日産GT-R スペックV(4WD/6AT)【試乗記】
日産の本気印 2009.05.14 試乗記 日産GT-R スペックV(4WD/6AT) ……1632万7500円日産自動車が、「世界最高のブレーキ」を目指し開発した“カーボンセラミックブレーキ”を搭載する「GT-RスペックV」。その特別なGT-Rを、公道で試した。
意外な一面
いつも過激な風評ばかり乱れ飛ぶ「GT-R」。それも最新の特別バージョンである「スペックV」ならなおさらだ。あまりにも特別なので、どう頑張っても毎月30台そこそこしか作れないし、「サーキット走行を熟知したメカニックが必要となるため」、全国でも7カ所の販売店でしか取り扱わないんだから。こりゃもう想像して胸を焦がすしかない。
でも実際に乗ってみると、そんなに腕力一本槍ってわけでもなく、一般の流れに交じって平和に走れてもしまう万能選手だったりする。日産がサーキットを舞台に報道関係の試乗会など開催して煽るから、獰猛なイメージばかり先行しているが、それはスペックVの一面でしかなく、本人(クルマ?)のためにも不公平だ。
では、走り慣れた公道で、あらためてスペックVを試してみよう。485psの6気筒3.8リッターツインターボも、デュアルクラッチの「6段MT/AT兼用変速機」も標準モデルのGT-Rと同じ。ただ60kg軽量化されているので、馬力荷重が3.588kg/psから3.464kg/psへと少し減り、そのぶん加速は鋭くなっている……なんて、テストコースで計測しなければ把握できっこない。どちらにしても、料金所からドカッと発進し、ちょっと2速で引っ張れば終わりって感じだ。
重さのワケ
そんなことより、五感を直撃するのは独特のフィーリング。走ろうと思えばどこまでも普通に行けて、たとえば100km/hは6速で2100rpm、5速で2600rpm、4速で3200rpm……と、そこらの乗用車みたいだし、おとなしく流せば燃費も11km/リッター以上まで伸びるのに、やっぱり何かが違う。どこかに猛獣が隠れている。とにかく全体を貫くソリッド感が半端ではなく、わずかに右足に力を込めた瞬間、この重いボディがズガッと飛び出すのだ。どこにも無駄な動きがない。
軽量化の肝は、フロントバンパーまわり、リアウィングと下部のディフューザーなどカーボン化し、マフラーを全面チタンで作り直し、深くキツいシートも強固なカーボンシェル(調整は手動)になったことなどだが、最大のものはNCCB(ニッサンカーボンセラミックブレーキ) 。これだけで一輪あたり5kgも減った。もともと狭かったリアシートも省略されて2シーターになっている。
さらにパキパキした走りを演出するのが、余分な調整機構など皆無、開発陣が「これ!」と決めた減衰力固定式ダンパーと、もちろん標準車より固められたスプリング。できるだけ姿勢を変化させず、常に四輪すべてにしっかり荷重をかけるのが目的で、そもそもGT-Rが軽くないのは、「重いことによってタイヤに充分な縦荷重を与える」のが目的だったりもする。たしかにフロント255/40ZRF20(97Y)、リア285/35ZRF20(100Y) の大きな接地面がギュ〜ッと押しつけられている感触はある。硬いサスペンションで無理にでも水平に近い姿勢を保つのも、これなら正解だろう。
普段使いできるリアルスポーツ
ただし、そこまで執拗に路面を捉えても、やはり重いからには、それなりの遠心力にも耐えなければならない。実際、とても深いバックレストに体を詰め込んでいても、コーナーでは外側の肩や肩甲骨あたりに、「俺、こんなに重かったっけ」みたいな圧力がかかる。そこで先進の駆動系に甘えて気楽に踏むと、瞬間的にテールがズザッと飛び出しそうになる。それと同時にVDCが働いて、実際にカウンターを切るほどにはならないが、「滑る気配がある」のではなく、ごく短時間にせよ「本当に飛び出している」のだ。
高度な4WDシステムを誇るとはいえ、前後のパワー配分は実質的にFRとも呼べそうなほどリア寄りで、リアが滑ってフロントに配分を移すのが、実際のテールスライドに間に合わないような感じだ。これに比べれば、以前のR34のスカイラインGT-Rをベースとした「NISMO Z-tune」では、4WD系のソフトも書き直し、ずっと早くフロントにも仕事をさせるようになっていたから、ヘアピンからの立ち上がりなど、強引に前から引っ張ってくれた。スペックVも、サーキットでの腕試し用と公道用の2パターンが切り替えられたらいいのに。
