日産ラティオ G(FF/CVT)【試乗記】
なんとかならんもんかねえ。 2012.11.07 試乗記 日産ラティオ G(FF/CVT)……174万6150円
8年ぶりにフルモデルチェンジを果たした「日産ラティオ」。世界150カ国以上で販売されるコンパクトセダンの仕上がりを、上級グレードで試した。
地味に売るにはワケがある
なにはなくとも、これはあの「トヨタ・カローラ」の唯一無二のライバルである。1200台という月間販売目標も、ボディー形式が1種類であることを考えれば、希少なカルト商品というほどでもない。そんな新型「ラティオ」は、しかし、やけにヒッソリと売られている。
「ラティオは新規需要を積極的に開拓するクルマではありません」と断言する日産の担当氏は「既存のお客さまのところに営業マンが出向いてご説明する。あるいはディーラーに来ていただいたときに買い替えをご提案する。ラティオについては、そういう昔ながらの販売法がメイン」と説明してくれた。だからテレビCMは最初から打たれないし、派手なキャンペーンも企画されないのだ。
現在の日本で、この種のコンパクトセダンの需要は大きく二つしかない。
ひとつが「ウチのクルマはこういうものと心に決めた人」の代替需要であり、ラティオではそうした個人ユーザー平均年齢は65歳を超えるという。
もうひとつは営業車需要であり、中でも「小さくて小回りがきくに越したことはないが、セダンのカタチをしてないといけない」という業種。代表的なのは不動産業や医薬・医療関係だそうだ。
後席と荷室の広さに驚く
日本のコンパクトセダン市場はもはやそういう世界なので、それをビジネスとして成立させられるのは今ではトヨタと日産だけ。しかも、トヨタですらカローラと「ベルタ」を統合したくらいだから、新型ラティオも徹底して効率的な商品企画となっている。
すでにご承知の人も多いはずだが、日本で販売される新型ラティオも「マーチ」と同じくタイ製だ。グレードは4種あるが、パワートレインやシャシーのチューニングも1種類のみで、メーカーオプションも数えるほど。試乗車に装着されていたフォグランプやナビもディーラーオプションである。
新型ラティオのボディーサイズやホイールベースは、先代モデルにあたる「ティーダラティオ」とほぼ同等だが、新しいVプラットフォームが採用されたおかげで室内もトランクも広い。特に後席レッグルームはちょっとビックリするくらいで、前後ともに平均的体格の人が座れば、後席で足が完全に伸ばせる。トランクもカローラより大容量だ。
ダッシュボードデザインはマーチに酷似するが、上級モデルのセンターパネルは専用デザイン。中央には立派なルーバー式の通風口を備えており、このクラスの日本車にはめずらしく、そこに開閉シャッターも付くのは、エアコン非装着での使用も想定しているからか。
ラティオは日本でこそカルト一歩手前(失礼!)だが、その実体は中国やアジア、北南米、欧州の一部……で大量に売られる日産屈指のグローバルカーである。
活発にして静か、だが……
新型ラティオで走ってみると、全体の剛性感は高く、リアスタビリティー優先の安定志向。ステアリングの中立付近にカチッと手応えがあって、直進性も問題ない。マーチよりノイズ対策が徹底されており、静粛性も高い。
パワートレインは基本的にマーチと共通。スロットルを“早開け”にしたピックアップ重視の特性になっているだけだが、マーチより車重が100kg近く重いとはあまり感じられない。1〜2人乗車で市街地や都市高速を走るかぎり、意外なほど活発だ。
ただ、運転フィールや乗り心地については、スタビライザーレスの14インチタイヤ……という割り切った仕様なので、実用車の域を出ない。ステアリングのフィードバックは希薄で、ちょっと残念。特別にスポーティーに走る必要はないけど、こういう「さしたる思い入れのない人が乗るクルマ」こそ、運転の実感が得られるチューンにしていただかないと、日本人の平均的な運転技量レベルは落ちるいっぽう……だと私は思う。まあ、これはラティオというより日本車全体の問題なのだけれど。
ただ、マーチの海外仕様や「ノート」などの経験からすると、Vプラットフォームの基本能力は低くない。海外で販売される1.6リッター車やスポーティーモデルはそれなりに味わい深いはずと確信するが、それを日本で売れというのも、日本市場の現状を考えると酷な注文だろう。なんとかならんもんかねえ。
前記のように新型ラティオは全長も先代ティーダラティオとほとんど同じだが、フロントオーバーハングがバッサリと短くて、その代わりにリアのそれが長い。
基本プロポーションはティーダラティオとは大きく異なる。ゆるやかに弧を描くルーフラインは日産ブランドの国際フラッグシップ「ティアナ」に通じる伸びやかなモチーフで、実物のラティオのデザインは独特のオーラを放つ。今回の試乗でも、何度となく、街ゆく人に振り返られた。
新型ラティオは北米では若者のためのスポーティーコンパクトであり、アジアではハッチバックを卒業した若き成功者の証しである。つまり、このクルマは国際的にはけっこう若くてアツいユーザーに向けた商品であり、すでに北南米ではこのデザインがウケて近年にないヒット作となっているという。
シツコイようだが、そんな新型ラティオが日本ではヒッソリと売られる。この状況、ホント、なんとかならんもんかねえ。
(文=佐野弘宗/写真=峰昌宏)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。