日産ラティオ G(FF/CVT)【試乗記】
真面目さの中に隠し持つ胆力 2012.12.17 試乗記 日産ラティオ G(FF/CVT)……174万6150円
オーソドックスなコンパクトセダン、新型「ラティオ」の実力を試した。
見捨てたもんじゃない
頭にクソが付くほど真面目なクルマだ、新型「ラティオ」。
見た目の雰囲気はかなり地味で、はっきり言ってオジサン向きだが、ナメたらいかんぜよ、中身はけっこう逞(たくま)しい。
「もう年だから無意味なけんかは買わないが、いざとなったら黒帯はだてじゃない。昔取った杵柄(きねづか)で、チンピラの一人や二人」みたいな胆力も隠し持っている。日産の中庸路線、なかなか見捨てたもんじゃないのである。
全長4425mm、全幅1695mmと5ナンバー枠におさまるラティオは、2012年10月5日の新型発売までは「ティーダラティオ」と名乗っていた。
その名の通り先代「ティーダ」との双生児で、あちらが5ドアハッチバックだったのに対し、こちらはオーソドックスにトランクを突き出した3ボックスの4ドアセダン。
「仕事用のライトバンみたい」とハッチバックを敬遠する中高年の声に合わせ、ちゃんと一本立ちしたセダンであることを強調する意味もあり、この新型から単にラティオと呼ばれることになった。
少し先立ってモデルチェンジした「ノート」とプラットフォームの大部分を共用するが、ことさらセダンらしさを漂わせる点では、対ティーダの場合と似ている。
全体を貫く「無理のなさ」
全体を貫く好印象のもとは「無理のなさ」に尽きる。
普通のセダンとしてまとめられたにしては、前席はもちろん後席も無理なく広い。身長173cmのドライバーが楽な運転姿勢を取った後ろで、膝の前にはげんこつ3個ぶんを超える空間が残るし、敷居も柱の付け根も乗り降りの邪魔になりにくい。
目の前に大きなヘッドレストがあっても、後席からの見晴らしは広く、不快な閉所感は薄い。ただしシート自体は、サイズは十分にしても全体的に平板だし、後席中央にヘッドレストがないのが残念だ。
この後席バックレストは折り畳めないが、トランクは驚くほど広い。折り畳めないだけでなく、車室との間に分厚い遮音壁があるので、パッセンジャーの頭の後ろから路面やタイヤのノイズも入って来ない。
常に軽くザワ〜ッと聞こえるのは、べつにタイヤが喧(やかま)しいわけではなく、クルマ全体が静かなことによる相対的な現象だ。
走行感覚は、普通に走ればごく普通。これまでの4気筒1500cc(109ps)より大幅に縮小された3気筒1198ccの79ps(「マーチ」とも同じ)だが、数字から受ける先入観よりはるかに元気。
無駄に限界を追わず、低・中速域を太らせたのは、実用車として健康な考え方だ。
めいっぱい踏んでCVTの変速比を低めに抑えたまま6000rpm以上のリミット近くまで引っ張れば、高速道路の追い越し車線で大幅な違反車を追い上げることも可能。その状態でもザラついたエンジン音にはならない。
強いて難を指摘すれば、発進がやや鋭すぎることぐらいか。こんなにポンと出ず、意識的にアクセルを深めに踏ませてジワッと走りだす方が、主なターゲットである中高年ドライバーの心のリズムに合うはずだ。
中高年といえば、そろそろ老眼に悩む世代。それに対しては計器盤のデザインが細かく、燃費など副次的な表示も読みにくい。慣れの問題ではあるが、思い切ってデジタル表示にするのも効果的だろう。
けっこう機敏な操縦性
操縦性も常識そのもの……と言いたいところだが、良い意味で予想外。
その気で攻めると、けっこう機敏だったりする。おとなしく流しているぶんには、ほとんど印象らしきものはない。つまり全体が自然に仕上がっている。
しかしペースを上げるにつれてステアリングの反応などシャープさを増し、クッと切ると同時に鼻先もクッと動く。
さりとて不安を抱かせるタイプではなく、だらだら外側に膨らんだりしないので、あまり運転が得意ではないオジサン&オバサンでも、無意識のうちに希望のラインをたどれている。
万が一の緊急回避的なアクションでも、後輪は確実にグリップを保ち、最低限なんとかかんとか踏みとどまれそうだ。
