サーブ9-5ベクターXWD(4WD/6AT)【試乗記】
長距離ドライブに選びたい 2011.09.11 試乗記 サーブ9-5ベクターXWD(4WD/6AT)……652万9000円
サーブの旗艦モデル「9-5」がフルモデルチェンジを果たし、日本に上陸した。2リッター直4ターボを搭載するベースグレードの走りを試す。
サーブただ今再建中!?
サーブ、正直忘れてたんじゃない? 僕は忘れていた。スウェーデンの航空機メーカー、サーブの自動車部門として1940年代に自動車製造を始めたサーブ・オートモビル。20年前にGMグループの一員となったが、2年前、GM自らが破綻した際にサーブを手放すことを決めたため、サーブは一時存続の危機にさらされた。紆余(うよ)曲折を経て、現在はオランダのスウェーディッシュ・オートモービル(旧スパイカー)が所有する。
今年に入って(スパイカー傘下の)サーブは中国の大手販売グループと資本提携、合弁生産を計画したが、これ以上自動車メーカーを増やしたくない中国政府は現時点でこの計画を認めていないため、サーブがスウェーデン国内の地方裁判所に提出していた会社更生法の申請は「事業を再建できると信じるに足る内容はない」として、8日に却下されたと報じられている。どうなる、サーブ!?
試乗したのは2モデルある現行ラインナップのうち、大きなほうの「9-5」。GM時代に開発されたモデルで、「オペル・インシグニア」や「ビュイック・リーガル」とほぼ同じプラットフォームが用いられている。ま、オペルもビュイックも日本で売ってないからピンとこないかもしれない。9-5は「ベクター」(FFもしくは4WD)と「エアロ」(4WD)の2グレードがあり、ベクターが2リッター直4ターボ、エアロは2.8リッターV6ターボを積む。いずれも6ATとの組み合わせ。今回はベクターの4WDをテストした。
広く、居心地のいいインテリア
まず感じたのはその長さ。全長はK点超えの5010mm。「トヨタ・クラウン」はもちろん、「メルセデス・ベンツEクラス」「BMW5シリーズ」「アウディA6」よりも長い。全幅は常識的な1870mm、全高はこのクラスにしてはやや低い1465mmなので、「デカっ」というよりは「長っ」という印象。
航空機メーカーの血筋をもつだけあって、サーブには昔から空力性能にこだわりを感じさせる形をしたモデルが多い(「エリマキトカゲ」呼ばわりされた900を除く)。9-5も凹凸が少なく、いかにもエアロダイナミクスを重視したと思わせるスタイルをしている。
室内は前後とも広く、居心地がいい。パンと張りのあるレザーシートの掛け心地も全席で良好。リアシートは十分な座面長が確保されている上に膝前にもしっかりスペースが保たれている。ま、全長が5mを超えるんだからこれくらいあって当然か。
キーシリンダーがセンタートンネルにあるのがサーブのお約束。新型ではエンジンのオン/オフが今風のプッシュ式となったが、ボタンの位置は今まで通りだ。碁盤の目のような格子状のエアコン吹き出し口も健在。インテリアはほぼダークグレー一色で、装飾的要素もほとんどない。オーディオやエアコンは、はやりの集中ダイヤルなどではなく、センターパネルに整然と並んだスイッチ類で操作する。保守的で落ち着いたインテリアだが、味気ないと感じる人もいるかもしれない。
実直な運動性能
2リッター直4ターボエンジンは、ピークパワー向上よりも全域でトルクの厚みを増すことを目的とした実用タイプ。大柄ボディと4WD化のために車重は1.8トンを超えるが、トルクは十分で、痛痒(つうよう)なく走らせることができる。決してドラマチックな性格ではないから、山道を攻めても充実感はない。アクセルペダルを深く踏み込んでも比例的にスピードが上がるだけ。むしゃくしゃして何もかも忘れさせてほしい時に選ぶクルマではなく、楽に遠くへ行きたいときのためのクルマだ。
インテリアは落ち着いていて、エンジンは実直。こう書くと地味なクルマだと思われるかもしれないが、実際地味だ。ただ、たいていの人は1台のクルマで数年間を過ごすことになる。数日間じゃなく数年間一緒に過ごすなら、レディ・ガガより井川遥(←各自派手じゃないけど好きな人を入れてください)だろう。つまり「楽に遠くへ行く際に選びたくなる……」は結構な褒め言葉のつもり。
フロント:ストラット、リア:マルチリンクのサスペンションは滑らかに動いて乗り心地は快適だし、静粛性も高い。トランク容量も515リッターと広い。4人乗ってゴルフへ……なんてのは、このクルマが最も得意とするシチュエーションだろう。ただ、燃費は日常的な使い方で約300km走って8.2km/リッターにとどまった。
9-5ベクターXWDの価格は640万円。Eクラス、5シリーズ、A6と真っ向勝負を強いられるゾーンにあることを考えると、割高に感じる。けれどそれは僕の価値観であって、「個性的なものを長く使いたいから……」とわざわざ北欧家具(IKEAは除く)を取り寄せるような人からすれば、また別の見方があるのかもしれない。ニトリに囲まれている僕には論ずるのが難しいクルマだ。
(文=塩見 智/写真=郡大二郎)
