フォルクスワーゲン・ティグアンR(4WD/7AT)
異例の国民車 2021.10.30 試乗記 フォルクスワーゲン(VW)の「ティグアンR」は0-100km/h加速をわずか4.9秒でこなすという快速SUVだ。最高出力320PSの2リッターターボエンジンと左右後輪間のトルク配分も可能にした新しい4WDシステム、さらに35偏平の21インチ(!)タイヤが織りなすその走りを味わってみた。新しい4WDシステム
「ゴルフ」一族のマジメで地味な小型SUV。というのがティグアンに関する筆者の認識で、それゆえ目の前のティグアンRは、目の前にあるというのに、現実味が薄い感じがした。VW自身も2020年11月、現行ティグアンの4年目のマイナーチェンジで、この高性能モデルを新たに登場させた際、「サプライズ」という言葉を使っている。
ティグアンはそもそもゴルフと同じMQBプラットフォームだから、その気になれば簡単に、とは言わないまでも、仕立てる材料はそろっている。なるほど、この手があったか! という意味でも、確かにサプライズである。
VWのSUVとしては初の高性能モデル用に選ばれたエンジンは、新型「ゴルフR」とも共通の最新2リッター直4直噴ターボ、社内で「EA288 evo4」と呼ばれるスポーツユニットの最新版である。ピストンや高圧インジェクションバルブ、ターボチャージャーなどを改良することで、最高出力は先代ゴルフR(第7世代の最終型)より10PS強力な320PS、最大トルクは同20N・mアップの420N・mを絞り出す。
ちょっと前ならV8自然吸気エンジン並みの大パワー&トルクは、7段DSGを介して4輪に配分する。4WDのシステムはまったく新しい。前後トルク配分だけでなく、リアの左右輪のトルク配分も連続的に変化させ、ハンドリングのアジリティー(敏しょう性)を向上させているというのだ。
前後トルクは、低負荷時には100%前輪に配分して燃費を稼ぎ、発進・加速時には最大50:50にまで後輪への配分を増やして、安定性を確保する。リア左右輪へのトルク配分は「Rパフォーマンストルクベクタリング」と名づけられたシステムが担当する。
目覚めのV8(?)サウンド
外観で目を引くのは、大型化された冷却用のエアダクトと10mm低められた最低地上高、それに、なんといっても21インチという超大径サイズのホイール&タイヤだ。21インチなんて、「ベントレー・ベンテイガ」級のスーパープレミアムSUV専用だと思っていたら、時代の変化はモーレツに速い。しかも、偏平率はアッと驚く35である。VWは「R」とつけば、サンゴーにすることに決めているらしい。
運転席は着座位置が高いこと以外、第7世代のゴルフRそのもの、といった印象を受ける。厳密な意味でではなくて、あくまでパッと見た感じの話ですけれど、特に新しい感じはしない。それはでも、安定感、安心感につながってもいる。
インテリアでもうひとつ魅力的なのはスポーティーな形状のレザー表皮のシートだ。これもごくオーソドックスなデザインだけれど、背もたれの部分に「R」の独特のレタリングが刺しゅうしてあって、これが特別なモデルであることを乗員に訴える。
スターターボタンを押すと、デロデロデロッと野性的なサウンドを発して、320PSの1984cc直4直噴ターボが目覚める。知らなかったら、V8だと思うかもしれない。というぐらいの、ワイルドさでもって乗員を驚かせる。
キツめの演出
走りはじめると、乗り心地はメチャンコ硬い。なんせ21インチのサンゴーである。おまけにサスペンションは10mm低められている。とりわけ低速では路面の凸凹をストレートにドライバーに伝えてくる。郊外の一般道の流れに乗ると、キリリと引き締まったこの乗り心地が筋肉質で心地のよいものに思えてくる。ティグアンRは「アダプティブシャシーコントロール(DCC)」を標準装備しており、21インチでサンゴーという超大径、極薄タイヤが伝えてくる路面からの衝撃を、電子制御の可変ダンパーが押しつぶすようにして受け止め、足腰が実によく鍛えられているという感じがする。ボディーの堅牢(けんろう)感はそのまま、信頼感につながってもいる。
もっとも、凸凹路面での揺れ具合ときたら、ラバーコーンのオリジナル「Mini」よりはいいかもしれない……という程度で、かなりヒドイ。けれど、ティグアンのカタチをしたSUVのスーパーカーだと考えれば、このハードな乗り心地も欠点ではなくて、演出だと思えてくる。演出だとすれば、受け入れるしかない。
今回、試乗の舞台は山道でもサーキットでもない、フツーの一般道だったこともあって、Rパフォーマンストルクベクタリングの効果はしかとは分からなかったけれど、比較的重心の高いSUVにしては素直に曲がるということは感じた。1990年代に登場した三菱の「AYC」やホンダの「ATTS」とは異なり、VWのこのシステムはフロントではなくて、リアのディファレンシャルに備えた2つの多板クラッチが、車速やエンジン出力、ヨーなどの情報をもとに左右のトルク配分を最適制御する。筆者の印象では、「ランサー エボリューション」のAYCも「プレリュード」のATTSも、コーナリング中にステアリング一定のまま、アクセルを踏み込むと明確にクイクイッと曲がる感覚があったけれど、ティグアンRにはそういう違和感がない。そこがVWのトルクベクタリングの長所かもしれない。