そこで結論。「スポーツ走行を想定したクルマだから、普段はサーキットの近所のガレージに預け、そこまでの往復は普通のGT-Rで」とか言われているスペックVだが、そんなに特別視せず、真のスポーツマンのための逞しいリアルスポーツカーとして、がんがん乗り回して大丈夫。ガツンと来る乗り心地だって、昔のスポーツカーを知る身としては「こんなもんだろう」程度のレベルだ。レーシングカーも真っ青のカーボンブレーキにしても、意識して熱を入れなくたって普通に効く。パッドを使い果たした場合の整備費がウン百万円というのはビックリだが、実際には想像を絶して寿命は長いはず。日本のクルマで最高の1575万円にはビビっても、な〜に、性能がごく近い「ポルシェGT2」(2642.0万円)にくらべりゃ、安いもんです。
(文=熊倉重春/写真=郡大二郎)

熊倉 重春
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.11.11 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
-
メルセデス・ベンツGLB200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.10 2020年に上陸したメルセデス・ベンツの3列シート7人乗りSUV「GLB」も、いよいよモデルライフの最終章に。ディーゼル車の「GLB200d 4MATIC」に追加設定された新グレード「アーバンスターズ」に試乗し、その仕上がりと熟成の走りを確かめた。
-
NEW
「レクサスLSコンセプト」にはなぜタイヤが6つ必要なのか
2025.11.19デイリーコラムジャパンモビリティショー2025に展示された「レクサスLSコンセプト」は、「次のLSはミニバンになっちゃうの?」と人々を驚かせると同時に、リア4輪の6輪化でも話題を振りまいた。次世代のレクサスのフラッグシップが6輪を必要とするのはなぜだろうか。 -
NEW
第92回:ジャパンモビリティショー大総括!(その1) ―新型「日産エルグランド」は「トヨタ・アルファード」に勝てるのか!?―
2025.11.19カーデザイン曼荼羅盛況に終わった「ジャパンモビリティショー2025」をカーデザイン視点で大総括! 1回目は、webCGでも一番のアクセスを集めた「日産エルグランド」をフィーチャーする。16年ぶりに登場した新型は、あの“高級ミニバンの絶対王者”を破れるのか!? -
NEW
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】
2025.11.19試乗記最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。 -
NEW
第853回:ホンダが、スズキが、中・印メーカーが覇を競う! 世界最大のバイクの祭典「EICMA 2025」見聞録
2025.11.18エディターから一言世界最大級の規模を誇る、モーターサイクルと関連商品の展示会「EICMA(エイクマ/ミラノモーターサイクルショー)」。会場の話題をさらった日本メーカーのバイクとは? 伸長を続ける中国/インド勢の勢いとは? ライターの河野正士がリポートする。 -
第852回:『風雲! たけし城』みたいなクロカン競技 「ディフェンダートロフィー」の日本予選をリポート
2025.11.18エディターから一言「ディフェンダー」の名を冠したアドベンチャーコンペティション「ディフェンダートロフィー」の日本予選が開催された。オフロードを走るだけでなく、ドライバー自身の精神力と体力も問われる競技内容になっているのが特徴だ。世界大会への切符を手にしたのは誰だ? -
第50回:赤字必至(!?)の“日本専用ガイシャ” 「BYDラッコ」の日本担当エンジニアを直撃
2025.11.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズかねて予告されていたBYDの日本向け軽電気自動車が、「BYDラッコ」として発表された。日本の自動車販売の中心であるスーパーハイトワゴンとはいえ、見込める販売台数は限られたもの。一体どうやって商売にするのだろうか。小沢コージが関係者を直撃!






























