スバル・インプレッサWRX STI(4WD/6MT)【試乗記】
素性のよさ 2007.11.14 試乗記 スバル・インプレッサWRX STI(4WD/6MT)……393万7500円
2007年10月24日に登場した、インプレッサのホットバージョン「WRX STI」。 308psのパワーを誇る最強モデルはどんな走りを見せるのか。サーキットで試乗した。
大人の説明
ホットバージョンのみに目が奪われるという事態を避けるべく、スタンダード系のターボ付きモデルからは敢えて「WRX」の名を取り下げ、発売タイミングにも“時差”が設けられたのが、今度の「インプレッサWRX STI」。歴代モデルとしては初めて、ボディの基本デザインからを専用開発したというのも、新型の特徴。
これにより、“普通のインプレッサ”に遠慮することなく大幅に太いタイヤを履いたり、走行中負圧となる最適箇所にアウトレットを設けて効率的な排熱処理を行うことが可能になったりしたという。
従来ユニットをリファインしたEJ20型2リッターターボエンジンは、今回も280psに留まった「三菱ランサーエボリューションX」のデータを大幅に凌ぐ308psを発揮。ただし、これは当初からオーバー300psを狙ったわけではなく、「全域大トルクという特性を狙った結果の成り行きである」というのが開発陣による“大人の説明”だ。
300万円台前半というリーズナブルな価格を訴求するためのレスオプション仕様も存在はするものの、逞しく膨らんだ前後フェンダーに18インチのシューズを標準採用し、開発チームも標準シリーズとは別部隊という新しいWRXの誕生に、「今度のインプレッサは軟派になっちゃって……」と嘆いていた生粋の“スバリスト”たちもきっと溜飲を下げていることだろう。
助かる機能
本来ならばその最高速は230〜240km/hに達するであろうものの、相変わらず180km/hリミッターなる野暮なアイテムによってその動力性能全ての開放は許されない日本仕様車。が、そんな鬱憤を晴らすかのように採用されたフルスケール260km/hのスピードメーターと、その左隣=ドライバー正面にひと際大きくレイアウトされた8000rpm以上がレッドゾーンのタコメーターが、6速パターンが刻まれた本革巻シフトノブやアルミパッド付きのABCペダルなどと共にホットな走りを予感させる。
チルトに加えリーチ調整機能もプレゼントされたステアリングコラムの採用で、希望のドライビングポジションを得るのはたやすい作業。Aピラー死角が気にならずすっきり開けた全方位への視界は、新型インプレッサ・シリーズに共通の美点だ。
小気味良く決まるシフトで1速ギアをチョイスし、ハイパフォーマンスモデルとしてはその踏力が軽い方に属するクラッチをエンゲージしてスタート。走り出しの一瞬の力感は、およそ1.5トンという重量に2リッターエンジンという組み合わせによる“想定内”。すなわちそれは決して力強いというわけではないのだが、ここで助かる装備がようやく標準装備となったESC(アンチスピンデバイス:スバル名「VDC」)の拡張機能であるヒルスタートアシスト。坂道発進時の後ずさりを解消するこのデバイスが、上り坂での「太くないスターティングトルク」の印象を巧みにカバーしてくれるのだ。
今後の課題
ひとたび走り出してしまえばもはやトルクの不足感を抱くことがないのは、ツインスクロールターボや吸排気双方のカムシャフトに設けられた可変バルブタイミング機構の威力も大きいはず。とはいえ、本格的にパワーが炸裂するのは3500rpm以上の領域で、そこから7300rpm付近までは新デザインとなってホールド性がグンとアップしたシートバックに身体が押さえつけられるのを実感できる。ということは、実は8000rpmからのレッドライン表示は「少々インフレ気味」でもあるわけで、低いギアではそこまでピッチリ引っ張る意味もあるものの、3速以上では頭打ち感が目立ってくるので、前述7300rpm付近で早々に次のギアへとアップシフトを行う方が良さそうだ。
ゆとりのフェンダーサイズでシューズのファット化が可能となったこともあり、ワインディング路ではとてつもなく高いメカニカルグリップ力を発生。
一方で、そんな際にもヨーコントロールシステムで「無理矢理曲げられている」という感触がやはり今回も残る新型ランエボよりも自然で、あくまでも“ドライバー主体”の印象が強いのもまた、このモデルの特徴だ。ただし、そんなライバルの回頭性の高さを意識した結果か、ターンイン時のゲインが時に妙に高いのは少々気になった。ステアリング切り始め操作に対して、予想と期待値以上の回頭感が発生してしまうシーンがあるのだ。13.0とかなり速いステアリングのギア比も、そうしたテイストに拍車をかけていそうだ。
街乗りシーンでの乗り心地は旧モデルよりも劇的に改善され、「これならば日常ユースでほとんど我慢は必要ない」という水準。オーディオはオプション扱いだがその他の装備は充実しているので、実用車としての高い資質は他のインプレッサシリーズ同様だ。
排ガスのクリーン度が4つ星レベルではないのは惜しいし、2ペダル仕様や競技ベース車をどうするのかというのも今後の課題。が、まずは“デビュー戦”でなかなかの素性の良さを味わわせてくれる、スバルのホッテストバージョンがこのモデルだ。
