第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.03 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する!
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ホンダに感じた一抹の不安
webCGほった(以下、ほった):……というわけで、前回は「ダイハツの展示はスバラシイ! 万歳!」というところまでお話ししましたが。
清水草一(以下、清水):逆に、渕野さんから見てダメダメな出展はありましたか?
渕野健太郎(以下、渕野):ダメダメというか、一抹の不安を感じたのはホンダでした。
清水:ホンダかぁ。「サステナブルロケット」には感動したけど、確かにクルマの展示は微妙だった気がするなぁ。
ほった:なるほど。そのお話、いただきましょう。
渕野:なんというか、展示から「お客さんの顔」が見えなかったんですよ。今回ホンダは、次世代電気自動車(BEV)の「Honda 0シリーズ」を中心にブースを展開したわけですけど、以前のショーでは感じられたワクワクとか、ユーザーに寄り添っている感じがなかった。ブランドのイメージを変えようとしているのかと思いますが、それにしても急すぎじゃないですかね?
ほった:うーん。Honda 0については、既存のホンダとはまったく違うところを志向していますから、「今までとぜんぜん違う!」って部分についてはワタシは納得していますけど。ただ確かに、ロケットや飛行機や、「スーパーカブ」に「モンキー」のカスタムモデルまで同じトーンで展示してたのには、ちょっとムリを感じたかも。
渕野:今回は、メインのHonda 0シリーズが暗いところにポツン、ポツンと置いてあって、ブース全体がそれに引っ張られているようなイメージでしたね。個々のクルマを見れば、例えば「Super-ONE Prototype(スーパーONE プロトタイプ)」とか、「バモスホンダ」みたいな顔の「マイクロEV」なんかもあったわけですから、今までと同じように、親しみやすくてワクワクさせるブースにもできたと思うんですけど……。
たがための「Honda 0シリーズ」か?
渕野:それと、Honda 0シリーズはクルマ自体にもちょっと気になることがあります。プレゼンテーションを含めて、あの3台がどういう人のためのクルマなのかが、わからなかったんですよ。
確かにデザイン的にはどれもすごくチャレンジングで、面白い形をしています。反面、じゃあこれがどういう使われ方をするクルマなのかというのが、見えてこない気がするんですよ。例えば「Honda 0 α」は、リアが垂直に近い面でスパッと切ってるので、スペース性がよさそうに見えますが、左右や下はかなり絞っているので、空間優先のデザインではなさそうです。ではこれはどんな人が使うためのシルエットなのだろう? インテリアが分からないのでなんとも言えませんが、側から見るとプレミアムブランドっぽくてホンダらしくないなと思う訳です。
ほった:ホンダは、表向きにはHonda 0をプレミアムとは定義してないですけど、実際には、そっちの方向にもっていきたいのかもしれませんね。
渕野:私は、ホンダの今のミニマルなデザインを、すごくいいと思ってるんです。あれは“ユーザー目線”を最大限に生かした結果の形ですから。「N-ONE」や「N-BOX」「フリード」「ステップワゴン」「ヴェゼル」とかは、本当にいい。それが0シリーズについては……。
清水:確かに、Honda 0シリーズには、僕も「自分とは関係ないな」っていう感想しかないですね。BEVで先行しているメーカーに追い付き、追い越そうとしている姿勢の表れなんでしょうけど、「世界のどこに、このデザインを望んでいるユーザーがいるのかな?」っていう疑問しか感じなかった。
ほった:うーん。まぁ、ある種の拒絶感があるのは確かですけど。
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今こそ「ホンダe」を思い出すべし
渕野:これまでにもホンダって、初代「シビック」とか「シティ」とか、「オデッセイ」とか「ステップワゴン」とか、いろいろと革新的なプロダクトを出してきましたよね。でも、そこには常にユーザー目線があって、「こういう使われ方をするから、こういうデザインなんですよ」っていう、説得力があったじゃないですか。そういう、プロダクトデザインの王道みたいなことを継続しているメーカーだから、魅力を感じていたわけです。でも0シリーズは、どういうお客さんのためのクルマなのかが、いまだに説明がなされてない感じですね。
ほった:こんだけ長い仕込み期間があったのに。
清水:いや、むしろ仕込み期間が長すぎだよ! Honda 0シリーズは、こうやってショーに出されているうちに古くなって、飽きちゃいました。自分とは関係ないし。もう出すのをやめたらどうですかね?(笑) ソニーと協業している「アフィーラ」も含めて、早く撤退したほうがいいような気がするんですけどねぇ。
ほった:まぁ、世界的にもBEV戦略は見直しのタイミングがきてるって言われていますし。
清水:あー、いやいや。別に「後れをとってたBEV化を進めます!」っていうのは、それはそれでいいの。ただこの形に関しては、「やっぱ0シリーズはやめました! ほかのデザインにします!」でもいいのではと。
ほった:それだったら、「ホンダe」のデザインを復活させてほしいですね、ワタシは。今からでも、絶対遅くない。
渕野:ホンダeのときは、まだ意味がわかりましたよね。
清水:いやいや、あれは素晴らしいミニマルデザインでしたよ! 値段が割に合わなかっただけで。
ほった:それでは、Honda 0シリーズは明日からHonda eシリーズに変更ということで。
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皆の好きなスバルが帰ってきた
渕野:ほかのメーカーだと……皆さん、スバルの展示(参照)についてはどう感じました?
