プジョー308シエロ(FF/6AT)【試乗記】
待ってろゴルフ! 2010.08.17 試乗記 プジョー308シエロ(FF/6AT)……309.0万円
新型6ATを積み、価格の下がった「308」に試乗した。トランスミッションの変更は、プジョーの走りをどう変えたのか?
新しい6段ATを搭載
2010年のプジョー・シトロエン・グループには勢いがある。プジョーとしては「3008」を、シトロエンでは「C3」と「DS3」を発売し、近々「プジョーRCZ」の納車も開始する予定と聞く。フランスではこれまでのコワモテのプジョーとは違う新しいデザイン言語を用いた「プジョー508」と新型「シトロエンC4」のお披露目を、2010年9月末に始まるパリ・モーターショーで行う予定だ。
もっと身近なところでも、かなり大胆な見直しが行われており、その代表として「プジョー308」シリーズの価格改訂がある。ハッチバックモデルでは、今回試乗した最上級の「シエロ」がなんと36万円も安くなった。シート地をレザーからファブリックに格下げしたり、ユーロ安を還元したり(?)、いろいろ企業努力あっての値下げと察するが、それにしても345万円だった定価をいきなり1割以上下げるというのもすごい。エコカー補助金も真っ青である。
これにより、308ハッチバックのラインナップは廉価な方から順にスタイル:254万円、プレミアム:279万円、シエロ:309万円となった。この数字がなにを狙ってのものか、もうお気付きだろうか? 「フォルクスワーゲン・ゴルフ」である。真正面からぶつかっている。
ゴルフが相手となると、ドライブトレインの洗練が必須だが、その点も308は抜かりはない。プレミアムとシエロでは、BMWグループと共同で開発した1.6リッターのツインスクロールターボエンジンに、新しい6段ATを組み合わせた。型式名で「AT6」と呼ばれるこのトランスミッション、なにやらフランス車らしからぬ仕上がりになっていて、なかなか興味深いものがある。
日本車的なシフトマナー
従来の4段AT「AL4」は、だいぶ改善されたとはいえ、変速時のトルク変動が大きかった。また同一ギアを維持してなかなかシフトアップしないために、時としてクルマがギクシャクしてしまうこともあった。それにそもそも4段というスペックが、イメージ的にも、メカニズム的にも時代遅れであったことは否めない。
そういったもろもろの欠点が、新しい6段ATになって、きれいさっぱりアップデートされた。まずシフトショックはおよそショックと呼べるものなど存在せず、街中の速度で5速から6速にシフトアップするときなど、ドライバーですらそれと気付かぬほど“無表情”にスッと上がる。その様子はまるで日本車。さすがアイシンAW製である。
そして同じギアを維持しすぎるクセも過去のものとなった。新しいATは、ごく浅いパートスロットルを維持するかぎり1750rpm+でシフトアップしていくので、エンジン回転はおおむね低く保たれている。加速するにしてもエンジンに低速トルクがあるので、たとえば4速で40km/hだと1600rpmにすぎないのだが、スロットルをじわりじわりとゆっくり開けていけば、そこからでも十分使える加速を示す。新6ATとエンジンの連携プレーはなかなか見事。しかし気になることもある。
燃費性能はいかに?
新しい6ATは、アクセルを踏み込んだ直後のトルコンスリップが目立つ。特に高速道路の料金所から加速するときなど、全開に近いダッシュをするときにそれを顕著に感じる。DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)のダイレクトな感触を知ってしまった今となっては、この滑りが“古典的”なものに思えたというのが正直なところだ。ストール回転数をチェックしたら、なるほど、2700rpmと高めだった。ごく普通の実用車にしては、けっこうな“ハイストールトルコン”である。
それと今回、乗り心地にも気になるところがあった。せいぜい60km/hまでの街中スピードでの話だが、ダンパーの低速域の動きが渋いのか、サスペンションの動きがスムーズさを欠き、“腰の強さ”ばかり目立ったのだ。もっとも、高速道路に入ってしまえばプジョーならではのしなやかな足まわりに戻る。ダンパーの中速から高速にかけての収束感は秀逸、かつ独特。日本車などに比べたら、よほど高い速度域をターゲットにセッティングされていることがうかがわれる。
さらに6段ATの採用で、燃費がどれくらい改善されたかも気になるところだ。トランスミッションの見直しに際し、最高出力が約1割増強の156psになっているので、その点を考慮してやらなくてはならないが、それにしても10・15モード燃費の向上分が2%にも満たない(10.8→11.0km/リッター)というのは寂しい。今回は東京−横浜間の往復約120kmを走行して、燃費計が9.0km/リッターを示すにとどまった。果たしてこの先、どれだけ伸びるのか。その実力をじっくり試したいところではある。
(文=竹下元太郎/写真=高橋信宏)

竹下 元太郎
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。