日産ルークス・ハイウェイスターターボ(FF/CVT)【試乗記】
究極の軽のカタチ 2010.01.29 試乗記 日産ルークス・ハイウェイスターターボ(FF/CVT)……184万8990円
「ル〜〜ムが、マックス!」のCMが印象的な、日産の軽乗用車「ルークス」。オリジナルモデル「スズキ・パレット」との違いを、スポーティグレードで探った。
OEMの功と罪
実のところ、日産の“軽”は苦手だ。別に嫌いなわけではない。「モコ」に「ピノ」、「オッティ」に「キックス」、そして、新参の「ルークス」。皆さんはそんなことがないかもしれないが、顔と名前が一致しないのだ。おそらくそれは、日産の軽がすべて他社からOEM供給を受けるモデルだからだろう。
たとえば街でピノを見かけても、ピノではなく「スズキ・アルト」、あるいは“アルトの日産版”と見てしまうから、私の意識の中に“ピノ”という名前が残らない。だから、いつまでたっても顔と名前が一致しないというわけだ。念のため確認しておくと、モコは「スズキMRワゴン」、オッティは「三菱eKワゴン」、キックスは「三菱パジェロミニ」がオリジナルだ。
そしてルークスは、「スズキ・パレット」の日産版。もう少し詳しくいえば、見かけがおとなしい「ルークスE」と「ルークスG」が「パレット」で、エアロパーツで身を固めた「ルークス・ハイウェイスター」と「ルークス・ハイウェイスターターボ」が「パレットSW」にあたる。
このルークス、2009年12月1日の発売以来、販売はなかなか好調である。発売当月の販売台数は5825台で、軽乗用車ではベスト8に漕ぎ着けているし、日産の乗用車のなかでは、セレナに次ぐ販売台数となった。
一方、「ダイハツ・タント」と「スズキ・パレット」の販売台数を比べると、6848台のパレットは8440台のタントに大きく水をあけられているが、パレットにルークスの台数を加えると形勢は逆転する。製造元のスズキとしても、してやったりというところだろう。
2台並べてみると
試乗したのは、一番豪華な「ルークス・ハイウェイスターターボ」である。日産のミニバンでは定番の人気グレード“ハイウェイスター”が、軽自動車で手に入るというのが面白い。今回はオリジナルの「パレットSW TS」も連れ出すことにした。そうなると、こと細かに比較したくなるのが私のサガで、さっそく並べてみると、イメージとは裏腹にほとんど違いがないことがわかる。
外観では、バッジの違いに加えて、ラジエターグリルとフロントバンパーが独自のデザインになるため、2台の表情はずいぶん違うが、それ以外の部分は、ヘッドライトの形状からアルミホイールのデザイン、リアバンパーの形まで、ふたつの違いが見いだせなかった。インテリアも、シートやドアトリムの色が焦げ茶と黒で違う以外は同じである。カタログを見比べても内容はほぼ同じ。唯一違うとすれば、エアコンのフィルターが、パレットSWでは「抗アレルゲン+カテキン」タイプが標準装着されるのに対し、ルークス・ハイウェイスターでは標準がクリーンフィルターで、「花粉・におい・アレルゲン対応タイプ」はディーラーオプションになることだろうか?
ちなみに、両車の車両本体価格は、ルークス・ハイウェイスターターボが159万6000円で、パレットSW TSが155万9250円と、ルークスのほうが3万6750円高い。
この2台を取っかえ引っかえ乗り比べてみたが、結論としてはまったく同じ乗り味だった。だから、もしどちらを選ぶか悩んだら、デザインが好きなほうとか、結果的に安いほうとか、ディーラーが近いほう、なんて選び方で大丈夫だ。
その名の通り室内ひろびろ
というわけで、ここからはルークス中心に話を進めることにするとして、運転席に着くと、相変わらず開放的な眺めが印象的だ。さらに、センタークラスターまわりの仕上がりなども上々で、軽自動車であることを忘れさせられる。そして自慢のキャビンは十分すぎるほどの広さを誇る。
全幅が限られるので、背が高い軽は見た目には不安定に思えるが、実際に運転してみると、少し硬めのサスペンションのおかげで、不安なほどゆらゆら揺れる感覚はない。乗り心地は、目地段差などのショックを伝えがちだが、必要十分なレベルの快適さは確保されている。
一方、3気筒ターボとCVTが組み合わされたパワートレインは、加速中のゴォーというノイズが耳障りなこと以外は十分満足のいくもので、自然吸気エンジンに比べて一段と力強い加速もうれしいのひと言。シフトショックとは無縁のCVTもスムーズな動きに貢献している。副変速機付きCVTが高速走行時でもエンジン回転を低く保つため(100km/hで約2500rpm)、高速道路を移動するときでも、比較的ラクなのは助かる。気になったのはステアリングフィーリングがあいまいなことで、もうすこしダイレクト感があると文句はないのだが……。
参考までに燃費計の数字を記しておくと、ストップ&ゴーが多い都内を走ったときが12km/リッター台、比較的流れているときが14km/リッター台とまずまずのレベル。一方、高速ではさほど伸びず、15km/リッター前後にとどまった。背が高いぶん、高速では空気抵抗の大きさがネックになっているのだろう。
まあそれもあって、個人的には「こんなに背が高くなくても……」と思うけれど、「ワゴンR」や「ムーヴ」「タント」、そして「パレット」が売れているということからもわかるように、依然として背が高いクルマがもてはやされているのは事実である。ある意味、究極の軽のカタチといえるこの手のモデルが、当分は主流であり続けるのだろう。
(文=生方聡/写真=峰昌宏)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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