第343回:おやじ、涅槃で待つ
2026.08.31 カーマニア人間国宝への道満腹感が味わえる「日産キックス」
日産のコンパクトSUV「キックス」が売れているという。うれしいニュースだ。カーマニアにとって多様性は極めて重要。いろんなメーカーがあるからこそ、いろんな選択ができるわけで、選択肢が減るのは損失でしかない。日産の再建が軌道に乗り、今後も独自の技術やデザインをわれわれに提供してくれたらイイネ!
キックスといえば、日産自慢のシリーズハイブリッド「e-POWER」の専用モデルだ。
私はe-POWERが好きである。アクセルペダルの操作だけで停止までできた第1世代のe-POWERは衝撃だった。第2世代e-POWERではクリープ機能が備わって一般向けになっちゃったけど、それでも現行「ノート」は、カーマニアに刺さる部分があった。それは、「クルマってこれで十分じゃん!」という、適度な満腹感ゆえである。
そこからさらに進歩した第3世代e-POWERを搭載した新型キックスは、メディアの評価も高い。カーマニアとしても、さらに満腹感が味わえるクルマになっているのかもしれない。
乗ったのは「G」グレード(FF車)。車両本体価格が389万8400円、オプションが合計56万2540円、トータルで446万940円!
うーん、こんな高いクルマがバカバカ売れてるのか。300万円を超えるクルマを買ったことがない(フェラーリやランボルギーニを除く)私にとっては、信じられない事実。
ちなみにノートなら、車両本体価格は232万円から(FFの「X」グレード)。「ノート オーラG」の4WDでも310万円。世の中って、これほどまでにSUVを求めてるってことでしょうね。
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すべてが快適で必要十分
実際乗ってどうだったか。
驚いたことに、ソツなく出来上がりすぎていて、まったく何も感じませんでした!!
第3世代e-POWERは、確かにすごく静かになった。もともと発電専用にチューニングされているe-POWERのガソリンエンジンは、かかると不快な騒音と振動を発するのみで、消えてほしいくらいだったけど、実際にほぼ存在が消失してみると、モーターの強力なトルクや、静かで滑らかな走行のありがたみも消えていた。
その他モロモロの性能も、すべて快適かつ必要十分以上なんだけど、「クルマってこれで十分じゃん!」をかなり超え、「なんか中途半端にゼイタクだな」という印象になっていた。
そのとき私の頭に浮かんだのは、「これなら断然『クロスビー』だ!」という思いだった。
当連載でスズキ・クロスビーに試乗したときは(参照)、同乗した編集部のサクライ君とほった君の3人で、「クロスビー最高!」と大はしゃぎした。一般の方には理解不能でしょうけど、クロスビーはカーマニアの心に刺さりまくり、キックスは1mmも刺さらないのだ。
それはいったいナゼなのか。ふたりの意見を聞いてみた。
担当サクライ:残念ながらキックスには未試乗です。
オレ:そうなのね。
サクライ:ただ、この2台を比べると、クロスビーがドメスティックな和風クロスオーバーであるのに対して、キックスはアメリカ市場を向いたグローバルモデルなんですよね。
オレ:確かに。
サクライ:クロスビーは「足るを知る者は富む」というか、これで十分だよね? と思わせてくれるモデルですけど、キックスは分かりやすい個性を演出していて、個人的にはそれが鼻につくかもしれません。
ふむふむ。続いてほった君。
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これが“最後の一台”のつもり
ほった:クロスビーにあってキックスにないのは、「盆栽の美学」でしょう。
オレ:盆栽なのね?
ほった:ほかのスズキ車にも当てはまることですが、与えられたマスのなかで究極を求める。機能・装備もデザインも。だからこそ、足るを知ることによるクレバーな自己満足や、 「小さいながらもいい買い物をしたぜ」という下剋上のカタルシスが得られるのでしょう。
オレ:下剋上なのね!
ほった:それは、マーケットインによる肥大化の道を選んだキックスにはないものだと思います。
なるほろー!
クロスビーは盆栽のように小さくて軽い。FF車ならわずか990kg。990kgってのは「ロードスター990S」と同じだから、ライトウェイトスポーツみたいなものである。
そしてクロスビーは安い。FFの上級モデル「ハイブリッドMZ」で233万円。キックスより約150万円も安い。でもカーマニア的な満足度はキックスのはるか上。つまり下剋上である。
ルックスもぜんぜん違う。クロスビーはカワイイきかん坊顔、キックスはトラックみたいな顔で力強さを強調している。カーマニアとしては、クロスビーの脱力デザインは一回転して超好みだけど、キックスは明らかに一般ウケを狙っててまるで圏外。総合すると、キックスよりクロスビーのほうが3億倍くらい好き! クロスビー最高!
ということで、クロスビーを契約しました。支払総額でもギリギリ300万円未満! 私にとって56台目の愛車。そして最後の一台のつもりです。おやじ、涅槃で待つ。
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一/車両協力=日産自動車)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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