第862回:北極圏の氷上コースでマクラーレンの走りを堪能 「Pure McLaren Arctic Experience」に参加して
2026.02.25 エディターから一言 拡大 |
マクラーレンがフィンランド北部で「Pure McLaren Arctic Experience」を開催。ほかでは得られない、北極圏のドライビングエクスペリエンスならではの特別な体験とは? 氷上の広大な特設コースで、スーパースポーツ「アルトゥーラ」の秘めた実力に触れた。
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北極圏で行われる特別なプログラム
ハイパフォーマンスカーの性能はとどまることを知らない。いまや最高出力1000PS、最大トルク1000N・mなんてスペックも珍しくなくなってきた。そのいっぽうで、道は広くもならないし、制限速度が上がったわけでもない。ドイツのアウトバーンの速度無制限区間などは、年々縮小されているという。
したがって、スーパーカーメーカー、ハイパフォーマンスメーカーの多くは、顧客に対してクルマを売るだけでなく、その実力を発揮させられるドライビングエクスペリエンスという体験を提供している。
マクラーレンも例に漏れず、モンツァ、シルバーストーン、ホッケンハイム、スパ、ポールリカール、サーキット・オブ・ジ・アメリカズ、バーレーン、そして富士スピードウェイなど、世界中のサーキットでドライビングエクスペリエンスを行っている。
そうしたなかに、少し趣向の異なる「Pure McLaren Arctic Experience」というプログラムがある。“Arctic”とあるように、舞台は北極圏。フィンランド北部にあるイナリ村の広大な氷上コースで、存分にマクラーレンのパフォーマンスを体感できるというものだ。今回、それに特別に参加することができた。
ヘルシンキ・ヴァンター国際空港から約2時間のフライトで、フィンランド最北にある空港イヴァロに到着すると、外は一面の銀世界。この日の外気温は-15℃で、寒い日には-30℃にもなるという。お出迎えのシャトルに乗るとプログラムのスタートだ。
シャトルで40分ほど走ると、サーリセルカの森の中にある、外観は重厚な木材で組まれたログハウスで、内装はスカンジナビアデザインのモダンな「ヤブリロッジ」に到着する。プログラムの期間中滞在することになるラグジュアリーホテルで、ウエルカムディナーとして気鋭のシェフによるノルディックキュイジーヌでもてなされた。天候がよければディナー終盤にはオーロラを鑑賞できるのだが、今回はあいにくの吹雪で見ることができなかった。
氷上だからこそ感じられるスーパースポーツの真価
翌朝、プログラムのメインイベントである氷上ドライビングレッスンに向かう。場所はイヴァロ空港の西にある凍結したパサスヤルヴィ湖だ。ここは1月から2月にかけてマクラーレンによって専有されるそうで、その広大なスペースを生かし、今回はハンドリング路やダイナミック路、定常円旋回エリアなど、実に19ものセクションからなる全長25km超の特設コースが敷設されていた。教習車は3リッターV6ハイブリッドのアルトゥーラで、タイヤはランドセイル製のものをベースにスパイクを打った特注品だった。レッスン中は、マンツーマンでドライビングコーチ(プロのレーシングドライバー)がついてくれる。
まずはコーチのドライブでコースインし、助手席からハンドリング路でのデモ走行を見学する。アルトゥーラにはスライド量をコントロールできるドライブモードがあるが、ここではESCもVDCも完全にオフにしてスタートする。コーチはアクセルを入れる、抜くの操作や、ブレーキのタイミング、フルカウンター状態から立ち上がる際の姿勢制御などを解説しながら、華麗にドリフトしてみせる。
アルトゥーラはマクラーレンのエントリーモデルといえども、最高出力700PS、最大トルク720N・mを発生するスーパーカーであり、しかもミドシップの後輪駆動だ。電子制御の助けなしの状態でテールスライドがはじまると、止まらないのではないか。そう思いつつおそるおそる走りだしてみたが、スパイクタイヤの効果もあって、想像以上にリアにトラクションがかかることに驚いた。
しかも、ハイブリッドの利点でモーターのアシストによって低速から瞬時にトルクが立ち上がるため、ペダル操作に対するタイムラグがほとんどなく、レスポンスよくクルマが反応する。慣れてくると2速、3速を使って高速ドリフトにもトライできるようになる。
そうして調子に乗っているとコースアウトすることになるのだが、このコースにはいわゆる側壁がなく、スリップした車両を止める(スタックさせる)ぎりぎりの雪の量が積まれているのみ。フロントのリップスポイラーはあらかじめ養生されており、気兼ねなくアクセル全開にできるというわけだ。万が一スタックした際の救助も手慣れたもので、無線でレスキューチームを呼べばあっという間にかけつけ、見事な手際でコース復帰させてくれる。
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特別な体験は氷上ドライブだけではない
これは以前、日本の公道で試乗した際にも感じたことだが、アルトゥーラはハイブリッドといっても車両重量は1500kgに収まっており、とても軽快なクルマだ。前後重量配分は42:58で、乗員の体重によってバランスするよう設計されている。「750S」と比べれば100kgほど重くなってしまうが、それでも立ち上がりのレスポンスのよさ、音や振動の小ささもあって、氷上ではよりいっそう軽い印象を受けた。電子制御デバイスがない素の状態でこそ、そのクルマの本性があらわれるというが、そこはやはりマクラーレンである。およそ半日をかけてさまざまなコースを試したが、コーチの指示にしたがっていると、最終的には定常円旋回のコースで、途切れることなく1周まわれるようになっていた。
このプログラムのユニークなところは、こうした氷上でのドライビングレッスンだけでなく、さまざまなメニューが用意されていることだ。この日の夕方には、その名も「Frozen Ring」という一面雪に覆われたカート場に向かい、-20℃のなかスパイクタイヤ付きのカートで本気のレースを行った。さらに翌日は、ハスキー犬による本格的な犬ぞり体験に感動を覚えた。そして今回はかなわなかったオーロラ鑑賞と、北極圏だからこそ得られる体験が凝縮されているのだ。
コーチに、これまでに日本人の参加者はいたのかと尋ねたところ、「先週も来てたよ」とひとこと。どうやら知る人ぞ知るドライビングエクスペリエンスのようだ。このPure McLaren Arctic Experienceは、マクラーレンオーナーでなくても参加は可能。2026年度の受け付けは終了しているが、来年も開催を予定しているという(参照)。
(文=藤野太一/写真=マクラーレン・オートモーティブ/編集=堀田剛資)

藤野 太一
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