キャディラック・ドゥビルDHS(4AT)【試乗記】
隠れた大型良品 2001.08.11 試乗記 キャディラック・ドゥビルDHS(4AT) ……833.0万円 「大きくて保守的」「フワフワした乗り心地」「軽いステアリング」……。それらは、10年以上前の”アメ車”のイメージだと、webCGエグゼクティブ・ディレクターは言う。(日本では)隠れた名車「キャディラック・ドゥビル」に、大川 悠が乗った。でかいクルマはドゥビルに限る
日本でもっとも過小評価されている輸入車のひとつが「キャディラック・ドゥビル」だと、最近感じている。いいクルマだけど売れないというのは他にもあるが、いいクルマであることが”知られていない”。これはドゥビルにとって、とても不幸なことだと思う。一番いけないのが「大きい、何となく古くさくて保守的だ」というイメージが勝手に一人歩きしていること。これについて、きちんとこのクルマを取り上げないプレスの責任は大きいと思う(反省!)。
そこで、敢えて私はいう。「でかいクルマが欲しければドゥビルに限る」と。
メルセデスベンツの「S」は立派な機械として尊敬するし、トヨタ・セルシオは、マア、ホントに良くできているけれど、両方とも何となく心からの愛着がわかない。多分、偏見かも知れないが、Sやセルシオを自慢する人、大満足しているオーナーは多いだろうが、それを心底で愛している人は少ないような気がする。
でもキャディラックは違う。このクルマが好きでしょうがない、だから乗っている。そういう人が、少数だが周囲に確実にいる。まあ、それも偏見かも知れないが。
この際、そういう偏見や個人的感情を置いても、現代のドゥビルはかなりデキのいい大型車だと思う。1999年、アメリカ、テネシーの山中でモデルチェンジしたばかりのドゥビルを乗ったときからそう思っていたが、今回、改めて借り出した後も、評価は変わらなかった。
世界最良の大型車とはいえないが、隠れた大型良品だとは断言できる。
予想以上に鍛えられた足腰
5260×1900×1440mmというサイズ、特にその長さは、やはり都内だとうんざりするが、四隅はよく見えるし大抵のクルマはどいてくれるから、慣れるとそれほどやっかいではない。むしろSクラスやセルシオよりも、ずっとおおらかな気分で運転できる。
大きなアメリカ車のステアリングは羽のように軽く、乗り心地はフワフワだというのは、もう10年以上前の話で、「レクサス・ショック」を真っ正面に受けとめたキャディラックは、このライバルの登場以降、ダイナミック能力は年々格段に良くなっている。格好の好き嫌いで損をしているが、2年前にモデルチェンジを受けてからは、さらに足腰が鍛え上げられた。
ボディの剛性感は以前よりもずっと高まったし、ステアリングも適度な重みと感触を伝える。むろんロールはするが、それほど過大ではない。結構な速度で山道を飛ばせることを、アメリカの山岳地帯での試乗会で確認している。トルクだけでなくパワーも軽快に出る4.6リッターV8から、時々トルクステアが伝わってくるのはご愛敬。なお、前輪駆動のキャディラックはこのモデルまでで、将来は後輪駆動に生まれ変わる。
高速道路を流していると、セルシオほどは静かではなく、Sクラスの安心感はないが、少なくとも160km/hぐらいまでの領域では、「大きなクルマでリラックスしている」という感じは、キャディラックが一番だ。それに最近は燃費もよくて、うまく転がすとリッター10km近くも走れる。
そして絶対にこのクルマでなければ手に入らないのが、赤外線暗視システムたる「ナイトビジョン」。この湾岸戦争からの贈り物は、明るい都内では消しておくに限るが、暗い地方に行ったら絶対に便利。普通のライトの3倍ぐらい先が確認できるし、対向車のランプを浴びても前がはっきり分かる。ただしこれを装着するには本革シートやサンルーフの抱き合わせになるから、710.0万円の上にさらに123.0万円も払う必要がある。
(文=大川 悠/写真=佐藤俊幸/2001年8月)
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大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。