メルセデス・ベンツCL550(FR/7AT)【試乗記】
無駄を楽しむ 2007.03.07 試乗記 メルセデス・ベンツCL550(FR/7AT)……1595万6000円
7年振りにフルモデルチェンジされた、ベンツのラクシャリークーペ「CLクラス」。快適で豪華な新型に乗ってみると……。
ラクシュリーの頂点
「Sクラス」の贅沢さと最新技術を受け継ぎながら、Sクラスよりもさらにパーソナルなイメージを打ち出すラクシュリーカーがCLクラスである。Sクラスのフルモデルチェンジに続き、このCLクラスも2006年後半に新世代を迎え、日本でも販売がスタートした。
旧型に比べて、全長で75mm、全幅で15mm、全高で20mm拡大したCLクラスは、物理的なサイズアップ以上に大きく見える。張り出した前後のフェンダーや大きな弧を描くルーフライン、そして、スリーポインテッドスターを中心に納めた押し出しの強いグリルのデザインがそう思わせるのだろうか? 堂々たる姿はラクシュリーの頂点にふさわしいが、クーペとしてのエレガントさがやや不足気味なのが、個人的には気になるが……。
しかし、室内に目をやれば、上質なレザーやウッドで覆われたパネルに、光り輝くスイッチ類があしらわれた様子は贅沢の一言で、Sクラスと細部が異なるデザインには、クーペらしいスポーティさが感じ取れた。
インパネは、中央に配置される大きな速度計がデザインを特徴づけている。しかもこの部分は8インチディスプレイに表示される映像である。ステアリングコラム右側から伸びる「ダイレクトセレクト」と呼ばれるシフトレバーや、センターコンソール部のコントローラーに各種スイッチを統合した「COMMANDシステム」とともに、すでにSクラスでもお馴染みの装備だ。
このうち、速度計だけはいまだに違和感を拭えないが、CLクラスに標準装着される暗視システム「ナイトビューアシスト」を使って、夜間の映像を速度計の代わりに表示させ、その明瞭な画像を見せつけられると、「バーチャルな速度計も時代の流れか」と思えてしまう。
至れり尽くせり
そんな最新技術盛りだくさんのCLクラスから、今回は5.5リッターV8を搭載するCL550を試乗に引っ張り出した。車検証を見ると、車両重量は2000kgと、クーペとしては重量級だ。しかし、最高出力387ps/6000rpm、最大トルク54.0kgm/2800-4800rpmを誇る自然吸気のV8DOHCユニットは余裕の塊である。
CLクラスでは、センターコンソールの「S/C/M」の切り替えスイッチにより、オートマチックや「アクティブ・ボディ・コントロール」と呼ばれる電子制御ダンパーの設定が変えられるが、最も使用頻度が高いと思われるC(=コンフォート)モードを選ぶと、オートマチックは自動的に2速発進を選択するにもかかわらず、出足の鈍さとはまるで無縁。走り出しても、せいぜい2000rpmも回っていれば一般道なら事足りる余裕である。
その一方で、中回転域から上に向かう力強さもこのエンジンの美点で、4000rpmあたりからレブリミット手前の6000rpmにかけてのスムーズでリニアな加速感は、自然吸気エンジン好きにはたまらない感触なのである。
オートマチックに関して、ダイレクトセレクトそのものにはさほど感銘は受けなかったものの、ステアリング裏のシフトスイッチが、左側でダウン、右側でアップと独立した機能を持つようになり、S/C/Mのいずれを選んでも機能するのは、高速道路でエンジンブレーキを必要とするときなど実に便利だ。ちなみに、Sはスポーツ、Mはマニュアルを意味し、センターコンソールのスイッチを押すごとにモードが切り替わる。
どこまでも快適に速く
それと同時に、アクティブ・ボディ・コントロールのセッティングも変わるのがCLクラスの特徴だ。エアサスペンションを備えるSクラスに対し、CLは機械式スプリングを採用し、クルマの性格の違いも手伝って、同じコンフォートモードでもCLクラスのほうがやや硬めの乗り心地を示す。それでも路面の荒れを直接ドライバーに伝えることはなく、しなやかさと快適さが実に心地いい。
高速では、コンフォートのままでは小さな上下動が気になる場面があり、そんなときにはスポーツまたはマニュアルを選ぶことで、フラットな乗り心地を手に入れることができる。直進性は極めて高く、高速コーナーでの安定感もまた高いので、長時間の運転もまるで苦にならない。
ワインディングロードでは、サスペンションをハード側に切り替えても、それなりにロールを許してしまうが、それでも5m強のボディサイズからすれば十分にスポーティだ。
さらにスポーティな性格を望むなら、SLクラスという選択肢が用意されているわけで、スポーティさよりも快適さや豪華さが重視されるCLクラスとの間で、うまく棲み分けが図られているということである。
実際、CL550を運転していると、最初のうちこそそのパワーを楽しんだりしたが、次第にジェントルなドライビングスタイルに変わっていった。性能の余裕がドライバーの心に余裕をもたらすのだろう。「それじゃ、有り余るパワーなんて無駄じゃないか?」という話になるが、そもそもラクシュリークーペは、その無駄を楽しむ存在なのである。
(文=生方聡/写真=峰昌宏/2007年3月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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