日産デュアリス20G(FF/CVT)/20G FOUR(4WD/CVT)【試乗記】
ヨーロッパ風味 2007.06.20 試乗記 日産デュアリス20G(FF/CVT)/20G FOUR(4WD/CVT)……270万3750円/291万3750円
「キャシュカイ」として欧州で販売されてきた日産のSUVモデルが「デュアリス」のネーミングで日本デビューを果たした。新型の印象とその走りを報告する。
イギリス生産の逆輸入車
地下鉄1000円。ランチ2000円。英国はいま空前のポンド高。ロンドンの物価はとんでもないレベルになっているという。それを考えると、「日産デュアリス」は安い。こんなに安くていいの?と思うぐらいだ。
念のため説明しておくと、デュアリスは日産車ではあるが国産車ではない。ヨーロッパ向けに開発されたミドルクラスのSUVで、英国で生産される輸入車だ。なのに価格はベースグレード「20S」のFFなら200万円を切る。同じクラスの国産SUV、「日産エクストレイル」より安いぐらいだ。
ヨーロッパではすでに次期型が発表されているエクストレイルとの住み分けは、あちらが悪路走破性も考慮したのに対し、デュアリスはオンロード性能を重視した、ハッチバックとのクロスオーバーという位置づけだという。
プラットフォームは次期エクストレイルや北米向けの「ローグ」、韓国で生産する「ルノー・コレオス」といったSUVと共用。日本仕様は2リッターガソリンエンジンとCVTの組み合わせ。「ラフェスタ」や「セレナ」と基本的に共通だ。
「キャシュカイ」と呼ばれるヨーロッパ仕様では、このほか1.6リッターガソリン、1.5/2リッターディーゼルターボも用意され、もちろんMTも選択できるという。
走りだしても静かな室内
今回乗ったのは上級グレードの「20G」で、FFと4WD、両方をテストできた。ちなみに4WDは現行エクストレイルと同じ「オールモード4×4」を使う。
エクステリアデザインはミニ・ムラーノという感じで、このクラスのSUVとしてはダントツにスタイリッシュだと思う。インテリアはそれに比べるとおとなしいが、丸基調のシフトレバーやステアリングセンターが個性的。内装色は黒のみだが、20Gには標準装備のガラスルーフのおかげで室内は明るい。
前席は背もたれが短めで、身長170cmの自分では肩甲骨の出っ張りが上端のふくらみに当たってしっくりこなかったけれど、座面は昔のルノーを思わせるふっかりした感触で心地いい。シート高は適度で、エクストレイルと同じようにサイドシルがドアにカバーされる構造だから、雨の日でも裾が汚れないのがいい。
前席よりも硬めの後席は、自分サイズの人間が座ると、ひざの前には15cmぐらいの空間が残る。形状は2人掛け前提で、深くシェイプした形状のおかげでホールド感は高かった。その後ろのラゲッジスペースはハッチバックのように、開口部がフロアより一段高い。でもフロアは低く奥行きがあり、左右の張り出しも少ないので、けっこう積めそうだ。
走り始めてまず感じるのは静かなこと。クルージングではエンジン回転数を低く抑えるCVTのためもあって無音に近く、ロードノイズも小さい。音が気になるのは4500rpmあたりからだが、そこまで回すことはほとんどない。欧州での主力となるディーゼル前提で遮音性を考えたことが、この静かさを生んだのだという。CVTはFFでは発進の瞬間の飛び出しが気になったが、4WDでは不満なく、その後の加速力やスムーズさも満足できるレベルだった。
オンロードでしっかり走る
乗り心地は低速では硬めで、段差では大径タイヤがドタバタすることもあるけれど、速度を上げていくとストロークの長いサスペンションがしなやかにショックを吸収し、姿勢をフラットにキープする。ダンパーはドイツのザックスとの共同開発らしいが、全体的な味はプラットフォームを共用するルノーに似ている。あとで現行メガーヌに乗る同業者に聞いたら、好みだといっていた。
電動パワーステアリングは切れ味こそクイックではないものの、フィーリングは素直だし、ロールは一気にグラッとくるタイプでないので安心できる。なによりも、しなやかな足まわりが生み出すロードホールディングの高さが、もっと走ろうという気にさせてくれる。確実なペダルタッチでしっかり効いてくれるブレーキを含め、いろんな部分がヨーロッパ風味なのだ。
4WDでは荒れたダートもちょっと走ってみた。エクストレイル譲りのオールモード4×4は、舗装路用の2WDモード、オート4WDモードのほか悪路用の直結4WDモードがあるし、最低地上高は200mmを越えるから、見た目以上の走破性を発揮してくれそうだった。でもデュアリスでいちばん印象的だったのは、欧州生まれを実感させるオンロードでのしっかりした走りだ。
ファッションのようにブランドでクルマを選ぶ人にとって、デュアリスは単なる日産のSUVでしかないだろう。でも食料品のように原産地で選ぶなら、2リッターのヨーロッパ車が200万円で買えることはとても価値がある。「フォルクスワーゲン・ゴルフ」や「プジョー307」がライバルという日産の言葉は、けっして大風呂敷ではなかった。
(文=森口将之/写真=峰昌宏)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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