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第153回:イタリア人があさる人気車「アツィエンダーレ」とは?

2010.07.31 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第153回:イタリア人があさる人気車「アツィエンダーレ」とは?

中小の部長さんでもクルマ1台支給

イタリアの中古車展示場で車両をながめると、スペックや価格とともに、ひときわ大きく目立つように記されているいくつかの項目がある。その代表的なものは「TURBODIESEL(ターボディーゼル)」である。ディーゼル人気を反映したものだ。
ここ1、2年は「GPL(LPG)」や「METANO(メタン)」といった文字も目立つ。ガソリンでもガスでも走れる車両ということである。
もともとイタリアは欧州屈指のLPG/メタンスタンド普及国であるが、燃費が良いことや、ここ数年の不景気で、以前にも増して注目されるようになった。
さらにLPG/メタンとも二酸化炭素排出量がガソリン車などと比べて低い。そのため、国や自治体が購入奨励金を設定したり、旧市街への進入を許したりしているので、さらに人気が出ている。

いっぽうで、「Cambio automatico(カンビオ・アウトマティコ)」つまりオートマチックはいまだ一部大都市でしか宣伝材料にならないようだ。大きく書くどころか、スペック表の他の文字に紛れさせるかのごとく小さく記されていることが多い。

そうしたイタリアにおける中古車店の表示には、特殊用語といえるようなものもある。
「Km0(キロメトロ・ゼロ)」というのは、走行距離が短いということ。ディーラーが目標台数達成などのために、自社で購入したクルマの場合が多い。ナンバーが付いているもの、付いていないもの両方あるが、ナンバー付きでも、ほとんど走行していないものから、社員がしばらく通勤に使っていたような車両までさまざまだ。

そしてもうひとつ、中古車展示場で目立つのが「Macchina aziendale」というサインである。「マッキナ・アツィエンダーレ」と読み、元・法人車を指す。これが今週の本題である。

法人車といっても、日本とニュアンスはかなり違う。フランスなど他の欧州諸国同様、イタリアにもカンパニーカーという制度が普及している。多くの場合、企業が自動車メーカー系や銀行系のリース会社を通じてクルマを長期レンタルし、社員に通勤・仕事用に貸与する。
ボクはイタリアに来る前は、「日本でいうところの一部上場企業の取締役級じゃないとその恩恵にあずかれないのだろう」と思っていたが、実際はそうでもない。
たとえば、ボクの知るワイナリーでは「アウディA4」を40代の部長級に貸している。「通勤費全額支給」という日本式システムはまずお目にかからないイタリアだが、逆に、中堅企業でちょっとした役職に就いただけでクルマを貸してもらえるチャンスがあるのだ。

イタリアでカンパニーカーのリース料やそれを活用することによる税的優遇は、日本のリース車とそれほど変わらない。しかし普及している背景には、イタリアの公共交通機関網が日本のように発達していないことがある。加えて中・北部などでは隣国に行く場合も陸路を辿ったほうがトータルの時間では早い場合も多々ある。そのため、社員に業務を円滑にこなしてもらうのに、カンパニーカーを導入したほうが効率的と考える企業が多いのである。

イタリアにおけるカンパニーカーの広告各種。「あなたの部署は、ご褒美を受ける資格があります」とのキャッチが躍る。
イタリアにおけるカンパニーカーの広告各種。「あなたの部署は、ご褒美を受ける資格があります」とのキャッチが躍る。 拡大

人気は「アウディA4」と「BMW3シリーズ」

イタリアにおけるカンパニーカー需要は大きい。2009年には年間約30万8000台の乗用車が長期リース用に販売された。
イタリアを代表する自動車雑誌『クアトロルオーテ』には毎年1回、カンパニーカーの買い方や管理などを特集した別冊付録が付いてくる。また、カンパニーカーの導入などに関するセミナーも毎年開いている。

実際のところは2008年と比べると、長期リース車の販売台数は28.2%も減ってしまっている。いうまでもなく金融危機の影響である。
社内全体における車種のグレードダウンも行われているようで、4年前「メルセデスCクラスセダン」が与えられ自慢していたボクの知人は、先日会ったとき「今は『Bクラス』さ」と明かした。
しかし、カンパニーカー用長期リース市場の動向がイタリアで大々的なニュースになるということは、逆にその需要が今なお重要であることを表している。

