ルノー・カングービーバップ(FF/5MT)【海外試乗記】
短いだけのクルマじゃない 2009.03.23 試乗記 ルノー・カングービーバップ(FF/5MT)2007年フランクフルトショーにコンセプトカーとして出展された「ルノー・カングービーバップ」。欧州では市販モデルが街を走り始めた。後方にスライディングルーフを採用した新しいカングーはどんなクルマなのか。フランスからのリポート。
こんな時代だからこそ
日本で販売されるルノー車の中で一番売れているのは……そう、「カングー」である。あのダサ可愛いスタイリングと両側スライドドアの実用性、居住性とたっぷりな荷室、ファミリーからビジネスまで広い守備範囲を見事にカバーしているのは、いかにも合理主義の国フランスのクルマらしい。
そのカングーが2代目へとフルモデルチェンジし、欧州では2008年1月に発売となった。ニューカングーは、プラットフォームが「クリオ(日本名ルーテシア)」から「セニック」にクラスアップしたことから、ボディサイズが全長4213mm、全幅1829mm、全高1799mmと大きくなった。数字ではピンとこないかもしれないが、全幅1829mmは、「トヨタ・アルファード」や「ホンダ・エリシオン」とほぼ同じだから、実車を見たらかなり大きいと感じるはずだ。
口の悪いカングーファンは親しみをこめて“デカングー”と愛称をつけたりしているが、実用性は損なわれることなく引き継がれている。
さて、多くのカングーファンが待ち望んでいたコンセプトモデル「BeBop(ビーバップ)」がフランスでリリースされた。市販モデルはコンセプトをほぼ踏襲し、革新的なコンパクトサイズ(全長3871mm)に印象的なツートーンカラーとインテリアで、その強烈な個性を際立たせている。カングーと車幅は同じだが、全長は342mm短く、全高は39mm高い。
ルノーのプレスリリースなどでは全くふれていないが、多くのフランス人に対し「ビーバップ」という名称は、フリージャズを連想させるようだ。
初代の発売以来10年を経て、2代目に生まれ変わったニューカングーが、あくまで実用、合理主義を貫いたスタンダードなものなら、ビーバップは、その乗用車としての快適性と商用車としてのユーティリティを知り抜いたデザイナーが、アドリブしまくってデザインしたクルマなのかもしれない。
今のような時代だからこそ、地味で、エコで、おとなしくまとまったクルマは魅力に乏しい。その点ビーバップは、クルマは本来、自由で楽しい走る移動空間であることをあらためて思い知らせてくれるのだ。
バツグンの開放感
ビーバップのプラットフォームがサイズアップした恩恵は、車体そのものがコンパクトになっても充分に受けることができる。
まず、3.9平方メートル(ルーフと窓)の広いウィンドウからもたらされる光で、キャビンは広く明るい印象になった。フロントには、2つの控えめなサンルーフが、後方には前方に大きくスライドするリアサンルーフが備わる。さらに、それに続くテールゲートのウィンドウも下げられるので、頭上180度のパノラマ感と、今までにないオープンエアーの楽しさを味わうことができる。
インテリアは、ボディカラーに合わせ、2つのタイプが用意される。「Be FUN」は、オレンジとシルバーのボディカラーを基調にブルーのダッシュボード(コンセプトカーと同じ)と、大胆な色遣いが楽しい。かわって「Be CHIC」は、赤と黒のボディカラーを基調に、チャコールグレーのダッシュボードで落ち着いた雰囲気。
曲面を多用したインパネには、カーナビゲーションが標準装備され、素材の質感も格段に良くなった。ただ、見慣れぬブルーのダッシュボードは楽しいけれど、いささか戸惑いを覚えるというのが正直な感想だ。安っぽくも見える。
フロントシートはニューカングー同様にヒップポイントが高くなり、厚みやホールド感も良くなっている。それに比べ独立可倒式リアシートに、前席ほどの快適さがないのは残念だ。これは、最大1462リッターの荷室容量とのトレードオフなのだろうが、最大の特徴である開放感を最も味わえる後席には、もっとゆったりとしたシートが欲しいところだ。
ユニークなカタチゆえ、リアシートへの乗り降りは2通りの仕方が可能。まずは普通に、フロントドアから前席をスライド&倒しての乗り込みだ。ただ、ベーシックモデルのフロントシートは、その都度シートポジションやリクライニング角度を調節しなければならないのでかなり面倒くさい。
もっともそのあたりの使い勝手の悪さは折り込み済みで、子供なら山登りをするようにテールゲートからの乗り降りを楽しむことができる。勿論、セキュリティは万全で、内側からは、テールゲートやウィンドウの開け閉めはできない。
使い勝手は悪くとも……
ビーバップのエンジン、ガソリンが105psの1.6リッターモデル、ディーゼルは1.5リッターで85psと100psの2種類が用意される。今回試乗したのは、日本導入の可能性もある!? 1.6リッターのガソリンモデルだ。
カングーと比べてコンパクトなボディは、ホイールベースが380mm短く、ロードクリアランスは20mmも高くなっている。機敏で旋回性能に優れた走りは期待できそうだけど、自分のドライビングスタイルにあわないロール感や腰高感があると嫌だなと思いながら走り始めたのだが、そんな心配は無用だった。
背の高さを感じさせないコーナリングは、セニックから流用されたサスペンションと、このクラスにしては太いタイヤ(205/60 R16)によるところが大きく、ダイナミックな走りが楽しめた。
今回の総走行距離は約1300km。高速道路約900km、市街地約400kmを走った燃費は、カタログデータに若干届かない12.2km/リッターだった。
ゆったりとしたニューカングーのテイストと比べると、とても同じファミリーとは思えないビーバップ。数々の安全機能に加え、音響やサーフボードキャリアなど豊富なオプションも用意されている。
多少の使い勝手の悪さも笑って許せる、久々に楽しく目立つクルマだった。だってBeBopだものね。
(文=沼口高幸/写真=野間智)

沼口 高幸
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