第88回:あのクルマの恥ずかしい(?)写真公開 〜大矢アキオ 禁断の秘蔵コレクションから
2009.04.25 マッキナ あらモーダ!第88回:あのクルマの恥ずかしい(?)写真公開〜大矢アキオ 禁断の秘蔵コレクションから
「クルマは外車にするわ」
本欄で「森高千里」といえば、ちょっと前に放映されていた「日産ラフェスタ」のCMソングを思い出す人もおられるだろう。先日ボクは、ひょんなことから1990年代に森高千里が歌う映像を観た。いやー、彼女の髪型といいメイクといい、時代を感じさせた。歌詞も当時を彷彿とさせる。
たとえば1990年リリースの「青春」という歌では「クルマは外車にするわ♪」というフレーズがある。
今日だったら「タタ・ナノでもいいのか?」と突っ込みたいところだが、当時の若者の購買心理を反映していることは確かだ。
さらに「欲しかったパソコンも買うわ♪」という歌詞もある。詞にハイテク家電を使うのは、歌の舞台をアフリカにしてしまったゴダイゴの曲「リターン・トゥ・アフリカ」と並ぶ日本歌謡史上の快挙だ。
彼女の作詞家としてのセンスも評価すべきだと思う。事実、森高千里はファンならご存知のとおり、デビュー当初、アイドルではなく実力派ミュージシャンとしてのキャラクターを前面に打ち出していた。なんでも初期というのは何やら人々をひきつける魅力がある。それは一時期、新人時代の斉藤由貴のテレフォンカードが超高値で取引されていたことからもわかる。
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「シンバ」の名前で出てました
自動車についても、それは同じだ。のちの量産モデルに先駆けて展示される“プロトタイプ”をあらためて振り返ってみると、なかなか興味深い。そこで、今回はボクがかつて撮影した写真や、保存していた資料をもとに、そうしたクルマたちを振り返ってみたい。
まずは現行「フィアット・パンダ」の先行モデルであった「シンバ」。その登場は2002年の12月。世界の5大オートショーではなく、意外にもエンターテインメント色の強い、地元ボローニャショーでのことだった。
「シンバ」のディテールは、今日の「パンダ4×4」の一部バージョンに繋がるものである。なお、「シンバ」は年を越して翌2003年のジュネーブショーで、初代「パンダ」の後継車として公開される。
当初その2代目パンダの名称は「ジンゴ」と名づけられていた。ところがその後ルノーから自社の「トゥインゴ」と似ているとの指摘があり、9月の本格発売開始を前に、急遽「パンダ」に戻されたという、ちょっとした混乱があった。
次はその前年である2001年ボローニャに展示された3代目「日産マーチ」のプロトタイプ「m.me」だ。ラジエターグリルやエアインテークの形状が生産型と違うほか、大胆なグラスルーフが備えられている。
日産といえば、ボクが日本車のなかで特にスタイリング的に好きだった3代目「プリメーラ」のプロトタイプも忘れられない。ボクが撮影したのは2000年のボローニャモーターショーだ。市販モデルは昨年販売終了したものの、9年近くたった今見ても各面の弛緩が心地よい。
デザイナーとエンジニアのせめぎ合い
時計をさらに巻き戻そう。初代「トヨタ・ヤリス(日本名:ヴィッツ)」のプロトタイプ「ファンタイム」である。写真はヤリス発売の前年である1997年ボローニャショーにおけるものだ。
のちにこの生産型が、イタリアで他の欧州車を尻目に新車登録ヒットチャートの常連となることを当時何人が予想しただろうか? ……と考えると感慨深い。
さらに遡って1996年のボローニャには、初代「メルセデス・ベンツAクラス」の予告キャンペーンが展開されていた。フロントを網状の金属パネルで覆ってチラ見できるようにしたり、衝突実験映像が手元のモデルの動きとリンクするようになっていたり。今までのメルセデスでは考えられない「からくり」展示に、新カテゴリーの同車にかけたメルセデスの意気込みが感じられる。
こうしてプロトタイプを見てくると、クローム使いやランプの位置などが生産型と明らかに違うことがわかる。
理想のスタイルを実現しようとするデザイナー、世界の保安基準や生産性、コストをクリアしなければいけないエンジニア、そして販売サイドからの要求という、三者のせめぎあいも目に浮かぶ。
クルマの比ではない!
……と「テビュー時代」を考察してきたが、実は今回いちばん見入ってしまった写真は、1996年のボローニャに展示されたフィアット系電装会社マニェッティ・マレッリ社製のカーナビである。
その頃高級車として存在しながらも、後年ドイツ車を前に敗退してゆく「ランチア・カッパクーペ」に付けられていたものだ。
ちなみに当時、二玄社刊のCG別冊『カーナビの達人』の企画に携わっていたので覚えているのだが、「ルートプランナー」と名づけられたその製品、地図の記録媒体はDVD以前のCDで、国境を越えるごとに違うCDを入れ替えなければいけないという厄介なものだった。本体もうすらデカい。今見ると「お風呂テレビ」のようでもある。そのわりに画面は小さい。たった13年前の製品なのに、やたら古臭く感じる。電子機器の進歩は、自動車の比ではないことを痛感してしまうのはボクだけだろうか。
(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ、FIAT、日産自動車)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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