カンパニーカーといえば先日、新たに面白いデータが発表された。イタリアにある自動車リースの業界団体が調べた「リース用途の車種別2009年販売ランキング」である。
それによると、1位は「フィアット・グランデプント」の9.91%、2位は「フィアット・パンダ」の6.21%だ。ただしこれら2台の統計は、企業で営業車や配達車として使うクルマも入っているからで、社員に貸与しているクルマのランキングは3位以下をみるべきだろう。
3位「アウディA4」(5.47%)、4位「BMW3シリーズ」(4.97%)、5位「ランチア・デルタ」(4.93%)、6位「フォルクスワーゲン・パサート」(3.81%)、7位「フィアット・ブラーヴォ」(3.53%)、8位「フォード・フォーカス」(3.41%)、9位「アルファ・ロメオ159」(3.39%)、10位「フィアット・クロマ」(3.21%)という結果だった。

エンジンではディーゼルが88%と圧倒的だ。燃料の経費負担を考えれば当然の結果といえよう。
いっぽうこれはボクの経験に基づく私見に過ぎないが、イタリアの路上を走っているクルマのうち、「アウディA4」や「BMW3シリーズ」は個人ユーザーも多いのに対して、「アルファ159」や「フィアット・クロマ」のカンパニーカー比率はかなり高いと思われる。

リース車ランキング3位の「アウディA4」。
リース車ランキング3位の「アウディA4」。 拡大
リース車ランキング4位の「BMW3シリーズ」。
リース車ランキング4位の「BMW3シリーズ」。 拡大
「アルファ・ロメオ159」(右)もリースカーとして人気。シエナのディーラーで。
「アルファ・ロメオ159」(右)もリースカーとして人気。シエナのディーラーで。 拡大

元・法人車が人気なワケ

話を中古車ディーラーに戻そう。
イタリアの中古車店で「元・法人車」と書かれたクルマの大半は、リース会社から一括して中古市場に出されるものだ。この「元・法人車」の人気が意外に高い。

理由はこうだ。2〜3年落ちがほとんどだが、もっと年式が浅いものもある。価格は新車の7割程度だ。ただしカンパニーカーは装備てんこ盛りの場合が多いので、クルマによってお得度はさらに大きい。
走行距離も3万km前後。メーカー認定中古車扱いだと徹底的に掃除して納車してくれるから、内外装とも新車と比べてあまり遜色(そんしょく)ない。そもそも乗員や荷物を満載して毎日酷使しているカンパニーカーは少数だから、ヤレはあまり進んでいないのだ。
運転手付きで使用されていた大型車は、さらに「いたわり」が反映されている。

したがって「元カンパニーカー狙い」という自動車ユーザーはイタリアに結構多いのである。この国では、あまり「まっさらの新車」にこだわる人が少ないのもそれを後押ししている。
ボクの知り合いの音楽家ダヴィデも数年前、子供ができたのをきっかけに、まともなクルマが必要になり「フィアット・スティーロ」の元・法人車を手に入れた。

ここからは余談だが、ボクは究極の“法人車”を知っている。
それは毎年9月イモラ・サーキットで行われるスワップミートで出会える。何か? といえば「白バイ」である。
イタリアの各市にある「都市警察」という組織が放出するパトロール用のバイクだ。ちなみに、警察の「直売」ではなく、人手をまわりまわって売られているものが大半だ。
同じイタリアの警察でも、国家警察や「カラビニエリ」といわれる軍警察のものは払い下げられることは少ないが、都市警察は各市の管轄なので、そのあたりが「ゆるい」のであろう。

また、実際はそのまま公道走行してはいけないものの「都市警察」を示すイタリア語が完全に消されないまま売られているところも、「ゆるさ」を感じさせる。

もう一例は、前回もちょっと紹介したイタリア半島の南にある小国マルタ共和国だ。そこでは、かつて日本で郵便配達に使用されていたと思われるバイクをたびたび目撃する。あなたの町を走っていた郵便バイクも、地中海の風を感じながら余生を送っているかもしれない。

まっさらの新車にこだわらない「法人車狙い」ユーザーの普及は、世界のリサイクル推進にも貢献するのでは? というのがボクのささやかな期待である。

(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ、BMW、Audi)

元カンパニーカーの「フィアット・スティーロ」を手に入れた友人の音楽家ダヴィデ。
元カンパニーカーの「フィアット・スティーロ」を手に入れた友人の音楽家ダヴィデ。 拡大
イモラのスワップミートに出品されていた市警察払い下げバイク。ガムテープの下に透ける文字からして元ボローニャ市警察のものだ。
イモラのスワップミートに出品されていた市警察払い下げバイク。ガムテープの下に透ける文字からして元ボローニャ市警察のものだ。 拡大
日本の郵便バイク。マルタ共和国で。
日本の郵便バイク。マルタ共和国で。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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