(文=河村康彦/写真=宮門秀行)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
日産リーフAUTECH B7(FWD)【試乗記】 2026.5.23 新型「日産リーフ」にもおなじみの「AUTECH」が仲間入り。デザインや質感などの上質さを目指した大人のカスタマイズモデルだが、走りの質感がアップしたと評判の新型リーフとは、さぞ相性がいいに違いない。300km余りをドライブした。
-
メルセデス・ベンツSクラス【海外試乗記】 2026.5.22 「メルセデス・ベンツSクラス」のマイナーチェンジモデルが登場。メルセデスの旗艦として、また高級セダンのお手本として世界が注目する存在だけに、進化のレベルが気になるところだ。本国ドイツでドライブした印象をリポートする。
-
マツダCX-5 L(4WD/6AT)/マツダCX-5 G(FF/6AT)【試乗記】 2026.5.21 日本でも、世界でも、今やマツダの主力車種となっている「CX-5」がフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、過去のモデルとはどう違い、ライバルに対してどのような魅力を備えているのか? 次世代のマツダの在り方を示すミドルクラスSUVに試乗した。
-
DS N°4エトワール ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2026.5.20 DSオートモビルから「DS N°4」が登場。そのいでたちは前衛的でありながらきらびやかであり、さすが「パリのアバンギャルド」を自任するブランドというほかない。あいにくの空模様ではあったものの、350km余りをドライブした。
-
アルファ・ロメオ・トナーレ イブリダ ヴェローチェ(FF/7AT)【試乗記】 2026.5.19 2026年3月に大幅改良モデルが発表され、ほどなくメディア試乗会も開催された「アルファ・ロメオ・トナーレ」。今回はこれをあらためて借り出し、一般道から高速道路まで“普通に”走らせてみた。進化を遂げたアルファの中核SUVの仕上がりやいかに?
-
NEW
車載カメラが普及した今、“デジタルサイドミラー”が主流にならないのはなぜか?
2026.5.26あの多田哲哉のクルマQ&Aサイドミラーの役割をカメラが担う“デジタルサイドミラー”は、レクサスやアウディなどで採用例があったものの、普及するには至っていない。その決定的な理由はなにか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんが語る。 -
NEW
マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R(FR/6MT)【試乗記】
2026.5.26試乗記販売台数わずか200台の限定車「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」に試乗。スーパー耐久レース参戦をはじめとするマツダのモータースポーツ活動を担うサブブランドが生み出した初の市販コンプリートカーは、いかなる走りをみせるのか。 -
買った後にもクルマが進化! トヨタ&GAZOO Racingが提供するアップデートサービスのねらいと意義
2026.5.25デイリーコラムGAZOO Racingが「トヨタGRヤリス/GRカローラ」の新しいソフトウエアアップデートを発表! 競技にも使える高度な機能が、スマートフォンのアプリで調整できるようになった。その詳細な中身と、GRがオーナーに提供する“遊びの機会”の意義を解説する。 -
第336回:やっぱり絶交!
2026.5.25カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に200台の台数限定で販売される「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」で出撃した。手作業で組まれた2リッター直4エンジンを搭載するマツダ入魂のスポーツモデルに、カーマニアは何を感じた? -
アウディQ6スポーツバックe-tronクワトロ アドバンスト(4WD)【試乗記】
2026.5.25試乗記アウディの電気自動車(BEV)「Q6スポーツバックe-tron」で、東京・渋谷と静岡・裾野を往復。雨のなかでエアコンを効かせ、高速や峠道を遠慮なく走らせるハードユースに、最新のBEVはどう応えてくれたのか? そこで感じた“本音”をリポートする。 -
ホンダ・プレリュード(後編)
2026.5.24ミスター・スバル 辰己英治の目利き軟派なクーペはアリやナシや。ミスター・スバルこと辰己英治さんが新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。「シビック タイプR」とは趣を異にするシャシーに触れ、話題の「S+シフト」を試し、これからのスポーツクーペ像に思いをはせた。





























