ポルシェ・パナメーラターボ(4WD/7AT)【試乗記】
大きいサイズの911 2010.02.19 試乗記 ポルシェ・パナメーラターボ(4WD/7AT)……2458万1000円
ポルシェ製4ドアセダンの頂点に君臨する、「パナメーラターボ」。500psの超ド級4シーターは、どんな走りをみせるのか? そして、その乗り心地は……?
ポルシェ印の“時の人”
1月も終わりに近づいたとある日、仕事の打合せに向かうと現場は大騒ぎだった!! みんな、口から泡を飛ばして激論を戦わせている。ヤバイ、すっかり乗り遅れてしまった……、って、議論のテーマは仕事じゃなくて「iPad(アイパッド)」。みんな朝の3時まで、パソコンの前でiPadの発表を待っていたのだ。で、「3Gはいらないんじゃないか」「コーションのところに3Gの通信会社は後日発表とあるゾ」「オプションのキーボードどうする?」「カメラないんだ」と、話題は尽きない。
傾向として、「3Gなし、16GBの“素”のヤツ」を買う人と、「すべて付けた最高スペック」を選ぶ人にわかれるようだった。で、これはどこかで見た光景だ、と思った。そうだ、思い出した。記憶の糸を辿ると、数カ月前、「ポルシェ・パナメーラ」が出た時と似ている。「ターボはアリ、ナシ?」「やっぱヨンクは欲しいよね」「せっかくだからオプションのセラミックブレーキ入れちゃおうかな」などなど。ま、iPadは本気で選んでいるけどパナメーラは妄想、という違いはありますが、「思ったよりデカいね」という感想が出たのは同じだ。
ここで試乗したのは、iPadで言えばWi-Fi+3G の64GBにあたる、“全部載せ”の「パナメーラターボ」。ターボだから四駆で、しかもオプションの「スポーツクロノパッケージ・ターボ」も、黄色いキャリパーが目印の「ポルシェ・セラミックコンポジット・ブレーキ」(PCCB)も付いている。顔とお尻が別の人みたいな、ケンタウルスっぽい外観デザインにはいまだになじめないけれど、乗り込むとホッと落ち着く。それはなぜ?
4人みんなが満たされる
オフホワイトの上品なレザーシートに腰掛けるとポルシェの文法に則ってタコメーターがドライバー正面にくるから、身も心もしっくりくるのだ。
ただし、センターコンソールのシフトセレクター周辺にスイッチ類がずらっと並ぶデザインには賛否がわかれそう。ダイヤルをぐるぐる回して直感でエアコンなどを操作する方式が増えつつある今、いちいち視線を下に落として「えーと、エアコンの吹き出し口の変更はここか」とスイッチの種類を確認してから操作するのはいかがなものか。個人的には古いと感じた。
銀色の円盤で操作するアウディやBMWがiPodだとすれば、スイッチがたくさんあるパナメーラは80年代のラジカセっぽい?……なんてうだうだ考えたことは、しかし、走りだすときれいさっぱり忘れてしまう。
こんなに大きなボディなのに、走り出した瞬間に「ポルシェだ!」と思えるからだ。ドライバーがマシンにビルトインされて精密機械の一部になったように感じる、不思議で幸せな感覚はほかのポルシェと同じだ。自分が乗り込むと、ジグソーパズルの最後の1ピースがピタッとはまった瞬間のように感じる。
良くできた機械と一体化する感覚は心地よく、タバコ屋の角を曲がるだけでも楽しい。こういった場面での乗り心地も上々で、20インチ(!)のミシュラン・パイロットスポーツ(フロントが225/40ZR20、リアが295/35ZR20)を履きこなしている。
日本仕様のパナメーラの足まわりは、どのモデルもPASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム=可変ダンパー)とアダプティブエアサスペンションの組み合わせとなる。「ノーマル」「スポーツ」「スポーツ・プラス」の3種類のセッティングから「ノーマル」を選べば、市街地での乗り心地はしっとりとした快適なものになる。路面からのショックを軽くいなしつつも路面からの情報が確実に伝わる、という絶妙のセッティング。同乗者から不満の声は出ない、どころか、ドライバーが後ろを振り向いたらみんな寝ている可能性があるほど快適&楽ちんだ。
走りの質に妥協なし
面白いのは、「ノーマル」モードのまま速度を上げると、速度の上昇に応じて足まわりが強靱になるように感じることだ。はて? ポルシェ・ジャパンによれば、スピードが上がったりハードなコーナリングを敢行した場合、必要とあらば「ノーマル」モードの範囲の中でダンパーが固められるというのだ。そして温和なドライビングスタイルに戻ると、ダンパーは再び平和なセッティングとなる。逆に、「スポーツ」モードや「スポーツ・プラス」モードで走っていても、路面のグリップが低下した場合などには柔らかいセッティングに変更になるという。
でも、「スポーツ・プラス」モードにセットしたら同乗者からクレームがくることは覚悟したほうがいい。それは、乗り心地が悪くなることよりも、シフトショックが大きくなることが大きな理由だ。「スポーツ」および「スポーツ・プラス」モードではエンジン特性のマッピングが変化、よりアグレッシブな特性となる。エンジンのレスポンスが鋭くなるほか、トランスミッション(PDK)の反応も変わる。オートマチックモードであっても高回転まで引っ張るようになり、シフトダウンは敏感になる。そして、この時のシフトショックがかなりのものなのだ。
けれども、同乗者さえいなければダンパーも固められる「スポーツ・プラス」モードはドライバー天国。フルスロットルを与えると、ブースト圧は一時的に10%上昇、最大トルクも平時の1割増しの770Nm(78.5kgm)へとアップする。4.8リッターのV8ツインターボは、低回転域ではブ厚いトルクを、高回転域では圧倒的なパワー感を提供するほか、わずかなスロットル操作に敏感に反応する繊細さも兼ね備えている。1.9m超の横幅の広さだけは気になるけれど、このクルマにひとりで乗っていると後ろに2枚ドアがあることを忘れてしまう。「iPadは大きなiPhoneだ」という声があがったけれど、「パナメーラターボ」は大きな「911ターボ」だった。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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