BMW135iクーペ(FR/6MT)【ブリーフテスト】
BMW135iクーペ(FR/6MT) 2008.05.15 試乗記 ……559.5万円総合評価……★★★★
BMWの「1シリーズ」にクーペボディが加わった。現代の「2002」と謳われるコンパクトな3ボックスモデルは、3リッターターボの強心臓を持つ。その走りやいかに?
ファッション性を捨て、走りで勝負
1シリーズの新しいラインナップ、「135iクーペ」をBMWは名車「2002」の再来と謳う。コンパクトなサイズにしてもそうだし、何よりクーペというより2ドアセダンと呼ぶほうがしっくりきそうなスタイリングは、たしかにそんなイメージを想起させる。
ただし、それが本当に狙ったものなのかはわからない。1シリーズの期待を上回る人気で急遽クーペをデザインしたものの、ロングノーズの1シリーズをベースに全長を3シリーズ以下まで切り詰め、それでいて後席のヘッドルームを確保しようとしたら必然的にこうなっただけという気もする。正直、手放しで賞讃できるほどスタイリッシュとは思えない。けれど妙に納得させられてしまうのは、やはりブランド、そして積み上げてきた歴史の力だろうか。
もちろん、3シリーズが随分立派になってしまった今、このサイズで3ボックスシェイプの、しかも小気味よい走りを予感させるBMWが登場したことへの期待感も大きく作用しているのは間違いない。そして嬉しいことに、135iクーペの実力は、期待に十分応えるものだと言えそうだ。
見た目ほどには軽くない車重や大パワーのターボエンジン、Mスポーツの足まわりなどが構築する走りの世界観は、3シリーズクーペのものと基本的に共通の、どちらかといえば重厚なものなのは事実。しかし内外装から感じるタイトな凝縮感、そして335iクーペにはない6段MTがもたらす歯切れ良いドライブフィールが、久々のBMWらしい小股の切れ上がったようなテイストを堪能させてくれるのである。
問題はMTで538.0万円という安くはない価格だが、決して高くはないハッチバックの「130i Mスポーツ」が495.0万円と考えれば、むしろリーズナブルと言うべきかもしれない。ファッション性という意味でどれだけの惹きがあるのかは微妙だが、それなら他にも選択肢はある。この135iクーペは、走りにこだわり、自分のために主張をもってクルマを選べる人にこそオススメしたい。
さらに付け加えるならば、その魅力を余すことなく味わうためには、是非ともMTを選んでほしいところである。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
BMWでのエントリーグレードが1シリーズ。5ドアハッチバックのみでデビューし、後に3ドア(日本未導入)、クーペ、カブリオレと、ファミリーを拡大した。
クーペモデルのエンジンは、日本に導入された3リッターターボのほか、欧州ではディーゼルが2種用意される。さらにクーペ人気の高い北米には、3リッターNAもラインナップする。
(グレード概要)
日本仕様は、ラインナップ中最もハイパワーとなる3リッターツインターボエンジンを搭載。スポーツサスペンションやエアロパーツを含む「Mスポーツパッケージ」を標準とした「135iクーペ M-Sport」のみが販売される。トランスミッションは6段MTのほか、受注生産の6段ATを選ぶこともできる。ステアリングギア比が可変する「アクティブステアリング」はオプション設定。
【車内&室内空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★★
デザインは1シリーズハッチバックなどと共通。クオリティは驚くほどではないものの、見やすいメーターパネルや液晶モニター、シンプルにまとめられて扱いやすいスイッチ類等々によって、居心地の良い空間に仕立てられている。
もちろん、それにはiDriveの貢献が大きい。とっつきは悪いが、慣れればブラインドタッチで多くの機能を呼び出すことができ、またスイッチ類の数を激減させることを可能にしたこの装備が、最近のBMWの運転環境を劇的に進化させたのは間違いない。
それに代表されるように、走りを楽しむためのクルマらしくデザインや使い勝手の面でも運転への集中を阻害することのないよう配慮されているのは、さすがBMWといったところ。操作系を運転席を囲むように配置したコクピットスタイルは捨てたが、実は本質的な部分では、その哲学はさらに研ぎ澄まされているというわけ。
ただし、きらきらと光を反射する標準のアルミアクセントトリムは、陽の向きによっては視界の邪魔と思えることもあった。それだけがマイナス点。
(前席)……★★★★
サイズのわりに室内幅は広いとはいえない1シリーズだが、決して窮屈に感じさせるわけではない。特にこの135iクーペの場合は、そのタイト感すら心地良い演出と感じられる。乗員が車体の比較的内側に座っていて、さらに前輪がかなり前方に置かれていることから足元スペースも十分で、右ハンドルだがペダル配置に違和感はない。
レザー張りとされたスポーツタイプのフロントシートは電動調整式の大きく張り出したサイドサポートを備える。座る時には身体をはめこむような感覚となるが、一旦収まってしまえば不快感はないし、コーナリング時には身体がブレることなく、快適に走らせることができる。また、それでも不満な向きのために、こちらは手動となるが太腿部分の拘束力を調整できるサイサポートも備わっている。
