのが「あッ、痛えッ!」の儀式。コンソールの後半が一段高くなっているので、ストロークの短さが自慢のシフトレバーを2速または4速に引っ張り込む瞬間、肘をブチ当ててしまうのだ。でもVスペシャルなら大丈夫。視点が高いぶん目の前の視野も広いから、曲がりくねった峠でコース幅をめいっぱい使い切れる。
最新のスポーツカーにくらべて不足気味のグリップ感も、かえって全体すみずみまで自分の神経が直結している実感に置き換えられる。今どきのクルマがシンセサイザーだとすれば、こちらはアコースティックなギターかもしれない。素足で芝生を駆けまわる新鮮さと言えるだろうか。
そこで、ついつい夢を見ずにはいられない。もしロト7が当たったら、初代の中古を買い込んで徹底的にバラし、要所要所にCFRPのガゼットを配して剛性アップ、もちろんエンジンから何からビス一本まで顕微鏡で見直して、本当の新車以上に仕立てたい。ボディーはソリッドのBRG(ダークグリーン)、ホイールはクリーム色に塗ったブリヂストンの「R.A.P.038」にしようか。
(文=熊倉重春/写真=荒川正幸)

熊倉 重春
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