メルセデス・ベンツCLクラス/Sクラス【海外試乗記(後編)】
自動車を生み出した存在として(後編) 2010.10.01 試乗記 メルセデス・ベンツCLクラス/Sクラス「CL」「S」に設定されるAMGモデルにも、新しいパワートレインが搭載された。環境問題に対処しつ
つハイパフォーマンスを実現したという、その走りをリポートする。
思わずのけぞるパフォーマンス
(前編からの続き)
今回は同時にAMGの新パワートレインも試すことができた。今春アナウンスがあった、V型8気筒6.2リッター自然吸気ユニット+7G-トロニックに代わる、V型8気筒5.5リッター直噴ツインターボユニット+AMGスピードシフトMCT-7を搭載する新型「CL63AMG」、そして「S63AMG」だ。スペックは最高出力544ps、最大トルク81.6kgm。さらにパフォーマンスパッケージを選べば571ps、91.8kgmにまで跳ね上がる。
アクセルを踏み込んだとたん「うわっ、こりゃスゴい!」とのけぞったのは、「S63AMGパフォーマンスパッケージ」だ。低速域のトルクも図太いけれど、ターボ付きとはいえ排気量が小さいせいかアクセルのツキは鋭く、低いギアではまさに一気に到達するトップエンドに向けたパワーの盛り上がりは強烈の一言。特に中間加速の伸びはすさまじく、その二次曲線的な勢いは、いかにもターボらしいところと言える。
そのまま踏んでいくと、上は7000rpmあたりまでストレスなく回る。それ自体は十分ではあるのだが、残念なのは回転フィールだけではレッドゾーン近しということを把握しにくいことだ。このあたりが、最後の官能的な伸び切り感で絶頂を味わわせてくれる自然吸気エンジンとの、一番の違いということになる。
「SL63AMG」や「E63AMG」で先に使われている7段MCTのマナーは完璧。心地良いダイレクト感の一方、快適性に一切犠牲を強いていない。アイドリングストップは、こちらにも標準。この手のクルマが信号待ちで静かになるさまは、ちょっと不思議な気分にさせられる。
ノーマルではもの足りない!?
こんなのに乗った後だと、“ノーマル”の「CL63AMG」の544ps、81.6kgmすら線が細い、なんて感じられてしまう。トップエンドのパワー差を体感するのは難しいが、もはや1000-2000rpmあたりでのアクセルのツキからして違う。もちろん、これ単体で乗っていれば、そんなこと感じないと思うが、パフォーマンスパッケージ装着車試乗の際は気持ちが揺れるのを覚悟しておいた方がいい。
フットワークは「Sクラス」よりも硬めの設定だ。元々ホイールベースが短いこともあり、幾分か引き締まった走りを楽しめる「CLクラス」だけに、まっすぐばかりでなくコーナーの連続する場面でもクルマとの一体感を感じられるのがうれしい。そうそう、旋回時の内輪にブレーキをかけて旋回力を高めるトルクベクトリングブレーキの機能がESPに追加されたことも附記しておこう。
最後に「CL65AMG」にも試乗した。こちらはメカニズム的な変更点はほとんどない。スタート/ストップシステムも未搭載だ。しかしながら、V型12気筒エンジンのフィーリングは、やはり絶品。全開加速すればワープするような勢いを堪能できる一方、普段はとにかく滑らかで豊潤な味わいなのだ。正直に言うと、これを味わってしまうと、V型8気筒でももの足りないと感じてしまったほどである。
多気筒エンジンもつくり続ける
今回の試乗会では、ダイムラーAGのディーター・ツェッチェCEOにインタビューする機会があった。聞いたのは、なぜ今この時期に新しいV型8気筒&6気筒なのかということだ。
「1年前には『V型8気筒に未来などない。もう忘れた方がいい』というムードでしたね。あるいは6気筒すらそうだったかもしれません。ですが今、そのようなことは言われません。やはり8気筒でなければというユーザーの方は多く、われわれにはそれに応える義務があります。今回の新型エンジンは、ダウンサイジング、そしてターボによって、それを実現するものです。今後はハイブリッド化なども行われるでしょうが、私たちは8気筒も6気筒もつくり続けますよ」
メルセデス・ベンツは自動車を生み出した存在として、その責任を全力で果たそうとしている。目指しているもの。それはモビリティの自由を守ることであり、環境問題に対処していくことであるのはもちろん、ユーザーの際限ない欲望に応えていくことも含まれている。それこそが自動車の進化の原動力だということを、彼らはその長い歴史の中で、よく理解しているのだ。
この新モデル達は、まず「CLクラス」が晩秋の日本上陸を予定している。ただしスタート/ストップ機構はとりあえずは備わらない。「CL63AMG」「S63AMG」の導入も同じあたり。こちらはスタート/ストップ機構も標準になるというから面白い。一方、「S550」「S350」に関しては、新エンジンの導入はしばらく先となりそうである。
(文=島下泰久/写真=メルセデス・ベンツ日本)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。






























