最新トランスミッション比較「ツインクラッチ&トルコンレスAT」(後編)【動画試乗記】
AMGスピードシフトMCT 2009.02.27 試乗記 メルセデス・ベンツSL63AMG(FR/7AT)……2107.0万円
オートモード付きMTとマニュアルモード付きAT、その違いは一体どこにあるのか? 技術解説と試乗テストの両面から、それぞれの特徴を浮き彫りにしていく。
自動車技術ライター 松本英雄がメカを解説
メルセデス・ベンツが、SLの高性能モデル「SL63AMG」に採用した「AMGスピードシフトMCT」(以下MCT)は、オートマチックをベースに、スポーティでダイレクトな変速を追求した進化型トランスミッションだ。購入時にこれをBMW M3のDCTと比較検討する人はいないだろうが、BMWとメルセデスがそれぞれ異なるアプローチからスポーティで気持ちのいい走りを目指しているのは興味深いところ。特にATをベースに構造的な見直しを行い、スポーティな走りに対応させたトランスミッションは、これまでほとんど見当たらなかった。
MCTの技術的な特徴は、従来のオートマチックのシステムからトルクコンバーターを廃止し、代わりに多板クラッチを採用したところにある。一般的にオートマチック車がマニュアル車と比べてダイレクト感やエンジンレスポンスが欠けるように感じるのは、トルクコンバーターの構造上の問題が大きい。
トルクコンバーターというのは、流体クラッチのこと。仕組みを簡単にいうと、回転物Aから回転物Bへとトルクを伝達する間に液体であるオイルが介在し、Aがオイルの回転の渦を生み出し、Bを回転させるようなイメージだ。そのためAとBの間では回転差が生じる。その回転差が「トルコンの滑り」で、これがスポーティな走りの感覚を削いでしまう原因となる。エンジンを100まわしても90しかタイヤに伝わらないような感覚をドライバーが感じ取るからだ。
MCTは、そのトルコンの部分に何枚かの摩擦版(=クラッチ板)をかませることによって、液体を介さずにトルク伝達を実現している。回転物Aと回転物Bの間には隙間なくクラッチが敷き詰められているため、トルクの伝達がダイレクトに行われ、ドライバーはエンジンが生み出す回転エネルギーのすべてが駆動系に伝わっているような感覚を得ることができる。トルク伝達のロスが少なく、反応も早いのが特徴だ。
このシステムの長所は、エンジンのトルク伝達効率が高く、レスポンスに優れること。手動でマニュアル変速した際にもすばやくギアが切り替わるため、マニュアルトランスミッションのような歯切れの良い変速感を得ることができる。また、ダウンシフトの際に電子制御で自動的にエンジンの回転数あわせを行うブリッピング機能が付いているため、レーシングカーのようなスポーティな雰囲気が味わえる。トルク伝達ロスが少なく、従来のATと比べ燃費面で有利なのも特徴だ。
弱点は、第一にコストが高くなってしまうこと。主に多板クラッチの制御にコストが掛かってしまうため、このシステムは高価なクルマ向きといえる。構造的にも、アイドリング回転域で多板クラッチを回転させるだけのトルクが必要なことから、小排気量(低コスト)のクルマに普及させるのは難しいかもしれない。
いっぽうトルク伝達がダイレクトゆえに、車庫入れのような低速でジワリと力をかけていくような操作ではやや気を遣う。その点は、トルクコンバーター式のほうが滑らかさな動きだしをするため、扱いやすいと感じるだろう。ただしこの点についていえば、MCTにはBMWのDCT同様に、電子制御で変速時のマナーを変えられる機構が付いている。AMGの場合は、通常走行向きの「C」、スポーツドライビング用の「S」と「S+」、マニュアルの「M」の4タイプのシフトプログラムが選べるほか、「RS」というレーシングスタート用のモードもある。これを「C」にすれば、スムーズな発進がしやすくなる。
(文=松本英雄/写真=菊池貴之)
【Movie】五味康隆がドライブフィールをチェック
(リポーター=五味康隆)

松本 英雄
自動車テクノロジーライター。1992年~97年に当時のチームいすゞ(いすゞ自動車のワークスラリーチーム)テクニカル部門のアドバイザーとして、パリ・ダカール参加用車両の開発、製作にたずさわる。著書に『カー機能障害は治る』『通のツール箱』『クルマが長持ちする7つの習慣』(二玄社)がある。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】
2025.12.6試乗記マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。