マカンよりも速い
7段DSGのプログラムはスポーティーで、強めのブレーキングをすると自動的に中吹かしを入れてシフトダウンする。その際の連続的爆裂音は刺激的で、とても4気筒とは思えず、オオッと快哉(かいさい)を叫んでしまう。いわゆるドライブモードを「コンフォート」から「スポーツ」、そして「レース」に切り替えるにつれ、エンジンはほえまくり、ハードなサスペンションはよりいっそうハードになって、ティグアンRの内側に潜む武闘派的心性をあらわにする。
その一方、100km/h巡航は7速トップで2000rpm程度。最近のガソリン内燃機関車としては若干高めながら、ひっそりしていて、その存在を主張しない。乗り心地は硬めだから、すごいものに乗っている感はあるけれど、ドライバーがアクセルを踏みつけない限り、エンジンは燃費を稼ぐことに集中している。
全長×全幅×全高が4520×1860×1675mmのボディーサイズは日本の都市部でも使い勝手がよい。怪物性と実用性がいいあんばいで同居しているのがティグアンRなのだ。
ちなみに、メーカー発表の0-100km/h加速は4.9秒。これは、例えば「ポルシェ・マカン」の6.4秒よりはるかに速く、「マカンS」の4.8秒に迫る。マカンは2リッター直4ターボで754万円、マカンSは2.9リッターV6ターボで977万円である。ティグアンRは684万9000円だから、こと0-100km/h加速に限るとしても、VWはポルシェを出し抜く性能を、よりリーズナブルな価格で提供していることになる。
その意味で、ティグアンRは国民車ブランドが放ったテロリスト、もしくはコンパクトSUV界における革命戦士といえるのではあるまいか。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ティグアンR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4520×1860×1675mm
ホイールベース:2675mm
車重:1750kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:320PS(235kW)/5350-6500rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2100-5350rpm
タイヤ:(前)255/35R21 98Y/(後)255/35R21 98Y(ハンコック・ヴェンタスS1 evo3 SUV)
燃費:10.8km/リッター(WLTCモード)
価格:684万9000円/テスト車=688万5000円
オプション装備:フロアマット<テキスタイル>(3万3000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2850km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:458.4km
使用燃料:46.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.8km/リッター(満タン法)/10.1km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
スズキDR-Z4S(5MT)【レビュー】 2026.1.7 スズキから400ccクラスの新型デュアルパーパスモデル「DR-Z4S」が登場。“Ready 4 Anything”を標榜(ひょうぼう)するファン待望の一台は、いかなるパフォーマンスを秘めているのか? 本格的なオフロード走行も視野に入れたという、その走りの一端に触れた。
-
NEW
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。 -
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気
2026.1.15エディターから一言日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。 -
ルノー・グランカングー クルール
2026.1.15画像・写真3列7座の新型マルチパーパスビークル「ルノー・グランカングー クルール」が、2026年2月5日に発売される。それに先駆けて公開された実車の外装・内装を、豊富な写真で紹介する。 -
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する
2026.1.15デイリーコラム日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。























































