ポルシェ911タルガ4/911タルガ4S【海外試乗記(後編)】
華やかさと良心と(後編) 2007.01.05 試乗記同じオープンならカブリオレもあるというのに、なぜポルシェはタルガを出し続けるのだろうか?新型「911タルガ」試乗会で得たその答えとは……。
フットワークは快適性重視
(前編より)市場調査により定められた「911タルガ」のターゲット・カスタマーは平均年齢47歳前後、月収1万2000ユーロ以上の既婚者で、すでに子供が手を離れ自由な生活を謳歌できるという設定だ。
クルマに特別な個性を求め、デザインと安全性への要求レベルが高いこの顧客層のために、タルガは全車が4WDのワイドボディとされた。
日本仕様はMTの受注がほとんど見込めないため、ティプトロニックSのみの設定となる。なお車両本体価格は「911タルガ4ティプトロニックS」が1458.0万円、「タルガ4SティプトロニックS」が1652.0万円と発表されている。
つまりタルガ4Sは1890.0万円の「GT3」「RS」、1816〜1879.0万円の「ターボ」に続き3番目に高価な911となった。
上述のように実用性も高いタルガゆえ、サスペンション・セッティングは日常的な快適性を高めることに重点が置かれた。具体的にはクーペと比べてスプリングレートやダンパーの減衰力を低くするいっぽうでスタビライザーは強化されている。
今回走らせた試乗車はどれも減衰力可変ダンパーの「PASM」を装着しており、それをノーマルモードにしておく限り乗り心地は至ってマイルド。前後に19インチのタイア(F:235/35ZR19、R:305/30ZR19)を履く300ps超のスポーツカーというスペックから想像するより遥かに快適で、日ごろ街中を走らせるのに何の不満もない。
高速道路では4WDゆえの高いスタビリティと洗練されたフラット・ライドを満喫でき、ルーフを閉じている限り風切り音はクーペと同等だ。
クーペとは違う味わい
といってもクーペの乗り心地が示す、まるでフラットシックスの緻密さをそのまま反映したようなデリカシーが薄らいでしまうのは、ボディ剛性の差を考えれば仕方のないところだろう。
ちなみに静的捩れ剛性の値はクーペの3万3000Nm/deg、カブリオレの9100Nm/degの間に位置する1万5000Nm/degと公表されている。ステアリングやフロアに伝わる振動や、ロードノイズの少なさに関してもクーペに譲ることは否めない。
また重量物の増加がボディの上半分に集中したタルガでは、車両の重心が20mmほど上昇しており、スタビライザーを強化したとはいえコーナリング時にはクーペに比べややロールが大きい。
といっても絶大なトラクションを誇る4WDドライブトレーンとPASMに支えられ、シャープに吹けるボクサーユニットを思う存分歌わせられることは何らクーペと変わりないし、911のリアエンジン車らしい挙動が少々低い速度域で現われることに対して、筆者は必ずしも否定的になれない。
速さこそスポーティネスだと信じる人々には受け入れられないかもしれないが、ポルシェのエンジニアが心血注いで仕上げたバランスの、ひとつの形が味わえることに違いはないからだ。
最も便利な911
プレゼンテーションの席上、「ハードトップを持つカブリオレが主流になった時代にタルガを作る意味は?」と問われたポルシェAGストラテジック・アドバイザーのミハエル・シンプケは、「タルガはカブリオレの代用品というより、そのエッセンスを織り込んだクーペの1バリエーションで、あらゆる天候で明るい車内を楽しんでいただけます」と述べるとともに、「私自身もタルガのオーナーで、リアウィンドウが開閉できる高い実用性に魅力を感じています」と付け加えた。
つまり、我々はついグラスルーフの方に目を奪われがちだが、実用性でタルガを選ぶ人もいるわけだ。
GT3を凌ぐ価格の「最も贅沢な911」は「最も便利な911」でもある。そう思うと急に親近感が湧いて来た。
(文=CG田中誠司/写真=ポルシェジャパン/『CAR GRAPHIC』2006年12月号)
