ダイハツ・ムーヴコンテXリミテッド(FF/CVT)/カスタムRS(FF/CVT)【試乗速報】
昔と変わらぬ箱庭勝負、違うのは…… 2008.09.16 試乗記 ダイハツ・ムーヴコンテXリミテッド(FF/CVT)/カスタムRS(FF/CVT)……130万7250円/160万1250円
「カクカクシカジカ シカクイ ムーヴ コンテ」はその名のとおり、四角いスペース系ムーヴだ。「タント」があるのになぜ? と首を傾げるリポーターは、その違いを探るべく幕張の試乗会場へ向かった。
狙いはドコ?
まずは久々の試乗会とあって、挨拶を兼ね商品企画の責任者から話を聞く。いまやスズキからトップの座を奪って自ら軽自動車の盟主を任じるダイハツは、乗用車だけでも十指に余るモデルを擁する。だが、部品単価で1銭1厘のコストを削る軽自動車をそんなに抱えてどうする? と思いきや、ざっくりいってプラットフォームは同じで、違いは外板のみなのだ。
コンテの場合も、パーツの75%はムーヴと共通だ。背の高い「スペース系」のほかにミラなどの「セダン系」もあるのだから、こりゃ完全に着せ替え人形だな。
昔と違ってセダン系よりスペース系のほうが人気だというのはなんとなく分かる。普通車だってそうだから。で、ここからが重要。すでにムーヴ(全高1630mm)とタント(1750mm)があるのに敢えてその中間(1645mm)のムーヴコンテを出した理由は意外なところにあった。
ライバルの「スズキ・ワゴンR」とともに新境地を拓いたムーヴも、初代登場から数えて早13年。一旦定番化すると年ごとにユーザー層は高齢化していく。一方タントは、このところ普通車からの「下級移行」が目立つ。それ自体は歓迎するにしてもファミリー臭が濃くなり、ともに20代30代の若者にはややダサさが鼻についてきたということらしい。
それをリセットするのがカクカクシカジカ、スクエアなボディなのだという。そんなもんかなあ、昔は逆だったのに。
余裕の室内にオドロイタ!
それではと、同行のカメラマン、女性編集者とともに3人でNAの「コンテ Xリミテッド」に乗り込む。いっそ彼女に書かせたらよかったのにと思わないでもない。それはともかく、なにげなくコラム根元のノブを捻ったらエンジンは当然のようにシュルシュルとかかったのだが、実はキーそのものは最初からドアのアームレストに入ったままだった。そう、上から2番目の「X」グレード以上はこしゃくにも電子カードキー式なのである。
驚くことはまだあった。狙いが狙いだからここだけは外せないということなのか、シートの作りが破格に豪勢なのである。かつての「シトロエンDS」を想わせる厚手のファブリックはこのクルマの場合、淡いグレーに品の良いエンジの縁取りが配され、シートアレンジも多彩。ロングソファモードと称するフルフラットにもなる。
前席の左右バックレスト間には引き出し式のアームレストもあって、担当デザイナーは古いクルマにも造詣が深そうだ。これらは最廉価版の「L」も含めて全車標準。加えて、ひとつ上の「Lリミテッド」からはさすがに全自動とはいかないものの、スイッチを押しさえすればひとりでにスライドして乗降を助ける「バックスイッチ」や、大型ラクシャリーサルーンも顔負けの「運転席パワーエントリーシート」が備わるのだから恐れ入る。
とここまで書いてきてふと資料を見返すと、なんとその“プレミアムソファシート”はフランス人デザイナーが手掛けたものだという。むべなるかなである。
事前の説明では、棲み分けを強調してか、ムーヴやタントはパセンジャー重視、こちらはドライバーに重きを置くということだったが、トールボーイで大幅に容量をアップした室内はセダン系の比ではなく、前後席とも依然充分な居住空間をもつ。セダンならアッパーミドルクラスにも匹敵するレッグルームやヘッドクリアランスの余裕は、思わず軽自動車なのにズルイと叫びたくなったほどだ。
必ずしも有り難くないターボ
NAのムーヴコンテは女の子用、ターボと今風の足まわりで決めたカスタムは男の子用。実際、カスタムのインテリアはNAと同じ素材ながら一転して黒が支配する男の世界だ。しかし、果たしてそんなステレオタイプの品揃えでいいものかどうか。速い遅い以前に使いやすいのが一番ではないかと、こういうところに拘ってしまうんだなぁ、僕は。
理由の第一が58ps対64psの数字以上に感じられるパワーギャップ。たしかに車重850kgに3人乗車と撮影機材満載ではムーヴコンテにとって辛かっただろうが、それを差し引いても加速の鋭さには明々白々たる差がある。どうやらNAはファイナルレシオの違いが示すように発進トルクの確保に専念したかったようで、その後の伸びが限られているのだ。かといって残念ながらターボのカスタムが楽しいわけではない。CVT特有の定常的な性格とターボに不可避な若干のライムラグが災いして、パワー感にメリハリがなく、雲を掴むようなのだ。
楽しいかどうかはひとまずおくとしても、少なくとも乗り心地はNAのほうが好ましい。車高が5mm低く、タイヤもひとまわり偏平な165/55R15 75Vを履くカスタムは締まった足まわりが予想されるが、事実は逆。ターボ装着で鼻先が重くなった(どんだけ?)のか、時としてフロントの揺動が収まらないのだ。電動アシストのパワーステアリングやブレーキのフィールは悪くないのに、これは惜しい。
このところ軽自動車と縁遠かったが、これでようやく分かったぞ。これだけポテンシャルの高まった軽自動車諸君、もっともっと基本性能を磨きなさい。さもないと、いつまでも「普通車ごっこ」で終わっちゃうぞ。それが勿体ないと、トラクション重視派の僕は思うのだ。
(文=道田宣和/写真=荒川正幸)
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道田 宣和
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