トヨタ・ヴィッツ TRDターボM(FF/5MT)【試乗記】
“逆レトロ”カー 2009.02.23 試乗記 トヨタ・ヴィッツ TRDターボM(FF/5MT)……296万2050円
「フィアット500」や「MINI」など、懐かしいルックスのクルマと対極にあるのが「ヴィッツ TRDターボM」。外見ではなく、ドライブフィールがちょっと懐かしいクルマなのだ。
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演技派のエンジン
「フィアット500」や「MINI」、そして「VWニュービートル」などは、カッコこそレトロだけれど、中身は最新だ。だからいざドライブしてみると、運転感覚は良い意味でフツー。ま、レトロな外観と新しい中身のミスマッチが面白いのだと思う。いっぽう、「トヨタ・ヴィッツ TRDターボM」はその逆だった。つまり見た目はヴィッツだけれど、走らせてみると「ホットハッチ」や「ボーイズレーサー」という、ちょっと懐かしい言葉を思い出させるフィーリングがあるのだ。
このクルマに乗っていると、つい「手かきの5段マニュアルシフトが付いていまして、これでいつもの山坂道へ行ってまいりました」と、かつての人気TV番組『新車情報』の三本和彦さんみたいな口調になってしまうのだった。三本さんの辛辣でありながらクルマへの愛情あふれる語り口、痛快だったなぁ……(遠い目)。
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「ヴィッツ TRDターボM」に乗り込むと、まずドライバー正面に3つ並んだメーター(ブースト計、油圧計、油温計)が出迎えてくれる。これは「Master Kit」というこのモデル専用のオプション装備で、円周の上端部に赤いセンターマークが付いた本革ステアリングホイールもこのオプションに含まれる。古典的ではあるけれど、こうした演出は嫌いじゃない。というか、かなり好き。
スターターボタンを押してエンジンスタート。すると「ボッボッボッ」という不機嫌な音を発するアイドリングが“チューニングカー気分”を盛り上げる。いっぽう、走り出して2500rpmも回すと、エンジンの印象は一変する。「コーン」と陽気で、上機嫌になるのだ。この不機嫌と上機嫌を巧みに演じわけるあたり、「おぬし、役者やのう」という感じだ。
硬いけれど、好ましい足まわり
極低回転域でこそセンの細さを感じさせるものの、前述したように2500rpmから上では力強く、かつてのチューニングカーのような扱いにくさはない。4500rpmぐらいから上でグッとパワーが盛り上がる、いわゆる“カムに乗る”感じや、乾いた排気音、アクセルペダルの微妙な操作に弾けるような反応を見せるエンジンのレスポンスが、実際のスピードよりも速く走っている気分にさせる。この活発なエンジンをマニュアルトランスミッションで操るのは、なかなか楽しい遊びだ。
5MTのみの設定ではあるけれど、クラッチは軽く、シフトの作動は確実でシフトミスの心配は少ない。欲を言えばもう少しシフトのストローク量を詰めたいところだ。それでも、しばらくマニュアルトランスミッションから遠ざかっていた方や運転免許取り立ての方でも、安心して扱えるタイプであることは間違いない。
実のところ、エンジンは低回転域でスカスカというわけではないから、昔のホットハッチのように頻繁にシフトする必要はない。たとえば100km/h巡航時、5速だとエンジン回転数は3000rpmで、そのままアクセルを踏み込んでも充分な加速を見せる。でも、マニュアルシフトがお好きな方であれば、シフトダウンして、より鋭い加速を手に入れたくなるはずだ。
ノーマルのヴィッツより15mmのシャコタン化を果たすスポーツサスペンションを装着しているので、乗り心地はあらゆる速度域で硬い。でも、それはイヤな感じがする硬さではなくて、むしろ個人的にはしっかりしていると感じられるもの。段差を乗り越えた後の揺れがイッパツで収まるあたり、ノーマルよりも快適だと感じる場面すらあった。そしてワインディングロードに一歩足を踏み入れると、このサスペンションへの評価はさらに高まる。
オトーサンとヤングがシェアする?
あらゆる速度域で、しなやかにロールしながらコーナーをクリアするのだ。ただ硬いだけでなく、路面の変化に追従して足が伸びたり縮んだりするから、コーナーの途中に凸凹があっても横っ飛びしてしまう恐怖感を味わうことはない。「Master Kit」にはブレーキのスポーツバッドも含まれていて、ブレーキング時のカチッとしたフィーリングも好印象だった。ただし、速度が上がるほどフワフワと頼りない感触になるステアリングフィールはなんとか改善してほしい。
冒頭に「懐かしい感じがする」という意味のことを書いたけれど、じっくり乗れば古臭いのとは違うことがわかる。たとえば扱いやすさと昂揚感を兼ね備えるエンジン、乗り心地のしっかり感と小気味よさを兼ね備える足まわりなど、最新テクノロジーで“昔っぽさ”を演出しているのだ。最新の技術でわざわざ“古さ”を表現するあたり、クルマ作りも曲がり角に来ていると思うけれど、それはまた別のお話。
このクルマをどういう人が買うのか、興味津々だ。たとえばかつて走り屋で鳴らしたオトーサンと、免許取り立ての若者が共用するといいと思う。知り合いのスタイリストさんの話だと、40代、50代のオカーサンが10代、20代の娘さんと洋服を共用するのはごくあたりまえになってきたというから、同じことがクルマで起こっても不思議じゃない。
「トヨタ・ヴィッツ TRDターボM」は単体でも221万5500円、Master KitやLSD、カーナビなどのオプション込みだと300万円近い値段になるので、若者が自力で買うのは難しいと思われる。その値段を考えても、やはりオトーサンとヤングがシェアするのが現実的かもしれない。
(文=サトータケシ/写真=岡村昌宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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