プジョー308 GT BlueHDi(FF/8AT)
移りゆく王権 2022.07.25 試乗記 “フツーのクルマ”として親しまれていた先代からガラリ一変、新型「プジョー308」は乗る者に襟を正させるほどスタイリッシュに生まれ変わった。中身の進化も相当ゆえに、今後のCセグメントの勢力図が気になるところだ。ディーゼルモデルの仕上がりをリポートする。購入寸前までいったものの……
先代のプジョー308が登場したのは2013年のこと。Cセグメントの絶対王とされてきた「フォルクスワーゲン・ゴルフ」がMQBモジュールを得て、さらなる高みにのぼろうかという、そのわずか1年後のことだった。
端から見れば望んで急襲をかけてきたようなもの。果たしてプジョーにどんな勝算があるというのか……と思って乗ってみると、これが望外に上出来で感心した覚えがある。特に動的な質感の高さ、具体的には乗り心地の丸さやハンドリングの包容力は時にゴルフに勝るこなれぶりだった。
その後、ADASの強化やディーゼルの追加、ATの8段化などのバージョンアップを受け続け、先代の308は中身的には常に鮮度が保たれてきたように思う。個人的にはロングホイールベースで乗り心地がさらに穏やかな「SW」の1.5リッターディーゼルを、普段乗りのクルマとして購入寸前にまで至ったこともある。踏み切れなかった理由は2つ、「iコックピット」の小径ステアリングがどうしても慣れないなぁと思っていたところに、降って湧いた引っ越しで駐車場が立体式になり、規定幅からわずか5mmオーバーで収めることができなくなったからだ。
突き抜け感のあるカッコよさ
と、個人的にはそのくらい買っていた308だけに、2022年に投入された新型の中身には興味津々だったわけだが、その前に驚かされたのは見てくれの進化ぶりだった。デザインそのものは「3008」あたりから鮮明化したテーマに沿ったもので想定内ながら、樹脂のバンパーフェイシアに狂いなくつながる、前後のフェンダーからドアパネルにかけてのインバースのプレスラインなどは、ブランドの革新が生産技術の向上にも及び始めていることをうかがわせる。内装も素材は普通ながら、仕立てや組み付けからなる質感はライバルとの差を明確に見て取れるほどだ。
そのぶん……というわけではないが、新しい308はなかなか立派な体格になった。Cセグメントはもはやゴルフが最小級かというほどに皆々が拡大化してしまったが、308は特に全幅が1850mmと、Dセグメントもかくやの範囲にある。伸びたとはいえ「マツダ3」あたりよりも短い全長は、そのぶんのホイールベースの延伸もあってパッケージ、特に後席膝まわりの広さにしっかり利をもたらしていた。ともあれ車庫や道幅の関係で車寸に制約があるユーザーは、購入検討の際に確認怠りなきようといったところだ。
それにしても、やたらカッコいい。もう隙なしにキマッててド中年にはまぶしすぎて、比べればサツマイモのような先代308SWのほうが肌なじみがよさそうだ。ゴムの緩んだパンツの履き心地がたまらなくてなかなか捨てられないみたいな話に共感できる、そんな一癖あるファン層がフランス車には少なからずいるはず……と僕などは勝手に思い込んでいるわけだが、新しい308はそのあたりを根こそぎ置き去りにして銀河に向かうような突き抜け感がある。
圧倒的な剛性感
ステアリングは相変わらず小径なうえに天地のアールもカットされたことで、メーターの視認性が向上したのはiコックピットなりの進化なのだろう。トグル調のスイッチ類に合わせるように小さなレバー形状となったシフトセレクターをDに入れてゆるゆると走りだす。
1.5リッターの4気筒ディーゼルユニットはスペックこそ先代と変わりないが、車体だけでなく本体側でも音・振動まわりの熟成を図ったのかもしれない。そう思わせるほどに回転フィールは洗練されていた。特に多用する2000rpm前後の静粛性はディーゼルとは思えないほどで、これよりうるさい直噴ガソリンユニットはいくつも思い浮かぶ。一方で、この低回転域では若干ながらトルクの薄さが気になる場面もあったが、アイシンの8段トルコンATがその谷をうまく補ってくれている。1.2リッター3気筒ガソリンユニットの持つ軽さや素直さも捨てがたいが、ランニングコストも含めてみればやっぱりこっちかなぁとひとり妄想してみる。
新しい308の白眉(はくび)は、中高速域の乗り心地のよさ、特にバウンシング処理のうまさに見て取れると思う。目地段差のような小さくも鋭利な入力はスッと霧散させながら、凹凸越えなどの大入力も余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で受け止めてお釣りを残さず一撃で収束させる。その際のバネ下の動きの精度感やハコ側の剛性感といったところはCセグメントでは屈指。同門の「508」さえも凌駕(りょうが)しているかのようだ。よもや剛性勝負でフランス車がドイツ車を抑える日が来るとは思いもよらなかった。EMP2プラットフォームの伸びしろ、恐るべしといったところだ。
悩みどころもあるにはある
でもって、新型308は曲がりもすごい。スパスパとコーナーの内側を切り取っていくサマやロードホールディング性の高さは、強いてゴルフになぞらえれば標準モデルよりも「GTI」の側に近いのではないかという感さえある。
が、1台のクルマのなかで縦方向のおうようさと横方向の鋭さが二面性として混在しているように感じられるところは、新型308を選ぶうえでの悩みどころとなるかもしれない。この点、ガソリンモデルの印象から、個人的にはベースグレード「アリュール」のほうがトータルバランスは高いのではと想像している。
ともあれ新しい308は、局所的にはCセグメントの頂点にいると確信させるほどの快作だ。マイカーの合理的選択となり得るこのカテゴリーでは欧州のライバルは無論、「シビック」やマツダ3など日本のプロダクトも交えて、レベルの高い切磋琢磨(せっさたくま)が相変わらず繰り広げられている。それはユーザーにとって悩ましくも幸せなことだと思う。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
プジョー308 GT BlueHDi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4420×1850×1475mm
ホイールベース:2680mm
車重:1420kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130PS(96kW)/3750rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:24.2km/リッター(WLTCモード)
価格:396万9000円/テスト車=397万9670円
オプション装備:ETC(1万0670円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:4545km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:308.0km
使用燃料:18.0リッター(軽油)
参考燃費:17.1km/リッター(満タン法)/16.1km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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