ジープ・グランドチェロキー・リミテッド5.7(4WD/5AT)【海外試乗記(後編)】
「アメリカの味」が残ってる(後編) 2005.04.28 試乗記 ジープ・グランドチェロキー・リミテッド5.7(4WD/5AT) 「ヘミエンジン」の搭載が話題となっている、クライスラーの本格SUV「ジープ・グランドチェロキー」。自動車ジャーナリストの笹目二朗と森口将之による、新型グラチェロ対談報告の後編。オフロード性能は依然として一番
笹目:オフロードの性能の絶対値としては、依然として一番いいんじゃないですかね。センターデフをちゃんとつけた上でいろいろな制御をしているじゃないですか。結局、きちんとしているのは「ジープ」と「ランドローバー」だけですね。それ以外の「新参者」は、みんなクラッチでごまかしたりしているわけで。そういうクルマって、どうしてもダメな部分があるんです。でも、このクルマはそういう×をつける部分がないと思いますよ。そこがすごいなと思ってます。
森口:いちばん近いのは「ディスカバリー」でしょうね。時代の流れでオンロード指向に振らなくてはならないんですが、そこで簡単にオフの性能を捨てないでキープするっていうこだわりが両方のブランドにあります。今回フロントは独立懸架になりましたが、リアはリジッドのままです。リジッドを残すならばやはりリアを残したほうが上り坂のトラクションなんかを考えるといいんですよね。そういう意味で、リアをリジッドに残したというところにジープの見識を僕は感じるんです。
笹目:フロントは、舵角の問題もあるんでしょうね。独立にしたほうがよく切れるようになりますから。まあ、こういうクルマの存在意義は遊びとか競技の部分になってしまうんですね。
森口:オフロードを走れる、というだけではなく、オフロードを走ることを楽しませるという性格をジープは保っていると思います。スポーツカーで峠道を走って面白いのと同じように、オフロードをゆっくり走って攻略していくという楽しみがあるわけです。走破性だけをとればそれほど差はないのかもしれませんが、その中で楽しいかというとまだまだ違いがある。言ってみれば、スポーツカーと乗用車の違いのようなものですね。
笹目:オフロードのスポーツを楽しむには、いちばんだと思います。最近のSUVは「電子制御で前後のトルク配分を……」とか言っていますが、微低速では意味がない。ステア特性を云々する程度まで速度が高い分野の話です。この場合には52対48とプラネタリイギアで少しだけ差をつけてますが、それは前が重い重量配分を生かしているわけで、FR的に後輪配分を大きくするだけが能じゃない。駆動輪荷重との兼ね合いでみればこちらのほうが理にかなっている。
森口:駆動配分まで可変にすると、ある程度オフロードを走り慣れている人にとってはむしろ走りづらくなります。状況状況で変わってしまうというのは……。
笹目:邪魔ですね。
森口:本気で楽しんで走るなら、固定のほうがいいですね。
笹目:単純に車輪の空転を防ぐという部分だけが電子制御なんでしょう。センターデフをつけないで、ブレーキをつまんで制御しようというのは邪道ですよ。
保守派には「ラングラー」がある
笹目:スタイリングは、一見丸くなったように見えますが、逆に四角くなっています。サイドが立った分、大きく見えますね。ルーフの横幅が広がりました。
森口:Aピラーが寝て視界が悪くなったことと、ルーフが低くなったことは気になりましたね。それでセダンっぽい空間になっているわけでしょうが。グラチェロは昔からモノコックを使っていたので、外から見ると背が低くても中は天地があるクルマだったんです。新型はラクシャリーっぽいドライビングポジションになりましたね。でも、一応ボンネットは確認できましたから、良心的だと思いましたね。
笹目:あそこが見えれば問題ないですね。ピラーのグリップも邪魔にならないところにありましたしね。でも、上にも一つ欲しい気はしましたが。
森口:ハイローの切り替えレバーが電子スイッチになったので、ずいぶん雰囲気が変わりました。
笹目:メカニカルだとどうしても大きいレバーが必要でしたが、必要なくなりましたね。
森口:レバーだと、非力な人だとツライ場合がありました。
笹目:歯車の精度によっては、どうやっても入らないことがありました。そういう意味では、スイッチにできたことはいい進化と言っていいでしょう。
森口:寂しく思う人もいるかもしれませんが、そういう人のためには「ラングラー」がありますから。
笹目:トランスミッションそのものもマニュアルでなきゃ、という人だっているでしょうけど、そういう人はグランドチェロキーを選ばなきゃいいんです。
森口:シートの座り心地は旧型とはずいぶん違っています。旧型はいかにもアメリカンな、ソファのようなところがありましたが、新型はヨーロッパ車に近くなりました。でもそんなに硬すぎるということはありません。わりとサポートして座らせるという感じに変わっています。
笹目:ランバーサポートもあるしね。あれはやっぱりないとツライですね。
オフロード走行のイベントを!
笹目:グランドチェロキーは、今微妙なところにいるという気もしますね。ポルシェとかBMWがこの分野に進出してきて、どうしても対抗策を考えなくてはならなくなりました。今まではお買い得感というところで勝負できましたが、あるていど高級感も追求しなくてはならなくなっています。それでも、ヨーロッパの高級SUVと正面から競争するのはちょっとツライところもあります。オフロード性能よりも、内装を叩いた時の音を重視する人が増えているわけですから。
森口:SUVはアメリカ車的な乗り味を楽しめて、実用性もある程度ある乗り物として、そういう選び方をしてもいいと思います。心のどこかでアメリカ車がいいな、と思っている人にとってはいい選択だと思いますよ。
笹目:クルマとしてよくなっているのは間違いなくて、特に乗り心地は確実によくなっています。オンロードでの横揺れみたいなものはなくなって、カッチリした乗り心地になりましたね。でも、道が荒れてきた時はのんびりした感じが残っていて、それがアメリカ車の味だという気がしますね。
森口:せっかくオフを走る楽しみが残っているんですから、オフロード走行のイベントなどをインポーターがもっとサポートしてくれるとあのクルマの楽しみがわかると思います。所有した人は買ってよかったと思うし、持っていない人にもアピールできるし。元ジープ乗りとしては、そう思うんですよ。
(文=笹目二朗&森口将之/写真=ダイムラー・クライスラー/2005年4月)
・ジープ・グランドチェロキー・リミテッド5.7(4WD/5AT)【海外試乗記(前編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000016645.html

笹目 二朗
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。