第123回:大矢アキオ特選 「北斎」から「キティちゃん」まで!華麗なる路上のプチ・デコ車たち
2009.12.26 マッキナ あらモーダ!第123回:大矢アキオ特選 「北斎」から「キティちゃん」まで!華麗なる路上のプチ・デコ車たち
イタリア版「注連飾り」
ボクが子供の頃、新年には多くのクルマが注連(しめ)飾りを付けて走っていたものだ。今日あまり見かけなくなってしまったのは、古い風習が廃れてきているからだろう。だが、フロントまわりのフラッシュサーフェス化によってグリル開口部が年々小さくなり、注連飾りを縛り付けるスペースがなくなったことも関係あるに違いない。たとえば「三菱i」などは、注連飾りファンに挑戦状を叩きつけているようなデザインである。
近い将来、ラジエターのない電気自動車の普及によって、自動車注連飾り文化に終止符が打たれるものと思われる。
ヨーロッパはというと、クルマのダッシュボードにお守りを貼る行為は古くから見られるが、フロントにお守り系をくくり付ける習慣はない。それは「フォルクスワーゲン・ビートル」、初代「フィアット500(チンクエチェント)」、「ルノー4CV」など「各国の大衆車が皆リアエンジンで、フロントグリルがなかったから」という仮説をボクはたててみたが、信憑性はかなり薄いので読者の皆さんには聞き流して欲しい。
そんな冗談はともかく、欧州でお守り系アイテムの掲示を大切にしているのは、イタリアのトラックドライバーであろう。聖書の登場人物や、カトリック系聖人・聖職者像のデカールを貼っている人が多いのである。
「写真1」はその一例である。20世紀の有名な聖職者・ピオ神父のデカールを2枚も貼ったトラックだ。
手軽かつユーモラス
トラックのお守りステッカーの場合、過酷な労働条件や道路状況のなかで、交通安全を願うドライバーたちの真摯な気持ちがうかがえる。いっぽうヨーロッパ各国の路上では、思わず振り返ってしまうような、面白ステッカーやデカールを貼ったクルマも目撃する。
そこで今回は年末年始スペシャルとして、ここ1年で筆者が欧州各地で標本採取した手軽かつユーモラスなデコレーションのクルマ、名づけて「プチ・デコ車」たちを紹介しよう。
「写真2」は、2009年3月ジュネーブショーに向かう途中のアウトストラーダで撮影したもの。小便小僧が放出するものの行き先は、ボルボのマークである。ボルボ・トラックに乗りながら、「ま、そう大したものでもないんですけどね」という粋な謙遜か。
続く「写真3」は、「ジャパニーズ・デザイン賞」を差し上げたい作品だ。11月に西オーストリアのフェルトキルヒで目撃したものである。葛飾北斎の波を模したデカールをサイド一面に貼り付けていた。一瞬、「SUSHI BAR」の営業車か? と思った。
かわって「写真4」は“プロ”仕様である。「pizza.de」というウェブサイトのものだ。このサイトは、ドイツ全国津々浦々のピッツァ店など宅配ファーストフード店を網羅していて、検索してネット注文ができる。
撮影したのは4月のドイツ・デュッセルドルフ。「舌を出した口」は、このウェブサイトのトレードマークなのだが、テールゲート下部およびバンパーにそれを再現することで、テールランプが「目」となり、後部全体が顔のように見える。カッティングシートの使用量や手間も少ない。かつ後続車のドライバーとしては思わず微笑んでしまう。「アイディア賞」に値する作品である。
いっぽう、「手軽」の基準に当てはまるかどうか知らないが、「写真5」のようなバンも発見した。グラフィティ(落書き)といえばカッコいい。だが、「他人に落書きされ、やけくそになったオーナーがクルマ全体に描いてしまった」と想像することもできる。撮影したパリでは、こうした落書きカーをよく見かける。
最後は2009年の“最新モード”である。ずばり「ハローキティ」だ。
日本ではボクが小学生の頃から、そこいらにいたキティちゃんだが、こちらでは今、空前のブームである。イタリアを例にとると、2008年から「ハローキティ」を扱う専門ショップが各地に次々開店し、イタリア総代理店はミラノおよびローマで「キティちゃん」ラッピング市電も走らせた。こちらのアニメファンの間で知名度が高い単語「kawaii(可愛い)」ムードにマッチしたのであろう。
「写真6」は2月にパリのセーヌ左岸で撮影したものである。フロントフードのイラストは、少々剥がれているものの自転車に乗る我らがキティちゃんだ。
前述の「北斎」と同じく、クリスマスマーケットで賑わうオーストリアのフェルトキルヒで目撃したクルマは、もっと大胆だった。日本における昨今の「痛車」には敵わぬが、周囲のクルマから明らかに浮いている。フロントフードのほか、ダッシュボードにもキティちゃんがいるのを確認できた。
究極のエコだ!
これらのクルマを紹介したのは、もちろん親愛の情を込めてである。笑われ役を進んでできる人をボクは尊敬する。自分に、クルマにキティちゃんを貼って走る勇気はないことからも、それは言える。したがって同じステッカー系でも、普通のドイツ車に有名チューナーのデカールを貼るユーザーよりもはるかに好感を抱くことができる。
もうひとつ言えるのは、シールやステッカーで2倍楽しめるということである。さきに紹介した2代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」、初代「ルノー・トゥインゴ」、3代目「フォルクスワーゲン・ポロ」といった、いわば市場で“旬を過ぎた”クルマたちである。
しかしデカールを施すことで、リフレッシュ感覚をオーナーと謳歌しているのがひしひしと伝わってくる。新車に買い換えることだけがオーナーの満足感を満たす方法じゃないということを、このクルマたちは無言のうちに語っている。究極のエコだ。
2009年にハイブリッド車を買い損ねた人も、彼らを模範にすれば、少し気がおさまるかもしれない。
末筆ながら新年は、「キティちゃんの国から来たおじさん」として、欧州各国の女子にモテることを期待している筆者である。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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