(後席)……★★★
想像以上に使える空間となっている後席。2ドアのため乗り込みは面倒ではあるが、いざ落ち着いてしまえば、ルックスを犠牲にしてまで確保した(?)、長いルーフのおかげで頭上スペースもそれなりに確保されているし、前席の下側に爪先を入れられ、膝の前の空間にも余裕があることから、子供だけでなく大人でも苦痛を感じることなく長時間座っていることができそうだ。ちなみに乗車定員は4名。この後席も2名用と割り切られている。
しいていえば、前席シートバック背面にハード樹脂素材が使われていて、膝頭をぶつけると結構痛い。前に座る人はシートをスライドさせる時には後席の住人に一声かけてほしい。あるいは、どうせ人を乗せる機会は少なそうなのだから、ヘッドレストはもう少しコンパクトに収納できるものでもよかったかもしれない。
(荷室)……★★★★
大きな開口部をもつラゲッジスペースは全面ファブリック張り。こういう細かなところへの配慮が、クルマ全体の良いモノ感向上に繋がっている。12V電源やランプも装備されており、広さも370リッターと十分。ホイールハウスの出っ張りで横方向こそやや狭めになるとはいえ、高さも奥行きも想像以上に大きい。2人分の荷物を置く空間と考えれば、これでも十分過ぎるほどだが、まだ足りなければ左右分割可倒式のリアシートを倒せば最大815リッターまで容量を拡大することもできる。フラットなスペースは使い勝手もよさそう。またオプションでバックレスト中央部にスキー板の収納に便利な、スキーバッグ付きトランクスルーも装備できる。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
最高出力306ps、最大トルク40.8kgmというエンジン出力にして、車重は「335iクーペ」より90kg軽い1530kg(サンルーフ無し)とくれば、刺激的な走りを期待させるには十分。しかし走り出しの印象は思いのほかジェントルだ。そう感じさせるのは、低回転域から図太いトルクを発生する、そのエンジン特性に拠るところも大きい。なにしろ、発進はクラッチペダルを踏む左足を浮かせるだけで事足りるし、街中だろうと一旦6速まで入ったら、停止するまでそのままシフトダウンは不要といっても過言ではないほどなのである。
それでいて中速域以上では直列6気筒らしいスムーズさで吹け上がり、回転でパワーを稼ぐ感覚まで味わわせてくれる。剛性感たっぷりに決まる6段MTを駆使して、それを自在に唄わせていると時の経つのを忘れるほどだ。
335iにて6段ATとの組み合わせで登場した時には、一瞬のタメすら感じさせないデジタル的なレスポンスに味気なさも覚えたものだが、MTとの組み合わせでは、反応にBMWエンジンらしい繊細さもしっかり継承されているとわかって嬉しくなった。追ってATも投入される予定だが、このエンジンの魅力を味わい尽くすなら断然MTを選ぶべきである。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
Mスポーツサスペンションを備え、それもランフラットタイヤを履くだけに快適性は半ば諦めていたのだが、実際にステアリングを握って驚いた。これまでのイメージとはまるで別物の快適性が実現されていたからだ。バネ下の重い感じはまだ皆無ではないものの、荒れた路面でも鋭角的なショックを伝えることはなく、時にしなやかさすら感じさせる、十分納得できる乗り心地が実現されているのである。
フットワークも実に小気味よい。饒舌な手応えのステアリングを切り込むと、ノーズが俊敏に、そしてきわめて正確に反応。コンパクトなボディをより一層タイトなものに感じさせてくれる。しかも立ち上がりでは、強大なパワーとトルクを余さず路面に伝えるトラクション性能の高さに任せて、300psオーバーのFRとは思えないほど思い切り良くアクセルを踏んでいけるのだ。
ランフラットタイヤの特性による轍への敏感さ、グリップ限界近くをさまようような時の手応え感など、思い切り攻め込んでいくと引っ掛かる要素もある。しかしそれでも、ついつい時間を忘れてしまうほど痛快な走りっぷりに仕上がっていることは間違いない。
(写真=荒川正幸)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2008年4月4日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2008年型
テスト車の走行距離:4629km
タイヤ:(前)215/40R18(後)245/35R18(いずれも、ブリヂストン POTENZA RE050A☆ RFT)
オプション装備:メタリックカラー(7.5万円)/電動ガラスサンルーフ(14.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(5):山岳路(2)
テスト距離:295.1km
使用燃料:30.49リッター
参考燃費:9.68km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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