フォルクスワーゲン・ティグアン(4WD/6MT)【海外試乗記】
リトル・トゥアレグ登場 2008.03.26 試乗記 フォルクスワーゲン・ティグアン(4WD/6MT)2007年フランクフルトショーのVWブース。コンセプトカーの主役がup!だとしたら、生産車の主役はこのティグアンだった。世界屈指のピープルズブランドが生んだコンパクトSUVに、ハンガリーで乗った。
『NAVI』2008年1月号から転載。
価値を見つめ直して
「いやぁ、自動車の生産なんてギャンブルですよ。だってたった1車種の失敗で、経営的に危険信号が灯っちゃうだから。ホント怖いですよね」
こう語るのは梅野勉フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン(VGJ)社長。2006年、晩夏。まだ暑さしつこく残る京都でインタビューした際の言葉である。
実際、VWにとってフェートンの失敗は痛かった。メルセデスSクラスのライバルを自ら名乗り、莫大な開発費に加え、旧東独の古都、ドレスデンにはガラス貼りの新工場を建設するなど巨費を投下。しかし販売はスタート直後からまったく振るわず、たちまちヨーロッパの巨大企業の足下を揺るがせたのである。VWに限らず、世の中のほとんどすべてのブランドが、プレミアム路線に突っ走った時代のことだった。
しかしVWは見事に甦った。高級化ひと筋から舵を切り、コアバリューである小型セグメントの充実を図ったのである。ゴルフやポロ・ファミリーの充実がそれに当たるし、ジェッタやパサートも各々が属するセグメントで、ベンチマークの役割を果たしている。
そんなVWブランドが生む最新のピープルズカーが、先のフランクフルトショーで正式デビューしたティグアンだ。トヨタRAV4やホンダCR-V、ニッサン・エクストレイル等と直接競合するコンパクトSUVであることは、ひと目見ればわかるだろう。
プレスカンファレンスの説明によれば、同カテゴリーの販売は世界的に好調に推移し、特にヨーロッパでは2002年に30万台だった市場規模が、今後倍増する可能性が高いという。ドイツ製コンパクトSUVといえばBMW X3という先駆者が思い浮かぶが、それに勝るとも劣らない性能と価値を、よりアフォーダブルな価格で大衆に提供することが、ティグアンに与えられたミッションだ。
“なんちゃって”仕様の用意なし
試乗会の基点となったのはハンガリーの首都ブダペスト。空港駐車場に待ち受けていた試乗車との対面もそこそこに、コクピットに乗り込んだ。
今じゃSUVといったところで、誰もヘヴィデューティーな4×4なんて想像しない。成功するためには都会にも棲める機能性と安楽さ、そしてスタイリッシュな佇まいが求められる。もちろんVWもそんなことは百も承知で、その結果ラインナップはオンロード志向が強いグレードが2種類(ベーシックなトレンド&ファン+上位グレードのスポーツ&スタイル)用意されるのに対し、オフローダー色の濃いグレードは1種類(トラック&フィールド)のみという構成になった。
前者と後者で外観上違うのはフロントエンドの造形で、エアダムが深い“都会用”に対し、“オフローダー”はアプローチアングルを稼ぐ(18度から28度に)バンパー形状を採用している。
搭載されるエンジンはガソリンがもはやお馴染みの1.4リッターツインチャージャー(ただし出力は150psと新設定)ユニット、ディーゼルが2リッターコモンレール式TDI(140ps)の2種類でまずスタート。将来的にはこれに170psと200psの2種類のTSI(ターボのみのシングルチャージャー)エンジンと、170psを発揮する2リッターTDIが追加される。ギアボックスは現状すべてのモデルに6MTのみが組み合わされているが、2リッターTSIユニットと140ps版のTDIにはトルコン式ATが選べるようになることが決まっている。
このうち日本仕様として08年後半から輸入が始まるのは、当然6ATの2リッターTSIモデル。恐らくスポーツ&スタイルとトラック&フィールドの2グレードがカタログに載るはずだ。しかし生憎この仕様は今回の試乗会に間に合わず、今回は1.4リッターツインチャージャー搭載モデルのみドライブできた。
全車ハルデックス・カプリングをトランスファーに用いたフルタイム4WD、つまり4モーションとなり、日本のライバルのように“なんちゃってヨンク”が存在しない点はいかにも生真面目で、本質を重視するウォルフスブルクのメーカーらしい。
日本仕様は期待できる
フロントマスクがトゥアレグに似ているせいかボディを見た第一印象はマッシブに感じられるが、実際には4427×1809×1683mmとそう大きくはない。2604mmというホイールベースはゴルフとパサートのちょうど中間に位置している。ただし車重は1546kgと、日本仕様のゴルフGT TSIより優に100kg以上重く、その上基本が同じでも1.4リッターツインチャージャー・ユニットが30psほど“デチューン”されているのため、動力性能面では若干辛い。特に低回転域はトルクが細く、ちょうどメーター100km/hに当たる6速2500rpm前後から加速しようとすると、かったるさを意識させられる場面が多いのが意外だった。
しかしさすがはドイツ車、もっと巡航スピードが上がり、タコメーターの針が3000rpmが近づく頃から俄然生き生きとしだすから侮れない。右足の動きに対し、実にリニアな反応を見せ始めるのだ。
この高速寄りのセッティングは前:ストラット、後:4リンクのサスペンションにも当てはまる。柔らかな“トレンド&ファン”より、ひと回り引き締まった足がもたらす“スポーツ&スタイル”の乗り心地の方に好感を持ったが、タウンスピードではややコツコツと意識させられる上下動が、速度を増すに連れフラットに変貌していく様が印象的だった。
