シトロエンC4ピカソ 1.6Tエクスクルーシブ(FF/6AT)【試乗記】
まったくブレない 2010.02.04 試乗記 シトロエンC4ピカソ 1.6Tエクスクルーシブ(FF/6AT)……377.0万円
マイナーチェンジで新エンジンが積まれた「C4ピカソ」。その走りは、どう変わった?
経験を生かして
日本でいちばん売れているシトロエン車はこの「C4ピカソ」だと聞かされて、一瞬驚いたが、冷静に考えれば妥当な結果かもしれない。ルノーのベストセラーは「カングー」だし、「プジョー307」は約4割がSWだったからだ。
日本人のミニバン好きが反映された結果ともいえるけれど、フランスのメーカーは「2CV」や「キャトル」の時代からユーティリティ系を得意としていることが、ユーザーにも伝わっているんじゃないだろうか。
シトロエンにおいてその歴史を紐解くと、戦前から存在した「ファミリアール」と呼ばれる車種に行き着く。セダンのキャビンを前後に伸ばして3列シートとしたもので、ミニバンとワゴンの中間といえるモデル。このように昔から多座席車の経験があったのは事実だ。
C4ピカソは車名のとおり「C4」をベースとしながらも、前席頭上まで伸びる巨大なウインドスクリーン、名車「DS」を思わせる、ステアリングコラムから斜めに生えたシフトレバー、荷重変化に対応するリアエアサスペンションなど、独自のデザインやメカニズムをいくつも採り入れている。
おかげで7人全員が楽しく快適にドライブできる空間を作り出すことに成功した。シトロエンの独創性だけではなく、戦前から続く多座席車作りの経験が生かされた結果といえるだろう。
ミニバン向きの心臓
そのC4ピカソが2009年にマイナーチェンジを受けた。日本上陸からまだ3年ということもあり、ボディはリアウィンドウ下にクロームのモールが入り、インテリアは2列目シートのヘッドレスト形状が3列目と共通になったことぐらいが違いだ。装備面では、従来15万円のオプションだった電動サンブラインド付きパノラミックガラスルーフが標準でつくようになったことが目立つ。でも最大の変更点は、エンジンが一新されたこと。
従来はPSAプジョー・シトロエン自製の2リッター自然吸気を搭載していたが、新型は、PSAとBMWが共同開発した1.6リッターターボを積む。その結果、143psと20.8kgmだった最高出力と最大トルクは、140/150psと24.5kgmになった。しかも最大トルクは1400〜3500rpmという幅広い回転域で発生させる。最高出力の数値が2種類あるのは、いままでどおり2種類あるトランスミッションに応じてチューニングを変えているせいだ。トルコン式4段ATが140ps、EGSと呼ばれる6段2ペダルMTが150psとなる。
新エンジンは動力性能だけではなく、環境性能も高められている。欧州モードにおける1km走行あたりのCO2排出量は、今回乗った6段EGS仕様で197gから173gに減少している。とはいえ日本ではエコカー減税の適用は受けられないのだが、クルマ好きならそれよりも、車重2tのボディに3.5リッターV6エンジンを積んだ国産ミニバンが減税になっている制度の不合理性に文句をいうべきだろう。
その加速は、旧型よりも明確に力強い。最大トルクを1400rpmから出すスペックどおり、ターボの段つきは発進直後を含めて感じられず、全域で自然吸気2.5リッター級のトルクが享受できる。ミニバン向きの特性といえるだろう。静粛性はもともと高いレベルにあったが、エンジン音がきめ細かくなったので、いままで以上に気にならなくなった。
EGSはDレンジに入れっぱなしでも、シフトアップ時の減速感があまりない。このあたりは旧型も同じだった。違うのはMレンジでパドルシフトしたときのマナーだ。スロットル開度でトルクをコントロールできるターボエンジンのおかげで、ひんぱんに変速しなくても必要な加速が手に入るようになった。余裕を身につけたという表現が似合う。そんなエンジンに対して、シャシーも旧型とは少しだけ異なる印象だった。
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移動の快感
トルクアップに対処したためか、コイルスプリングのフロントサスペンションが固められたようで、低速では少しゴツゴツ感をともなう。エアスプリングを使ったリアはフンワリユッタリのままなので、その印象がより強調される。ただし速度を上げると硬さが消え、フラットな姿勢を保つようになる。そしてコーナーでは、ロールが抑えられたことで、見かけによらずクイックなステアリングとの相性がよくなった。
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旧型では切った瞬間にグラッとロールさせぬよう、繊細な操舵が求められた。それは昔の「DS」や「CX」にも共通する、シトロエンらしい部分でもあったのだが、新型はスパッと切ってもグラッといかない。多くの人が、スムーズにターンインできるようになったと感じるはずだ。
それでいて接地性の高さは相変わらずで、荒れた路面でも豊かなストロークによって、路面をグリップし続ける。この部分のポテンシャルはリアと釣り合っている。シトロエンの伝統芸でもある“粘り腰”に身をまかせ、きれいな弧を描きながら曲がっていくことが気持ちいい。ドリフトとは違う種類のドライビングの楽しさがそこにある。
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たとえエンジンがターボつきになり、それに対応して足を固めても、C4ピカソの魅力はなんら変わっていない。パワーやスピードに頼ることなく、乗員全員に移動の快感を提供するというファミリアール譲りの精神には、いささかのブレもなかった。「ミニバンがつまらない」というのは、僕たちが「速さ=楽しさ」という旧い考えから抜け出せないためではないか。C4ピカソに乗るたびに、そんなことを教えられる。
(文=森口将之/写真=高橋信宏/撮影協力=TOYO TIRESターンパイク)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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