ほった:なんだか「東京モーターショー」みたいでした。いい意味で昔に戻ったなと。前回、新しいことをやろうとして意味不明になっちゃった反省ですかね(笑)。安直っちゃ安直ですけど、「ウィルダネス」シリーズとか「Performance-B STIコンセプト」が出てきたのは、素直によかったと思います。「自分を取り戻したな!」って感じで。
清水:Bはいいよね。昔っぽくて。巨大なリアウイングに目頭が熱くなったよ! 個人的には、スバルにはあんまり未来を見せてもらわなくていいし。
ほった:もう一台のBEVのコンセプトカー「Performance-E STIコンセプト」は……あれで見せたかったのは、新しいデザイン言語なんですかね? 「これからは、このグリルレスデザインでやってくよ!」とか。
渕野:いや。どうやらPerformance-Eに関しては、割と中身もしっかり考えているようですよ。バッテリーの長さとか、搭載位置とか、乗員の配置とか。将来のスバル製BEVの、プロポーションのベースになるんじゃないかと思います。
ほった:でも、スバルのコンセプトカーで一番信用しちゃいけないのは……プロポーションだったじゃないですか。(全員笑)
渕野:いやいやいや。Performance-Eとこれまでのモデルとでなにが違うかというと、要は前輪の位置関係なんですよ。これまでのスバルは、ショーカーにしてもなににしても、ボクサーエンジンを中心にやってきたから、どうしてもオーバーハングが長くなっていた。だけど今回のコレは、要はFRっぽいんです。Aピラーとフロントタイヤの離れ具合なんかを見ると。
清水:それがいいのかどうか……。BEV化でスバルの特徴が消えるのは残念だし、そもそもスバルのBEVを誰が欲しがるのかが見えないなぁ。
ほった:ワタシゃ欲しいですよ。
渕野:それに、このクルマもスバルらしさがないわけではないですから。パッケージとしてはキャビンが割とデカいでしょ。
ほった:「フォレスター」(その1、その2)とかに通じる特徴ですね。
渕野:そうそう。やっぱりスバルって真面目なんですよ。ショーカーなのに、こういうところまでちゃんと考えてしまう。ただ個人的には、スバルにはそういう殻を破ってほしいと思っているので、コンセプトカーはもっと大胆でもいいかもしれません。
ほった:確かに、ショーカーとしては現実的なイメージでしたね。
清水:いやいや! スバルは未来より現実でしょ。
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日本のカーデザインはドイツを超えた?
ほった:しかし、ここまできても輸入車については話題ゼロ(笑)。Kia(キア)が商用車を出展したり(参照)、BYDが「ラッコ」を出したり(参照)、数が少ない割に話題性はあったと思いますが。
渕野:輸入車だと、自分が注目したのはBMWの「スピードトップ」です。前にもお話しましたけど(その1、その2)、本当に「iX3」と同時期にデザインしたとは思えません。フロントまわりをはじめ、スゴい造形でした。前端がかなり尖(とが)ってますけど、真ん中の尖り方と両サイドの寝かし方の差なんか、実にうまくデザインしています。
清水:いやー。もうああいう暑苦しいのは食傷ですよ。あー速いんでしょうね、ゴージャスなんでしょうねって感じで。それより僕が実物を見てビックリしたのはiX3ですよ! あのフロント、真ん中が凹(へこ)んでるじゃないですか!
渕野:ノーズの中央が真っ平らですね。真っ平らなので、凹んで見えるんです。
ほった:搬入のときに壁にでもぶつけちゃったんでしょ、きっと(笑)。スピードトップのほうが5兆倍は魅力的っすよ。
清水:いやー。俺は真っ平らなiX3だな。ギョッとするじゃない! あれはあれで個性だよ。
ほった:そうですか? ぜんぜんパンチが弱かった気がしますが。てか、今回はiX3とか「メルセデス・ベンツGLC」とか、ドイツから「IAAモビリティー」で目玉だったモデルも結構来てましたけど、正直、日本勢の圧勝だなって思いましたよ。ソフトバンク対阪神って感じ。
渕野:スピードトップもドイツ車ですけど。
ほった:失礼しました。彼だけは許しましょう。しかしベンツの「ビジョンV」なんて、なんすか? あのグリル!
清水:いーや。ビジョンVのあの顔はアリだと思うな。トヨタの「アルファード」とは違う方向で、究極のオラオラ顔をつくろうとしてるわけじゃない。あれはいいよ!
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次回以降もぜひこの熱量で!
ほった:なんか、今回のジャパンモビリティショーは、話しても話しても話し足りない感じですね。もう3回目だし、そろそろまとめに入らないとマズいんですけど(焦)。
渕野:全体として見ると、やっぱりトヨタ強し! って感じでしたね。あれだけラインナップが豊富だと、よそはどうしたって勝てない。
清水:まさに物量作戦ですね。どこにこんな物量あったの!? っていうくらい。
ほった:しかも質が高いのが多いわけで、あれには感服です。もっとも、ワタシが一番感動したのは、ホンダジェットとホンダロケットでしたけど(笑)。
清水:僕のショーの総括としては、「こんなに充実した東京モーターショーは初めてだ!」って感じです。
ほった:東京モーターショーじゃないですって。
清水:東京モーターショーだった時代も含めて、40年以上前から見てきたんだから許してよ。とにかく、そのウン十年のなかでも、今回はベストだったと思うんだ。
ほった:ワタシもです。取材してて、今までで一番面白かった。
清水:だよね!
渕野:私も4回行きました。
清水:げっ、4回も!?
渕野:どこを見ても、必ずなにかしら「いいな」って思えるものがありましたよね。
清水:各社必ず見どころがありましたね。トヨタなんか見どころだらけで、おなか一杯。
ほった:次回も、ぜひこの熱量でいってほしいですね。
清水:毎回こんなに充実させるのはムリじゃない?
ほった:いやいや。むしろ4年に一回でもいいので、毎回、こんなふうに爆発してほしいですよ!
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=スバル、トヨタ自動車、本田技研工業、日本自動車工業会、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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