ホンダ・フィットRS(FF/5MT)【ブリーフテスト】
ホンダ・フィットRS(FF/5MT) 2008.01.18 試乗記 ……199万5000円総合評価……★★★★
日本カー・オブ・ザ・イヤー2007-2008に選ばれ、売れ行き好調とされる人気モデル「ホンダ・フィット」。上級モデル「RS」のMTモデルに試乗した。
どっちつかずの「RS」
「RS」。多くのクルマ好きが、レーシング・スポーツの頭文字だと思うだろう。とくにホンダには、すでにタイプRやタイプSが存在しているわけで、どうしてもそういう発想になりがちだ。
しかし新型「フィット」の1.5リッターが名乗るRSはロード・セイリングの略。誤解を避けるためにカタログや広告にも“ROAD SAILING”の注釈がついている。ハイウェイをゆったりクルーズするモデルというわけだ。
ホンダがこの名称を使うのは初代シビック以来。当時のRSに乗った経験を簡単に記せば、エンジンはフラットトルク、トランスミッションはハイギアードで、たしかに巡航仕様だった。
そんな記憶を思い浮かべながら、フィットRSで東京から富士五湖までを往復した。しかもシリーズ唯一の5段MT仕様。レーシング・スポーツ風味を微妙にまぶしたロード・セイリングか? と期待して走り出したが、結論はどっちつかずの乗り物だった。
フィットは卓越したパッケージングを使いこなすことによろこびを感じるクルマ。つまり1.3リッターのCVTこそ本来の姿だと思った。だからこそRSには、もっと明確な性格づけを望みたい。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2001年6月、「ロゴ」の後継モデルとしてデビューした「フィット」。2002年「トヨタ・カローラ」から年間販売台数トップの座を奪ったベストセラー。いままで、115か国で累計200万台が売れた。
2007年10月26日、6年と4か月ぶりにフルモデルチェンジされ、2代目に生まれ変わった。寸法は、全長×全幅×全高=3900×1695×1525mm。高さはそのまま、55mm長くなった。
エンジンは、1.3リッター(100ps/6000rpm、13.0kgm)と1.5リッター(120ps/6600rpm、14.8kgm/4800rpm)の「i-VTEC」ユニットの2本立て。トランスミッションは、FFがCVT、4WDは5段AT、1.5リッターの「RS」(FF)には5段MTも用意される。
(グレード概要)
1.3リッター「G」「L」と1.5リッター「RS」の3グレード構成。1.3リッターのシンプルな外観に比べ、「RS」はエアロパーツなどで飾られるスポーティ仕様。専用のフロントグリル、フロント/リアバンパー、サイドシルガーニッシュ、リアコンビネーションランプが備わる。また、テスト車の5段MTモデルには、VSA(ABS+TCS+横滑り制御)やディスチャージヘッドランプ、本革巻ステアリングホイールが標準装備される。タイヤサイズは、CVTモデルにくらべ1インチアップの185/55R16となる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
簡潔で使いやすかった旧型のインパネに比べると、装飾過多になった。メーターは左右のリングが目立ち、いちばん重要な中央の速度計が目に入りにくい。エアコンスイッチ、カーナビのモニター、エアコンのルーバーが勝手気ままな造形で散在している。見やすく使いやすいのだが、デザインのまとまりは感じられない。RS専用のパープルのトリムはクールでスポーティ。ステアリングホイールは本革巻きで、オレンジのステッチをシートとコーディネイトするなど、さりげない演出が好印象。収納スペースが多いのは旧型から受け継いだ美点だ。
(前席)……★★★★★
「アコード」のシートフレームを使っただけあり、サイズはコンパクトカーとしては大きめで、ホールド性も良好。下に燃料タンクがあるためにクッションの厚みはほどほどで、着座感は硬めだが、形状がカラダにフィットすることもあり2時間程度の試乗では不満はなかった。ファブリックは滑りにくい素材で、落ち着いたパターンともども好ましい。
(後席)……★★★★★
身長170cmの人間が前後に座ると、ひざの前には15cm以上の空間が残り、頭上も余裕。このクラスではトップレベルの広さだ。クッションは薄く硬めであるものの、高さがあり、角度もしっかりつけられているので、快適な姿勢がとれる。床は前席下に燃料タンクがある影響で前端がせり上がっているが、この角度が足を置くのにちょうどいい。後述する複雑な折り畳み機構と広さや座り心地を高度に両立したこの空間構築・座席構造は、コストダウンの影響で近年のコンパクトカーがおざなりにする部分であり、高く評価したい。
(荷室)……★★★★★
このクラスでは文句なく世界一。スペアタイヤを廃したことでフロアは低いし、床下収納のリッドはワンタッチで折り畳めるだけでなく、手前を開けると小物を置くのに便利なネットが出現する。この部分だけを一段高い位置に固定することもできる。後席は背もたれを倒すと同時に座面が沈んで低くフラットに畳めるほか、下に燃料タンクがないメリットを生かして、座面を上げたチップアップモードも用意する。座面にロックはなく、持ち上げたあと足を畳むことで固定されるというロジックは簡潔にして完璧。星をあと2〜3個プラスしたいほどよくできている。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
