第321回:レクサスLS600hのチーフエンジニアを直撃
「全然自信満々じゃありませんよ」
2007.05.18
小沢コージの勢いまかせ!
第321回:レクサスLS600hのチーフエンジニアを直撃「全然自信満々じゃありませんよ」
クルマ界の松坂がいよいよ登板
先日のインプレでもご紹介した日本カーマニア待望、いや日本クルマ産業待望の「レクサスLS600h」! 日本国内の発表に先駆けてフランクフルトで乗せてもらったわけだけど、ある意味、単なるハイパフォーマンス新車ではないわけですよ。なぜなら“日本を代表するメーカー”による“日本を代表する高級車ブランド”の“現在最高のパフォーマンスカー”なんだから。いわば“クルマ版松坂大輔”。日本中の期待を背負ってるともいえるわけ。
というのも昨今、半導体を中心とする電気メーカーはいまひとつ勢いがないし、そのほか金融、建設、薬品、化学業界を見ても浮いた話は出てこない。スポーツ界にしたってサッカーがドイツW杯で惨敗し、バレーボールが男女共にメダルが取れないなか、唯一調子いいのは野球と女子マラソンぐらいのもの。しかもその自動車産業のキモともいうべきハイブリッドカーなわけだから、ますます魔球“ジャイロボール”がウワサされる松坂に存在が近いという……ちょっと強引かな?
それはさておき、ドイツで試乗した後にチーフエンジニアの吉田守孝さんを直撃したら、面白いコメントが飛び出してきたんで、とりあえずどーぞ。
小沢: えー、LSハイブリッドで一番伝えたいことってなんでしょうか?
吉田: まずはLSの上を作るという意味合いです。LSはまさにレクサスのけん引役で、イメージのみならず、収益という面でもリーダーなわけですよ。実際に「セルシオ」の時代からやってきて台数は伸びてるし、となるとLS全体の存在を上に持ってくるよりも、LSの幅を広げる必要が出てくる。
小沢: つまり、LS全体を高級化させるのではなく、LSの中にさらにスーパーLSという存在を作るような……そんな感じですか。
吉田: そうかもしれません。
高級ハイブリッドがうまくいくか不安だった
小沢: どこが難しかったんですか。
吉田: 正直、多気筒(エンジン)バナシもあったんです。つまりV12気筒などの搭載ですが、それでは完全に埋没してしまうと。コンペティターのフォロワーになっちゃいますからね。
小沢: たしかに。いまさらLSが12気筒を載せてもしょうがないですよね。ただまあ、トヨタってすでにV12持ってるじゃないですか。アレを載せる手もあったんでは……。
吉田: センチュリーのですか? あれは古いですよ。
小沢: やっぱダメか。じゃ、すんなりハイブリッド化が決まったんですね。
吉田: とんでもない。そこは賛否両論ありました。実はLSハイブリッドの計画は今から5年前、GSハイブリッドの計画が始まる前からスタートしてるんですが、高級ハイブリッドが本当に上手くいくかどうかは不安なものがありました。
小沢: そうなんだ!? もっと自信満々なのかと思ってました。
吉田: とんでもない。当時、高級ハイブリッドは世の中に一台もなかったですし、北米でのハイブリッドの評価はあくまでも環境性能の高さで、むしろチープなイメージすらあったんです。
小沢: そうか。たしかにそうだわ。プリウスは知的ではあっても、決してリッチなイメージではなかった。
吉田: かといってV12気筒で成功しているのはメルセデスだけで、同じドイツのライバルメーカーさんはいまひとつですし、W12気筒なども作りは素晴らしいのに正当に評価されてるとは言いがたい。かなり悩まされましたね。
高級車づくりを優先したフィーリング
小沢: どうやって解決したんですか。
吉田: 実際に作ってみたんです。先行部隊が当時の4リッターV8にハイブリッドを組み合わせたセルシオを作ったらこれがよかった。とにかく全体的に物凄くスムーズで、これならこれからの高級車像をリードできるんじゃないかと。アレがなかったら踏み切れなかったと思います。
小沢: 聞いてみなきゃわからないもんですねぇ。そんなに悩んでいたとは。
吉田: だからこそ、いい意味でハイブリッドらしくないクルマにしたいと思ってたんです。
小沢: なぜですか。疑問だったんですが、LS600hって乗ると意外なほどモーターのトルク感を感じないんですよね。逆にGSハイブリッドの方が、首にグッとくるぐらいのトルク感があるのに。
吉田: あえてそうしてるんですよ。もちろんエンジンが394psの5リッターでトルキーですから、相対的にモーター出力を感じない部分もあります。それでもあえて電池っぽさは抑えてます。
小沢: なぜ?
吉田: プレミアムカーに相応しくないからですよ。基本的にLSのお客様はコンサバですから。プリウスを買われるかたは目新しさ、ハイブリッドらしさを好まれますけど、LSの場合は逆。普通なんだけど速い、気づいてみたらハイブリッドだった……ぐらいでいいんです。
小沢: そうですか。やっぱ高級車作りって難しいですねぇ。
吉田: 技術も進歩してますから。ハイブリッドもどんどん変わっていくんですよ。
単純に性能だけでなく、フィーリングも着実によくなっていくハイブリッドカー。トヨタさん、このジャンルではますますブッチギリって感じです。参りました〜。
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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