フィアット復活物語 第7章「有名人目白押し、これが最新イタリア版テレビCMだ!」(大矢アキオ)
2006.09.23 FIAT復活物語第7章:「有名人目白押し、これが最新イタリア版テレビCMだ!」
■ハリソン・フォードと盆栽
イタリアでフィアットの株価は、年初来最高値の更新を続けている。知り合いの関係者は、持っているフィアット株をいつ売却するかタイミングをうかがいながらも、「もうちょい」という欲が出るらしく、なかなか売れずに困っている。
そんな好調に支えられて、テレビコマーシャルも今年に入って気合が入ってきた。今回は、そのお話である。
そもそも経営危機に陥る前まで、イタリア本国のフィアット系各ブランドの広告には有名人がたびたび起用されていた。
たとえば、1997年にアルファ156スポーツワゴンがデビューしたときは、キャスリーン・ゼータ・ジョーンズがイメージキャラクターだった。テレビCMは、ハッチから幼児の「ハイハイ」状態で車内に忍び込むというものだった。
99年にランチア・リブラが誕生した際のイメージ・キャラクターは、ハリソン・フォードだった。
ゴミ集積所に捨てられている盆栽を見つけて助手席に置く。デュアルゾーンのエアコンでそちら側だけ温風を当てながら、自らは涼しい顔で運転を続ける。ふと気がつけば盆栽に花が咲いている、というものだった。
「そんなこと、あるわけない」のだが、「イメージです」などというテロップが流れないところが、これまた粋だった。
イタリアで盆栽をする人のことをボンサイスタという。だからボクは「ハリソン・ボンサイスタ篇」と名づけて記憶している。
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■信じらんないけどホントだぜ
ところがどうだ。業績が不振になるにつれ、そうした有名人モノCMが次第になりを潜めていった。
フィアット系CMといえば、カニと一緒に夏のチェックアップ(点検)キャンペーンを呼びかけるビキニのお姉さんや、「信じらんないけどホントだぜ Incredibile, ma vero」と叫んで金利・頭金ゼロキャンペーンの告知が続いたりと、ベタなものばかりが目立つようになっていったのだ。
まあ、そうしたCMもダイレクトゆえに、それなりに人々の記憶に刻まれたようだ。事実、「信じらんないけどホントだぜ」は、一時イタリアの若者たちの会話で好んで使われていた。だがCMの質としては、今ひとつであることは否定できない。
■現代版・自動車ショー歌まで登場
ようやくフィアット系広告が再び元気になり始めたのは、今年のトリノ五輪だった。ランチアがオフィシャル・スポンサーであることを告知するCMである。
イタリア・フィギュアスケート界の妖精・カロリーナ・コストネルを起用したのだ。爆発するダイナマイトを背景に走る渡哲也のごとく、次々砕ける氷を巧みに避けて滑る彼女を描いたCG映像である。このCMは、イタリアで五輪期間を通じて、頻繁に放映された。
いっぽうフィアット・ブランドは、5月からフィオレッロというイタリアの大物エンタテナーを使ったCMを放映開始した。
ロケ地はイタリア公営放送局のラジオスタジオだ。日本だったらNHK放送センターでトヨタのCMを収録してしまうようなものである。
30秒と45秒篇があるのだが、何を喋っているかというと、フィアット車の車名を織り込んだダジャレである。
「骨の髄までシボレーで、あとで肘鉄クラウンさ」という小林旭による「自動車ショー歌」のトーク版といえばそれまでだ。でも、視聴者に「あれ、スタジオ中継に切り替わった?」と思わせる、なかなか手の込んだ作戦である。そのうえ、最後まで実車の映像は一切出てこないで終わってしまう。
■「セドリック二谷」とは言わないけれど
先日ヴェネツィア映画祭でランチアがスポンサーを務めたのを機会に、俳優アレッサンドロ・ガスマンが出演するCMが作られたことは先日書いた。
そうかと思ったら今度は、先日マイナーチェンジが施されたランチア・イプシロンのCMに、ステファノ・ガッバーナが起用されることになった。人気ファッション・ブランド「ドルチェ&ガッバーナ」の、あのガッバーナである。
戦前から終戦直後におけるランチアの1モデル、アルデアが佇んでいる。そこにガッバーナがあらわれてフェンダーを取っ払い、魔法の手を差し伸べると新しいイプシロンが誕生する、というストーリーだ。今年100年を迎えた歴史あるブランドであることを、無言のうちに訴えている。
このように、最近のフィアット系のテレビCMからは目が離せない。
惜しいのは、あまりに有名人がてんこ盛りなゆえに、放映期間が短いことだ。ビッグな人物が多いだけに契約上の露出期間が限られているかもしれないが、頭の中で車種とイメージキャラクターが結びつかない。
往年におけるセドリックの二谷英明、クラウンの山村聡・吉永小百合にまでなれと言わない。せめてヴィッツの宮沢りえか、タントの工藤静香のように、クルマと一緒に覚えられる有名人がフィアット系にも欲しいものだ。
(文=大矢アキオ-Akio Lorenzo OYA/写真=FIAT/2006年9月)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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