トヨタ・ヴォクシーZS(FF/CVT)/ノアG(FF/CVT)【試乗記】
成功の秘訣 2007.07.21 試乗記 トヨタ・ヴォクシーZS(FF/CVT)/ノアG(FF/CVT)……307万6500円/323万1900円
2007年6月27日、2代目に進化したトヨタのミニバン「ヴォクシー/ノア」。新開発された2リッターエンジン2種類を試す。
![]() |
より堅実に、より使いやすく
「トヨタ・ヴォクシー/ノア」は、月販1万台規模のミニバンである。2001年以来の販売累計は80万台にも及ぶ。いわゆる小型ジャストサイズの大容量実用車として、膨大な車種を誇るトヨタ車の中でも重要な地位を占める。6年振りのモデルチェンジにあたっては、冒険を避けて堅実な進化が求められた。
ヴォクシーとノアは事実上同じクルマだが、取り扱い販売店が、ヴォクシーはネッツ店、ノアはカローラ店と分かれる。外板パネルごと違う顔を与えても、量販規模からいって採算が取れるからだろう。資料によると、「クールなヴォクシー」「親しみやすいノア」とそれぞれの個性は主張されているようだ。
ミニバンは何と言っても室内空間にゆとりがあり、人も物もたくさん積めるだけに様々な使い方が要求され、その中でもシートアレンジは最重要検討課題だ。折り畳んだり、跳ね上げたり、回転させたりして、変化させられることは常識ながら、いかに簡単に済ませるかが肝要。
![]() |
新型では、3列目シートが工夫され、ワンタッチで跳ね上げ、ベルトの端をロック部に差し込むだけで完了する。面倒なものは億劫がって使わないが、これならナマケモノでもやってみようという気になる。
ムダをなくして燃費向上
技術的な新しい試みとしては、エンジンに「バルブマチック」が採用された。これは吸排気の管長を可変にしたり、バルブの開閉時期を可変にしたりして、パワーを稼いできた改良技術の一環。今回はバルブのリスト量を変える。パワーを向上させるだけではなく、むしろ無駄を排除して燃費を稼ごうという作戦だ。
加速が終わって一定速に移り負荷が軽くなれば、バルブを大きく開けるのはロス。リフトを少なくしてムダを減らそうというわけだ。どうせ可変させるなら初期値は上げておこうと、ついでに若干パワーアップも果たし、3ZR-FAE型は2リッターの排気量から158ps/6200rpm と20.0kgm/4400rpm のパワー/トルクを発生する。グレードによって従来の3ZR-FE(143ps/19.8kgm )と使いわけられる。
なお、どちらのエンジンも4WD仕様は若干チューンが低くなる。3ZR-FAEと3ZR-FEの燃費の違いは、10・15モードで、それぞれ14.2km/リッターと13.4km/リッターであるから効果は大きい。
実際に乗り比べてみると、アップ代は加速レスポンスの向上として、確実に体感できるだけの差があるし、スロットル一定にして流した時の変化は何も感じ取れなかったから、弊害はナシということになる。
ヴォクシー/ノアにはこの2種の2リッターエンジンとCVTの組み合わせになるが、装着シートにより8人乗り、7人乗り、5人乗りから選べる。価格も199万5000円から265万5000円の範囲にあり(4WDはプラス22万500円)、さらに身障者の方向けのウェルキャブシリーズを加えると、28車種に及ぶ大所帯となる。
![]() |
![]() |
不満のないレベル
ミニバンを運転して、楽しい例もまれにはあるが、ほとんどの場合単なる運転手として黙々と仕事に励まなければならない。CVTはそれでなくとも無段階変速で抑揚がないから、眠くなりがちだ。新型ヴォクシー/ノアには、少しでも運転操作を意識的に楽しめるようにと、最上級グレードには「パドルシフト付き7段スポーツシーケンシャルシフトマチック」も用意されている。これは専用装備ながら、+−と自分でシフトしてギアポジションを選べるので、Dレンジ走行に飽きたときの気晴らしにもなる。
また「ZS」「Z」グレードに限り、タイヤサイズも標準の195/65R15から205/60R16へ1ランクアップする。それに伴い微々たる差ながらフェンダーの膨らみが増して全幅が1720mmとなり、3ナンバーがつく。ならばいっそのこともっとフレアさせて……とは考えず、あくまでもジャストサイズとして無意味な拡大を避けているところが、ヴォクシー/ノアの良心的な部分なのだろう。
乗り心地は完璧にフラットなわけでもなく、路面によっては微振動が気になることもある。一方、目地段差のハーシュネスやロードノイズなどは巧く抑え込まれ、概ね不満のないレベルにまとめられている。エンジン搭載位置が低い割りには重心高が高く感じるが、ロールが気になるほどではない。動力性能も特に目覚ましくはないが遅いクルマではない。
……というように突出した部分はないかわりに、不満を覚える部分もない。これぞトヨタ車というか、平均点より少しだけ高いところ狙いが量販車として成功する秘訣という、難しいクルマづくりを見せて貰った気がする。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)

笹目 二朗
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。