サーブ9-5シリーズ【海外試乗記】
個性的かつ気持ちのいいクルマ 2001.08.29 試乗記 マイナーチェンジを受けたサーブ9-5シリーズ 世界で最も小さな自動車量産メーカーにして、GMのプレミアムセグメントを担当する北欧のサーブ。1997年にデビューした「9-5シリーズ」は、ミドルサイズにして「上質」と「個性」を前面に押し出したモデルである。ライバルを迎え撃つべくマイナーチェンジを受けた同シリーズに、『webCG』エグゼクティブディレクター、大川 悠が、デンマークからスウェーデンで乗った。玄人受けするクルマ
ボルボがどんどんポピュラーになってきているのに対して、従来通り“北欧の個性派”というイメージを保っているのがサーブだ。GMヨーロッパのプレミアムセグメントを担うこのメーカーは、意外とアメリカ市場に強い。特に上級モデルの9-5は半分が大西洋をわたるという。そういえばサンフランシスコあたりでも最近急に増えてきた。
いずれにしても、この9-5は、メルセデスベンツCクラス、BMW3シリーズ、アウディA4、フォルクスワーゲンの新パサート、さらにはジャガーXタイプなど、今や世界のメジャー乗用車メーカーが集中して攻撃開始した市場、つまりミドルサイズのプレミアムカー路線にかなり前から焦点を当てている。
ベースはオペル・ベクトラだが、これを実にうまく使いこなして、玄人受けするセダン、エステート路線を展開している。それでもこの市場が大分荒らされそうになったために、今回マイナーチェンジを施した。その改変箇所は実に1265箇所に上がるというが、オーナー以外は見てもちょっと識別できないところが、また実直な北欧メーカーらしい。でも実体はかなり良くなったと、デンマークからスウェーデンを走って感じた。
ほとんど見分けのつかない新型
外観上一番変わったのはバンパーが2cmだけ突き出し、グリルがクロームで完全に3分割されたこと。あとは、テイルランプや前後バンパーの細部造形に違いを見いだせるだけ。並べてみないとよく分からない。でも「アメリカ市場で存在感を強めた」(女性デザイナーによる)のだそうだ。
技術的には3リッターV6ターボディーゼルの追加が目玉だが、いすゞ製のこのユニットは、今回のプレス向け試乗会には出てこなかった。
また高性能版たるエアロの2.3リッター4気筒ターボは、過給圧を上げてパワーを20ps増しの250psになり、20秒間のオーバーブースト機能によって、瞬間トルクも高められた。そのトルクに対応してアイシン製のATも、4から5速に換えられた。さらに車両ダイナミック制御システムたるESPもオプション採用された。ABS、TRCとともに、サーブとボッシュとの共同開発で、滑りやすい路面の多い北欧やアメリカの北部ではかなり有効だろう。
ハイテクは陰でサポートする
試乗したのは「エアロ」モデル、つまり2.3リッター高圧ターボの250ps版だけだが、AT、MT、セダン、エステートと乗り換えた。
ともかく感心したのは、このクラスのクルマがどんどん似てきたのに対して、きちんと個性を保っていることと、実質的なデキがいいということ。ターボは存在をハッキリと主張するし、前輪駆動であることを隠すことなく堂々とトルクステアも見せるが、それらをすべて計算し尽くしたうえでの、クルマとしてのバランスの良さ、誠実で理詰めの考え方に納得できる。
普通に走っているぶんには、リファインされた静かなクルマである。AT、MTともにハイギアードで、100km/hは2000rpmほど。これはターボによるトルクの支援がいつでも期待できるからゆえの設定だが、従って基本的に静かだし、バランスシャフトが効いたこの4気筒は回してもかなりスムーズでいいエンジンだ。新しい5段ATの応答もいい。
ボディはしっかりして頼りになる感じだし、何よりも独特の快適な雰囲気がいい。実は3種類の内装があり、今回はダッシュのフェイシアがアルミヘアライン仕上げの「ベクター」と呼ばれるバージョンだけ乗ったが、独特の囲まれ感や、北欧デザインの室内トリムなどで、サーブならではの気持ちのいい世界が周囲に広がる。こういうちょっと知的な感覚がアメリカ人を刺激するのだろう。細部まで使い勝手が考えられたエステートも、独特の魅力がある。個人的にはこちらのボディを選ぶだろう。
トルクステアを我慢すればハンドリングも安定志向だし、小さな滑走路でテストできたESPも、本当にナチュラルに介在するから、ドライバーによってはクルマに助けられていることに気がつかないかも知れない。でもハイテクというのは、このように陰に隠れてサポートするのが理想だと思う。
本当はかなり個性的なのに、実際に乗ると何となく健康的で気持ちのいいクルマという9-5の基本はまったく変わっていなかった。
(文と写真=大川 悠/2001年8月)
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大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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