ダイハツ・ムーヴ カスタムRS(FF/CVT)【ブリーフテスト】
ダイハツ・ムーヴ カスタムRS(FF/CVT) 2007.01.27 試乗記 ……161万1750円総合評価……★★★★★
ロングホイールベースの新プラットフォームで登場した新型「ムーヴ」。宿敵「ワゴンR」を抑え軽ナンバー1になれるのか!スポーティモデル「ムーヴカスタム」に試乗し検証する。
すべてにおいて軽自動車の常識を超えている
最初に断っておくと、個人的には今の軽自動車規格についてはまったく賛成するつもりはない。税制上優遇するには今の軽は占有面積が大き過ぎるのでは?逆に言えば軽ならではのメリットを取り回しなどの面で実感できないし、660ccエンジンがその車体に対して燃費と性能のバランスを欠いているのも不満だ。少なくともエンジンは形式排気量自由で、燃費と環境性能で軽規格を決めればと思うのだが、どうだろうか。
と、そんな話を一旦脇に置いておくならば、ムーヴはその現在の軽自動車規格の中で屈指の完成度に仕上がっている。タイヤをこれまで以上にボディの四隅へと追いやったパッケージングのおかげで、室内は圧倒的に広い。使い勝手にもとことん配慮がなされている。それでいながらスタイリングにも十分華というか個性がある。
何か特別、革新的なことをしているというわけではない。しかし何も革新的だからすべて良いというわけではないのだ。革新的でなどなくても、真摯につくり込めばここまでのものができる。軽自動車の規格はもう煮詰まって……なんてこと、ムーヴを見たらまだ言えない。
走りのクオリティも高い。乗り心地や運動性能は普通車並みだとは言わないが従来の軽自動車の常識は軽く超えている。大した根拠のないその排気量等々の縛りの中できっちりトルクとパワーを絞り出したエンジンと、それを効果的に引き出すCVTの組み合わせは、こちらもやはり軽だからという我慢や妥協を忘れさせる仕上がりだ。
ムーヴに乗っていると、「これなら普通車じゃなくていいかもしれないな」と、本当に思えてくる。よって今、軽自動車を購入対象として検討している人には文句なしにオススメである。しかし、同時に我慢の要らない軽自動車には、優遇税制の根拠もないわけで。このムーヴ、あるいはいろいろな意味で波紋を巻き起こす1台と言えるのかもしれない。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1995、1998、2002年と代を重ねた軽ハイトワゴンは、2006年10月のフルモデルチェンジで4代目。宿敵「スズキ・ワゴンR」を駆逐すべく放たれた新型は、いわゆるワンモーションフォルムとなってイメージチェンジを図った。
オーソドックスなFFレイアウトながら、ワゴンRを130mmも突き放すロングホイールベースの新プラットフォーム、広い室内、「エッセ」にも載る「KF-VE型」NAエンジンとCVTの組み合わせによる低燃費化などがセリングポイント。
幅広い層へ向けた「ムーヴ」(NAのみ)と、スポーティ寄りの「ムーヴカスタム」(NAとターボ)という構成は変わらず。エンジンは、NA「KF-VE型」(58ps&6.6kgm)とターボ「KF-DET型」(64ps&10.5kgm)というアウトプット。NAには5MT、4AT、CVT、ターボには4ATかCVTを組み合わせる。FFのほか4WDも用意される。
(グレード概要)
「ムーヴ カスタム」のグレードは、NA仕様が「L」、「X」と「Xリミテッド」、ターボは「R」と「RS」の5種類。最上級グレードの「RS」には、MOMO本革ステアリングホイール、16インチアルミホイールが標準設定される。また、SRSサイド&ニーエアバッグ、インテリジェントドライビングアシストなどはオプション装備となる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
センターメーターレイアウトとされたインストゥルメントパネルは、素材は悪くないのだがデザインに凝ったせいかやや継ぎ目が多く、そこで素材のてかり具合などが微妙に変わることもあって、ちょっと目に障る瞬間がある。クオリティが低いということはなく、それぞれはキッチリ出来ているだけにちょっと惜しい。しかしメーター類の視認性は上々。すぐ手が届く高い位置にあるオーディオ、大きなスイッチを持つ空調パネルも使いやすい。
(前席)……★★★★★
決してサイズとしては大振りというものではないものの、シートの着座感は悪くない。シートクッションが分厚く、それが実に良い按配で沈み込んでくれ、衝撃をうまくいなしてくれるだけでなく、それとなくしっかりと身体を支えてくれるからだろう。
頭上空間は大き過ぎて落ち着かないくらい。操作性重視で手前に張り出したCVTのセレクターレバーのおかげで、足元の余裕だけはコラムシフトのライバルに負ける。ただし操作性は断然上だし、決して狭苦しいわけではない。
(後席)……★★★★★
