第148回:「ダサかっこいい日本車」が流行の兆し?
2010.06.26 マッキナ あらモーダ!第148回:「ダサかっこいい日本車」が流行の兆し?
絶版和製クーペ
「Il tempo vola」−時は飛ぶ− とはよく言ったものだ。「トヨタ・セリカ」が生産終了して4年、「日産180SX」(欧州では200SX)が生産終了して12年がたった。にもかかわらず、イタリアやフランスでは、いまだにそれらを時折見かける。
横綱級としては「日産フィガロ」がある。イギリスで並行輸入が行われたこともあって、すでに生産終了から18年近く経過するのに熱心な愛好者がいる。ディーゼル全盛の今日、そうしたガソリン車に乗り続けていることや、クルマがよく磨かれていることから察するに、オーナーはそれなりのエンスージアストである。
よく考えてみれば、安くてスタイリッシュな日本製クーペは、今日新車で買おうと思っても買えない。したがって、ユーザーとしては以前買ったモデルを大切に乗るのが、楽しみを続けるための唯一の手段になりつつある。
目まいを覚えるクルマたち
しかしボク自身はといえば、そうしたスタイリッシュなクーペたちよりも、1980年代の「もっと普通の日本車」を欧州で見つけたときのほうが、頭がクラクラっとする。
どんなに地味なモデルでも寝食を忘れて研究開発に携わった人がいる。したがって、こう名付けることに迷ったが、今回はあえて「ダサかっこいいクルマ」と呼ばせていただこう。クルマが醸し出すムードを読者諸兄に伝えるのに、最もふさわしい言葉だと思うからだ。
【写真4】 は2010年3月、パリで撮影した5代目「マツダ・カペラ」である。欧州では「マツダ626」の名で販売されていた。日本ではディーゼル仕様に搭載されていたプレッシャーウェーブ・スーパーチャージャーで話題を呼んだモデルだ。教習所でもよく使われてきたから、これでクルマの手ほどきを受けた読者も多いだろう。ドイツ圏を中心にヒットしたモデルだが、国産車シェア高きフランスであえてこのクルマを選んだ人がいるかと思うと、感激してしまう。
次の【写真5」と【写真6】は、先日ボクが住むシエナで見つけた3代目「日産オースター(T12系)」である。欧州では「ブルーバード」のバッジが付けられ販売されていた。
英国工場製のためイギリスではいまだ見かけるが、欧州大陸側では珍しい。とくにイタリアでは、激レアモデルだ。なぜならこのモデルが現役だった1980年代後半、イタリアにおける日産の販売力は、まだ日本車輸入規制時代の余波を引きずっていて脆弱(せいじゃく)だったからだ。
デザインに関していえば、新車当時は無個性の極みに感じたものだが、必要以上に情感をあおった造形が多い今日にあっては、妙に潔さを覚えるから不思議だ。
だがボクが最近目撃した日本車のなかで、最も強い目まいを起こしてその場に倒れそうになったクルマといえば、3代目「マツダ・ルーチェ」だろう(写真7と8)。作曲家・黛敏郎がイメージキャラクターを務めていた角型4灯の前期型ではなく、横型2灯の後期型である。
地下鉄6号線の高架下、ヘタをすれば他車にぶつけられるような曲がり角に無造作に駐車していたところからして、現オーナーはとくにクルマ好きではなさそうだ。しかし、あの議論を巻き起こした超メルセデス似顔のまま、本場欧州にも投入されていたとは。
もう少しで「cool!」
楽しくウォッチングしてきたが、それらの車齢を振り返れば、「マツダ・カペラ」と「日産オースター」が約20年、「マツダ・ルーチェ」に至っては30年近く前のモデルということになる。
考えてみてほしい。アメリカならまだしも、30年前の欧州で日本車はけっしてメジャーな存在でなかった。それもルーチェのようなトップモデルに大金はたいくということは、かなりアンビシャスな行為だったに違いない。それに比べたら、今日「iPad」や「iPhone4」を初日に並んで買うなどというのは、なんと些細(ささい)なことよ。
紹介したクルマたちの現オーナーが何代目かは知らない。だが、今日の日本車の地位の陰には、こうした時代の製品を勇気をもって買ってくれたユーザーがいたことを忘れてはならないだろう。
そんなことを書いていたら、知人のイタリア人がわが家に遊びに来た。
土産を入れてきてくれた手提げバッグを見ると「よい女の子」「ハッピーバッグ」「喜びの財布」「魔法の○○」などなど、奇妙な日本語が多数書かれている。「コール私」という、自動翻訳機で生成したようなフレーズもある。いっぽうで、絵柄は限りなくチャイニーズだ。
後日調べてみると、このバッグは「ダンプリング・ダイナスティ(だんご王朝)」というブランドのものだった。仕掛け人は、英国出身の女性イラストレーター F.ヘーウィットとアジア通俗研究家のA.テントンのお二人。
上海・北京・香港を移り住んできた彼らは、現地のフリーマーケットで売られている品々にインスピレーションを得ながらグッズを制作しているという。ヨーロッパの都市部で、販路とおしゃれピープルのファンを、着々と獲得しているようだ。
ボクからすると、その絵柄はパリでルーチェに出会ったときと同じ目まい誘発モノだが、友人は日本人の家を訪ねるにあたり、気合いを入れて選んでくれちゃったのだろう。
昨今こうしたモノが欧州で人気を呼んでいるのには、「KENZO」や「ISSEY」などモダンなオリエンタルテイストがもてはやされた時代とは一線を画した、「アジアのダサかっこよさ」がある。もしこのムーブメントが本格的になれば、欧州で生き延びてしまったダサかっこいい日本車も「Coo〜l!」と呼ばれ、珍重される日がくるかもしれない。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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