コクピットの静粛性が高いのも美点のひとつに数えられる。これだけ背が高いSUVでありながら、風切り音は巧妙に抑え込まれ、ロードノイズの遮断も見事のひと言。エンジンルームからの透過音だって低く保たれている。前後席を問わず視界がよく、開放感に富んでいるし、リアシートはスペースが充分確保されていることに加えバックレストの角度も適切だから、これならたぶん長時間に渡る移動でも、乗員全員がストレスなく移動できるだろう。郊外の特設オフロードコースでは、必要充分以上の踏破性能を持つことも確認できた。
2リッターTSIユニット(170ps)と6段ATが組み合わせられる日本仕様なら、今回の試乗車で最も気になった実用トルク不足の問題もあっさり解消されるはず。都会に、自然に、アクティブなライフスタイルを送る人の良きパートナーとして、大いに期待していい。
(文=加藤哲也/写真=フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン/『NAVI』2008年1月号)

加藤 哲也
-
メルセデス・ベンツCLA220(FF/8AT)【試乗記】 2026.8.21 メルセデス独自のオペレーティングシステムと、フル電動化を見据えた最新プラットフォームを組み合わせて開発された新型「CLA」。その先鋒として発売されたハイブリッドモデルの仕上がりを、セダンの上級グレードに試乗して確かめた。
-
マツダCX-5 L(4WD)【試乗記】 2026.8.19 マツダの販売の中軸を担うミドルクラスSUV「CX-5」が、3代目にフルモデルチェンジ。その完成度にはどうしても期待してしまうところだが、実車の仕上がりはどうだったのか? 絶対に失敗の許されない、マツダの基幹車種の実力に触れた。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(FWD)【試乗記】 2026.8.18 クルマの進化か、充電インフラの進化か、それともCEV補助金拡充の効能かは定かではないが、ようやく日本の電気自動車(BEV)も普及期を迎えつつある。ことに「bZ4Xツーリング」は豊かな一充電走行距離と優れたドライバビリティーが自慢のトヨタの最新作だ。FWDモデルの仕上がりをリポートする。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【試乗記】 2026.8.17 BMWの新世代電気自動車の第1弾である「iX3」がいよいよ日本の道を走り始めた。さすが「ノイエクラッセ」をうたうだけあって、内外装だけではなく、運転感覚もまた新しい。「Mスポーツ」グレードの仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・トライデント660(6MT)【レビュー】 2026.8.15 英トライアンフのミドル級ネイキッドスポーツ「トライデント660」が、大幅に進化。エンジンを強化し、フレームやサスペンションを見直すなど、全方位的に走りに磨きをかけてきた。速さと乗りやすさを同時に追求した一台の、ライドフィールを報告する。
-
NEW
トヨタRAV4アドベンチャー(前編)
2026.8.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「トヨタRAV4」に試乗。ご存じのとおり今やトヨタの屋台骨を支えるSUVであり、先代モデルではグローバルでの年間販売台数が100万台に到達。世界で最も多く販売されるトヨタ車の6代目だ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
DS N°8エトワールAWD(4WD)
2026.8.22試乗記DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。 -
メルセデス・ベンツCLA220(FF/8AT)【試乗記】
2026.8.21試乗記メルセデス独自のオペレーティングシステムと、フル電動化を見据えた最新プラットフォームを組み合わせて開発された新型「CLA」。その先鋒として発売されたハイブリッドモデルの仕上がりを、セダンの上級グレードに試乗して確かめた。 -
これは“ヨーロッパ版軽自動車”か? 欧州の新自動車規格「M1E」とニッポンの軽の可能性
2026.8.21デイリーコラム欧州で検討されている、新たな小型電気自動車(BEV)規格「M1E」。手ごろなBEVの普及と域内自動車産業の保護を目的としたこの規格は、軽自動車という独自の小型車を育んできた日本にとってもチャンスとなるのか? 新たな自動車規格の展望と可能性を考察する。 -
FCEVで世界一の販売台数 「ヒョンデ・ネッソ」にみる水素の可能性と普及へのカギ
2026.8.20デイリーコラムフルモデルチェンジしたヒョンデの燃料電池車(FCEV)「ネッソ」は、1014km(参考値)の一充填走行距離を実現したという。進化したゼロエミッションの走りを味わいながら、ヒョンデが目指す水素社会の可能性とFCEVの未来について考えてみた。 -
第292回:350SEが運ぶのは幸福か、それとも究極の不幸か…… 『星の時 4K』
2026.8.20読んでますカー、観てますカーブラジルの女性小説家クラリッセ・リスペクトルが1977年に発表した小説を、女性監督スザーナ・アマラウが1985年に映画化した伝説の作品。「メルセデス・ベンツ350SE」がもたらす運命の瞬間を謎めいた手つきで描き出す。


