広すぎて落ち着かない。真剣にそう表現したいくらい、ムーヴの後席は広い。もちろん横方向の余裕は全幅なりだが、何しろシートスライドの位置によっては手を伸ばしても前席シートバックに触れられないくらい足元に空間をつくり出すことができるのだから。荷物を積むべく一番前に出した状態でも不満なく座れるのだから文句を言う余地はない。フロアがセンター部分までフルフラットなのも広さ感を強調している。
シートもフロントと同じくクッションにしっかりしたコシと厚みがあって掛け心地は上々。強いて言うならば、その広さ感をスポーティさと両立させる、明るめの内装色があればもっと良い。
(荷室)……★★★★★
後席を快適な位置までスライドさせても荷室には十分な広さが残る。大人4名での1泊旅行だってムーヴなら現実的だ。その後席は背もたれを倒すと同時に座面が沈み込みフラットな荷室を生み出すことができる。その状態での容量は495リッターと、使い勝手、実際の広さとも軽自動車としては十分過ぎるほどだ。リアゲートは横開きとされていて、狭い場所などでも使いやすそう。開口部とフロアの段差も小さく、荷物の積み降ろしに難儀することはなさそうである。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
低回転域からレスポンス良く、トルクも充実したこのエンジン、そのままアクセルを踏み込んでいくとさらに中速域以降でパワーがグッと盛り上がって、実際にクラストップレベルの速さをもたらすのと同時に、気持ち良い加速感をも味わわせてくれる。
このエンジンとCVTの組み合わせは、まさに絶妙。街中など低回転域ではトルコンATのような空走感なく意思通りに加減速できる一方、必要とあらばエンジンをきっちり上まで回してその胸のすくパワーをフルに引き出すことができる。しかも高速道路などではギア比を目一杯高くすることで、100km/h走行時でもエンジン回転数は3000rpm前後と、ほぼ乗用車並みに保たれる。おかげで室内は静かで振動も少なく、まるで軽自動車じゃないかのようだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★★
新しいプラットフォームの採用は、ムーヴにこれまでの軽自動車の水準をはるかに上回る操縦安定性をもたらした。
下手な小型車のそれよりずっと出来の良い電動パワーステアリングを切り込んでいくと、そのロール感はきわめて自然で、思った通りのラインでスイッと曲がることができる。それはボディ側のサスペンション取付け部分等々の剛性がしっかり出ていることが大きいのだろう。これまでの軽自動車では何となくこんなものだろうと思って諦めてしまっていた安っぽい振動の減衰感や反応の曖昧さはほとんど感じられない。
……と言いたいところだが、実際には16インチなんて大袈裟なタイヤを履く「カスタムRS」ではさすがに無理もあるようで、常に路面からの入力に対してコトコトッという音と軽い衝撃が入ってくる。しかし他のグレードならそういう面での不満は一切ないと言っていい。
実際の挙動もきわめて安定していて、コーナリング中などこれはワイドトレッドなのではないかと思ってしまうほど。さすがに旋回中にフルパワーをかければ乱れも出るが、それを責めるのはさすがに酷か。しかしこのパワーならVSCは標準装備でいいだろう。高速道路での安定感も目を見張るもの。長いホイールベースとしっかりした接地感のおかげで直線ではひたすらリラックス出来るし、首都高のカーブの連続でもそれらを不安なくクリアしていける。そうそう、踏んだ時だけでなく踏んだ力を抜いていく時のコントロール性にも優れたブレーキにも高い点数を与えておこう。
正直に言えば、同じ基本骨格を用いながら、より背が低い「ミラ」のほうがあらゆる面でムーヴを上回っているのは事実だ。しかしムーヴのシャシー性能がそのすぐ次に来ていて、同じく高い上背を持つライバル達を大きく引き離しているのは間違いない。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2006年12月23日から25日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年型
テスト車の走行距離:6277km
タイヤ:(前)165/50R16 75V(後)同じ(いずれもヨコハマアドバン A10)
オプション装備:アジャスタブルパック(1万5750円)/6スピーカーパック(2万1000円)/ボディカラー(2万1000円)
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(6)
テスト距離:208.3km
使用燃料:18.23リッター
参考燃費:11.4km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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