ひたすらに“走りのよさ”を追求
7代目「ポルシェ911」とはどんなクルマだったのか?
2019.07.01
デイリーコラム
予想をはるかに超えていた“走りの進化”
1964年の初代から数えて7代目となる、991型の「ポルシェ911」。すでに次期モデルである992型が発表され、すなわちカタログ上では“旧型”ということになったが、実は現時点で姿を現している新型のバリエーションは、最高出力450psを発するツインターボ付き3リッター水平対向6気筒エンジンを搭載する「カレラS/4S」系のみ。実際のところ、先日相次いで開催されたルマンとニュルブルクリンクの24時間レースでも、そこで活躍していたのは991型である。そんなこともあり、まだまだ”現役”というイメージも強いのがこのモデルだ。
振り返れば8年前のデビュー時の印象は、なかなかに衝撃的なものであった。
先代である997型からのスタイリングの変化は、あくまでも“想定内”のレベルにとどまるものだった。ヘッドライトの形状が微妙に変わったり、テールランプが細身になったりといった変化は、いうなれば“いつもの事”。そもそも、フードよりも高い位置にあるフロントフェンダーや、猫背のルーフラインといったアイコニックな部分に手を加えることができないのは、911の宿命である。991型のスタイリングに、ことさらの驚きはなかったのだ。
一方で、“想定外”だったのは走りの進化幅の大きさだ。そもそも、997型の走りに大きな不満があったわけではない。ところが、初めて991型をテストドライブしてみれば、アクセルペダルを踏み増した際の加速感やステアリングを切り始めた際の回頭時のフィーリングなどが、いずれも997型よりも明らかに軽やかさを増していて、そのテイストの変わりようは予想と期待をはるかに超えていた。
加えれば、快適性の進化も予想以上のものであった。サスペンションはよりしなやかにストロークし、静粛性全般も明確に向上。端的に言えば、「より軽快になって、より上質になった」というのが、991型に触れてのファーストインプレッションだった。
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純粋に速さを追求できた、よき時代の911
そんな進化のキモが、まずは抜本的に作り直されたボディーに宿っていたことは間違いない。よく知られているように、997型に対してアルミ材の使用範囲を飛躍的に増やすなどして、剛性を高めつつも大幅な軽量化へとトライしたのが991型のボディーの特徴。さらに、「モータースポーツからの要請に基づいて」との説明とともに、ホイールベースが一挙に100mmも延長されたこともディメンション変化の見どころだった。
そんな991型のモデルライフをたどってみると、「GT3」の追加とともにリアのアクティブステアリングが日の目を見たこともトピックだ。知ってのとおり、911のバリエーション中、最もサーキット走行に強くフォーカスされたこのモデルでは、軽量化というのは開発時の最重要課題のひとつ。そのGT3をして、“速さ”獲得のためにはある程度の重量ハンディを背負うことも厭(いと)わないというのは、PDKやリアアクスルステアリングを標準採用化したこの世代で明確になった、新たな開発方針であったようにも受け取れる。
そして、そんな991型を踏み台に生まれた992型が、さらに“速さ”と“走りの質感”に磨きを掛けた存在であることは、すでに自身で確認した事柄である。一方、新世代のモデルには、この先の電気モーター搭載を見据え、そのための空間を確保した新たなトランスミッションが採用されるなど、歴代モデルが常に追い求めてきた“走りの追求”とは異なるベクトルでの、この先の時代を生き残っていくことを念頭に置いた開発の跡も見え隠れする。
そうした“時代の要請”への適合は、あるいはポルシェの技術者が「本来思うところ」とは、必ずしもベクトルが一致していないのかもしれない。そうした点では、より理想に向けたクルマづくりが行えたのは、もしかすると992型よりも991型のほうだったのではないだろうか……。と、そんなことを考える今日このごろなのである。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ/編集=堀田剛資)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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