プジョー308GTi 270 by PEUGEOT SPORT(FF/6MT)
どうせ買うなら“最強”を 2016.03.28 試乗記 プジョーのモータースポーツ活動を担う「プジョースポール」が手がけた高性能スポーツモデル「308GTi 270 by PEUGEOT SPORT」に試乗。270psのハイチューンエンジンと、「ゼロから見直された」という足まわりが織り成す走りに触れた。見た目からして違う
ルマン24時間レースに代表される世界耐久選手権からは2011年を最後に手を引き、ラリーやツーリングカーレースの世界でも同じPSAグループに属するシトロエンの方が活躍しているイメージが強い。そう、残念ながら“プジョーのモータースポーツ活動”は昨今、少しばかり影が薄くなった印象が否めない。
しかし歴史をひもといてみれば、このブランドは世界的な数々のコンペティションの場で輝かしい戦績を残してきた、モータースポーツ界の名門であることも疑いない。
そうした“戦うプジョー”を一手に支えてきたのが、同社のモータースポーツ部門である「プジョースポール」である。そして、本家の存在を忘れるべからず……という勢いでこの組織が手がけた硬派な最新ロードモデルが、その名も勇ましく「by PEUGEOT SPORT(バイ プジョースポール)」なるフレーズが与えられた308シリーズのホッテストバージョン、308GTi 270 by PEUGEOT SPORTだ。
このグレードのみに用意される、レッドとブラックで前後を塗り分ける(!)大胆不敵でエキセントリックな「クープ・フランシュ」なる特別塗装色は別としても、このモデルが「特別にスポーティーな308」であることは、まずはその足元から見てとれる。
シューズは19インチと、これまでの308には存在しない大径のアイテム。フロントホイールのスポークの間からは、こちらもこれまで目にしたことのない大きなブレーキディスクが姿をのぞかせる。さらには、前後左右に専用デザインのボディーキットが与えられ……となれば、お次は「一体どんな心臓が搭載されているのか?」と、そちらに興味の焦点がいくのは当然というものだ。
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動力性能は一級品
“量販モデル史上、最強のホットハッチ”と、プジョー自らがそうアピールするこのモデルに搭載されるのは、ターボ付きの1.6リッター4気筒ユニットである。
「であれば、弟分の『208GTi』が積むものと同じエンジンだな!」……と想像を巡らすのは早合点というもの。208GTiの208ps/30.6kgmという最高出力/最大トルクに対し、こちらが発するのは270psに33.7kgmとはるかに強力。シリンダーブロックには熱処理が加えられ、超高温に耐える鋼製エキゾーストマニホールドを採用するなど、モータースポーツのスペシャリストであるプジョースポールの手による独自の強化策が施されたエンジンは、最大200バールと高圧化されたインジェクションシステムの採用などとも相まって、パワーとトルクが大幅にアップされているのだ。
1リッター当たりの出力が170psに迫るハイチューンエンジンを1320kgのボディーに組み合わせたことで、そのパワーウェイトレシオは5kg/psの壁を下回る。実際、6段MTを介しての0-100km/h加速タイムは6.0秒、最高速は250km/hと発表されているから、わずかに1.6リッターという排気量の持ち主ながら、その動力性能はまさしく一級品なのだ。
刺激的なカタログ値とは裏腹に
そんなホットなスペックを並べる308を、ミニサーキット風のコースを中心にテストドライブした。
試乗車のボディーカラーは例のクープ・フランシュ。ちなみに、なんともユニークなその前後塗り分けのツートンに、実は「プジョー車の歴史上の出典」は存在していないという。それもまた、独自のアイデアに基づいたフランス作品ならではの前衛性と、かように解釈をすべきなのだろうか。
先に紹介したように尖(とが)ったカタログスペックを見る限り、エキセントリックで神経質な性格が想像されようというのが、そのエンジンのフィーリング。が、現実にはそうした印象は全く当たっていなかった。
むしろ、実際には「この心臓にATを組み合わせれば、そのまま強力加速を売り物とする実用車ができるのでは?」と、日常シーンを想起させる扱いやすさの方が印象的。すなわち、低回転域でも決して扱いにくさは感じさせず、望外のフラットトルク感すら味わえるのが、このエンジンのフィーリングなのだ。
そうは言っても“踏んだ”際の速さはさすがの水準。グリップ力に定評ある「ミシュラン・パイロットスーパースポーツ」が力強く路面を捉えるトラクション能力の高さとともに、トルクステアがほとんど気にならないことにも感心させられた。
こうした好ましい挙動の背景には、フロントアクスルに組み込まれたトルセンLSDも、もちろん大きな効果を発しているはずだ。
本格的なサーキットで試したい
スプリングやダンパー、スタビライザーなどに施された専用のチューニングに加え、クロスメンバーも強化。さらにはキャンバー角などのジオメトリーも変更されるなど、文字通り「ゼロから見直された」サスペンションは、なるほどそんなハイパワーを無理なくしっかりと受け止めてくれる。
タイトなコーナーを追い込めばさすがにアンダーステアが顔をのぞかせるが、一方でリアサスペンションの横剛性はすこぶる高く、このままより高速・高Gが試せる本格的なハイスピードサーキットへと持ち込んで、さらなる高次元での走りをチェックしたい欲望に駆られるほど。かくも安定感が高いからこそ、ステアリングを積極的に切り込んでいけるのと同時に、躊躇(ちゅうちょ)なく高Gのブレーキングが行えるという点においても“ホンモノのスポーツモデル”感は強い。
ちなみに、「『RCZ R』からの贈り物」と伝えられる380mmディスク+4ポッドキャリパーがフロントにおごられたブレーキシステムは、そんなスペックに恥じない信頼感に富んだ減速と耐フェード性を披露してくれた一方、フロントと見比べて“落差”の大きなリアブレーキのビジュアルには、「もうちょっと何とかならなかったのか」という思いが残ってしまったのも事実ではある。
かようにプジョースポールが手塩にかけたこのモデルのお値段は、436万円。ただし、実はそこから51万円のマイナスで、250ps仕様も設定されているというのが、この308GTiのユニークな“商法”である。
でも、「どうせ飛び切り高価なプジョー車と腹をくくるなら、やっぱり270ps版の方でしょう!」と、きっと誰もにそう思われるであろう“史上最強のプジョー車”が308GTi 270 by PEUGEOT SPORTというクルマなのである。
(文=河村康彦/写真=田村 弥)
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テスト車のデータ
プジョー308GTi 270 by PEUGEOT SPORT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1805×1455mm
ホイールベース:2620mm
車重:1320kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6MT
最高出力:270ps(200kW)/6000rpm
最大トルク:33.7kgm(330Nm)/1900rpm
タイヤ:(前)235/35ZR19 91Y/(後)235/35ZR19 91Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:15.9km/リッター(JC08モード)
価格:436万円/テスト車=466万円
オプション装備:ツートンペイント<クープ・フランシュ>(30万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:639km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。