ロータス・ヨーロッパS(MR/6MT)【海外試乗記(前編)】
調和の産物(前編) 2007.01.19 試乗記 ロータス・ヨーロッパ S(MR/6MT)2006年6月21日発表された、ロータスの2シーターGTカー「ロータス・ヨーロッパS」。エリーゼベースの高性能モデルは、どのように進化したのか。ルクセンブルグからの報告。
ロータスの歴史を象徴するモデル
「“ヨーロッパ”はロータスの歴史を象徴する名前だからです。確かにEUROPAという名称が各国ですでに登録されており、新たな名前を考案し登録する手間がいらないという理由もなくはありませんが」
ルクセンブルグで行なわれた試乗会の、その日のたったひとりの訪問者の不躾な質問に対して、ロータス・カーズ海外事業部のグレン・モイヤー部長はちょっと声を潜めながら答えた。
ご存知かもしれないがEUROPAというスペルはドイツ語の“オイローパ”と同じであり、英国人の発音に耳を澄ますと、最初の母音の発音が英語のEUROPE(あえて日本語にするならユーロプだろう)よりむしろ日本語の“ヨーロッパ”に近い。オイローパとはもともとギリシャ神話に登場する王女で、アフロディーテが嫉妬し、最高神ゼウスがひと目惚れしたというほどの美貌の持ち主のこと。
1966年から75年にかけて9887台が生産された初代ヨーロッパは、ロータスにとって最初の“実用的”ミドエンジン・ロードカーであり、エランのX型鋼板バックボーンフレームを前後逆に使用することによって、安価で空力特性に優れたグランド・ツーリングカーをヨーロッパ大陸に提供することにあった。その目的に合わせた高いギアリングもあって、ルノーの1.5リッターOHVエンジンでは加速性能に関する不満が集中し、ツインカムやスペシャルといった高性能バージョンの追加を促すことにもなった。
日本で広く知られている高性能なロータス・ヨーロッパのイメージは、こうした後期モデルの影響といえる。
スピードスターの正常進化版
21世紀の「ヨーロッパS」は、初代ヨーロッパと同じくグランド・ツアラーとして企画されたものだ。現在の「エリーゼ」/「エキシージ」というロータスのラインナップは、ご存知のとおりオープン2シータースポーツと、さらにハードなサーキットスペシャルというべき性格の持ち主であり、年産4000〜4500台という規模のロータスが今後も成長を続けるためには、もう少し日常性に重きを置いたスポーツカーが必要不可欠。コンセプトの面ではそういう発想から生み出されたはずだが、技術的な面でいえば「オペル・スピードスター」の開発で培ったノウハウの再利用という面も否定できないだろう。
また意地の悪い質問を試みる。
オペル・スピードスターとの部品共用化率は何%ですか、「5%以下です」が答え。
「エンジンはGMのエコテック・ファミリーですが、オペルのギアボックスはトルクに耐えられないためECUでトルク制御を行なっていたのに対し、ヨーロッパSにそうした制限はしていません。ことほどさようにヨーロッパSはロータスの最新の技術を投入した車なのです。パワーユニットにGM製を採用したのは、GMとロータス・エンジニアリングが技術面で提携していることが理由です。」
では、もう少し細かくスペックを確認してみよう。
ヨーロッパSの全長×全幅×全高は3900×1714×1120mm。これはエリーゼと比較して90mm長く、全幅と全高はほぼ同じことになる。ホイールベースは30mm長い2330mmでオペル・スピードスターと同一だから、アルミ押し出し材を接着することによって成形される例の特徴的なバスタブ風モノコックは、スピードスターのそれに近いと想像できる。もっとも形状そのものが異なることは確かだ。
乗降性を改善するためドアの開口部は、エリーゼの555mmから610mmまで広げられており、その事実を強調するかのように、ドアを開けるとBピラーの直前でサイドシルが大きく段差を作っていることがわかる。
注目の車重は995kgと発表された。1トンのボーダーラインを割ったのは軽量を旨とするロータスの意地の産物のように見えるが、実際のところはエアコンディショナーはもちろんのこと、MP3オーディオ機能付きカーナビゲーション、本革トリムといった装備を標準装備しているから、本来もっと重くなるはずだった車を無理矢理にダイエットしたような息苦しさは感じない。
お買い得感の高い価格設定
パワーユニットは先に紹介したとおりGMヨーロッパが開発したECOTECシリーズユニットのひとつ、「20LER」と呼ばれる2リッターのシングルターボ付きのDOHC16バルブヘッドを持つ直列4気筒だ。200ps/5400rpm、27.7mkg(272Nm)/5000rpmのパワーとトルクは、2.2リッター自然吸気だった「スピードスター」より当然はるかにパワフルで、パワーウェイト・レシオも4.975kg/psと高性能スポーツカーのボーダーラインを下回ることに成功している。ギアボックスは今のところM32型と呼ばれる前進6段のMTだけで、デフも一般的なオープンデフだけとなっている。
注目される価格だが、日本の正規代理店LCI(Tel.03-5754-0805)のカタログ価格が664万6500円になることがロータスの資料に記されていた。日本仕様の価格がその車のデビュー時点で決まっているというのは、100%出資の子会社を日本に置く他のヨーロッパメーカーでも滅多にないことで、それだけロータスとLCIが緊密な連携をとっていることを窺わせる。
それはともかく、自然吸気の2ZZ-GEを積む「エキシージ(627万9000円)」と機械式スーパーチャージャー付きの2ZZ-GEを搭載する「エキシージS(690万9000円)」の中間という価格はエンジンパワーを反映させたものと見ることもできるが、ヨーロッパSの持つ“上級”のキャラクターや装備品リストを見れば買い得感の高い設定であることは間違いない。
なおイギリス本国での発売は2006年9月16日で、アメリカへの輸出はないという。(後編へつづく)
(文=CG塚原久/写真=ロータス・カーズ/『CAR GRAPHIC』2006年11月号)

塚原 久
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。