新型フィットの加速は1.3リッターCVTでもまったく不満なし。1.5リッターMTでは強力、余裕という言葉さえ思い浮かぶ。4000rpm以上で力強いサウンドを発しつつ、レブリミットまでスムーズに回り切るあたりはさすがホンダパワーだ。でもそこにMTというスペックから想像するスポーティさはない。変速時の回転落ちが異様に遅いので、ドライビングのリズムがつかめないのだ。
旧型の1.5リッターMTはこうではなかった。CVT用セッティングを流用したのだろうか。なのにギア比は、トップギア100km/hで約3200rpmもまわることでわかるように、燃費追求型ではなく加速追求型なのだ。クラッチのミートポイントが曖昧で、シフトレバーはストロークこそ短いもののリモコン的なタッチであることも気になった。MT好きの僕でもこれならCVTを選ぶし、それなら1.3リッターで十分という結論になる。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
旧型フィットは路面からの入力をビシビシ伝えるドライな乗り心地だった。マイナーチェンジとともに改善されていったけれど、新型に乗ると別次元の進化を果たしていることを知る。RSは1.3リッターに比べると足を固めているが、基本はしっとりウェットで、低速ではそれなりに揺すられるものの鋭いショックはない。高速道路ではフラット感が高まり、直進性は国産コンパクトカーとしては優秀だ。ところが山道では、ステアリングの感触が人工的であることが気になってくる。とくに切りはじめの反応を意図的にスローに仕立てたようなフィーリングで、加速同様リズムがつかみにくい。ハンドリングそのものはペースを上げても素直で、670kg:380kgという車検証の前後軸重配分から想像するよりニュートラルな特性なのだが、このステアリングのおかげで実際以上にノーズの重さを感じてしまう。ボディサイズやRSというネーミングから想像する軽快感が得られないのが残念だ。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2008年12月17日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2007年型
テスト車の走行距離:2522km
タイヤ:(前)185/55R16(後)同じ(いずれも、ブリヂストンTURANZA ER370)
オプション装備:音声認識HDDインターナビシステム(21万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(5):山岳路(1)
テスト距離:531.8km
使用燃料:42.97リッター
参考燃費:12.37km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】 2025.9.6 空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
NEW
スポーツカーの駆動方式はFRがベスト? FFや4WDではダメなのか?
2025.9.9あの多田哲哉のクルマQ&Aスポーツカーの話となると「やっぱりFR車に限る」と語るクルマ好きは多い。なぜそう考えられるのか? FFや4WDでは満足が得られないのか? 「86」や「GRスープラ」の生みの親である多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】
2025.9.9試乗記クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。 -
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(FF/7AT)【試乗記】
2025.9.8試乗記「MINIコンバーチブル」に「ジョンクーパーワークス」が登場。4人が乗れる小さなボディーにハイパワーエンジンを搭載。おまけ(ではないが)に屋根まで開く、まさに全部入りの豪華モデルだ。頭上に夏の終わりの空気を感じつつ、その仕上がりを試した。 -
第318回:種の多様性
2025.9.8カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。 -
商用車という名の国民車! 「トヨタ・ハイエース」はなぜ大人気なのか?
2025.9.8デイリーコラムメジャーな商用車でありながら、夏のアウトドアや車中泊シーンでも多く見られる「ハイエース」。もはや“社会的インフラ車”ともいえる、同車の商品力の高さとは? 海外での反応も含め、事情に詳しい工藤貴宏がリポートする。 -
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(前編)
2025.9.7ミスター・スバル 辰己英治の目利き「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のなかでも、走りのパフォーマンスを突き詰めたモデルとなるのが「ゴルフR」だ。かつて自身が鍛えた「スバルWRX」と同じく、高出力の4気筒ターボエンジンと4WDを組み合わせたこのマシンを、辰己英治氏はどう見るか?