乗用車としての乗り心地は、昔ながらの感覚の持ち主には、わずかに硬く感じられるかもしれない。しかし“hard”というより“firm(しっかりした)”という方が適切で、半日でも付き合えばクルマとの一体感を味わえるようになる。
そんなラティオは、「大人の夫婦が旅するセダン」なんだとか。
子離れして二人きりの暮らしに戻ったら、ぜひラティオをどうぞというわけか。
なんとなく定年退職後のイメージが漂うが、古女房と近県の温泉でも周遊するには最適かもしれない。
そんな走行パターンを想定した結果の燃費(レギュラーガソリン)は、追い越し車線の速いペースや大渋滞も含んだ高速道路で17km/リッター以上、すいた観光ツーリングで22km/リッター以上、東京郊外の一般道で16km/リッター前後、だらだら流れる都市高速で20km/リッター以上、混んだ都心で12km/リッター以上と、どんな交通環境でも上々の経済性を示した。
こんなルーミーなボディーにわずか1.2リッターでしっかり走ることができ、小排気量らしい低燃費も両立。今や世界の潮流となったダウンサイジング路線に、日産はしっかり波長を合わせている。
じっくり地道に売れ続けてほしいと思う。
(文=熊倉重春/写真=郡大二郎)

熊倉 重春
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.2.26 日本で久々の復活を遂げた「ホンダCR-V」の新型に、北海道のテストコースで試乗。雪上・氷上での“ひとクラス上”の振る舞いに感嘆しつつも、筆者がドン! と太鼓判を押せなかった理由とは? デビューから30年をむかえたCR-Vの、実力と課題を報告する。
-
NEW
スバル・トレイルシーカーET-HS プロトタイプ(4WD)【試乗記】
2026.3.5試乗記スバルから本格的な電気自動車の第2弾となる「トレイルシーカー」が登場。前後のモーターから繰り出すシステム最高出力はドーンと380PS。ただし、それをひけらかすような設定にはしていないのがスバルらしいところだ。スノードライブの印象をお届けする。 -
NEW
ホンダ・インサイト
2026.3.5画像・写真4代目はまさかの電気自動車(BEV)! ハイブリッドからBEVへ、4ドアセダンからSUVへと変身して、「ホンダ・インサイト」が復活を遂げた。ドアトリム/ダッシュボードヒーターにアロマディフューザーと、新たな快適装備を満載したその姿を、写真で紹介する。 -
NEW
BYDシーライオン7 AWD(4WD)
2026.3.5JAIA輸入車試乗会2026堂々たるスタイルにライバルの上をいくパワーと一充電走行距離、そしてざっくり2割はお得なプライスを武器とする電気自動車「BYDシーライオン7」。日本市場への上陸から1年がたち、少しずつ存在感が増してきた電動クーペSUVの走りやいかに。 -
NEW
ついにハードウエアの更新も実現 進化した「スバルアップグレードサービス」の特徴を探る
2026.3.5デイリーコラムスバルが車両の機能や性能の向上を目的とした「スバルアップグレードサービス」の第3弾を開始する。初めてハードウエアの更新も組み込まれた最新サービスの特徴や内容を、スバル車に乗る玉川ニコがオーナー目線で解説する。 -
NEW
第951回:日本が誇る名車を再解釈 「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」の開発担当者に聞く
2026.3.5マッキナ あらモーダ!2026年の「東京オートサロン」で来場者の目をくぎ付けにした「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」。イタルデザインの手になる「ホンダNSX」の“再解釈”モデルは、いかにして誕生したのか? イタリア在住の大矢アキオが、開発関係者の熱い思いを聞いた。 -
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】
2026.3.4試乗記メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。




















