キャデラックSTS【海外試乗記】
挑戦的! 2004.09.01 試乗記 キャデラックSTS V6/キャデラックSTS V8 「アート&サイエンス」をテーマにするシャープなデザイン、FRレイアウトによるスポーティな走りで、ブランド変革を進めるキャデラック。「セビル」の後継たる新しいサルーン「STS」はどうなのか? 『webCG』の大川悠が乗った。
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“キャデラック・ルネッサンス”の開花
コンセプトモデルなら、1999年のデトロイトショーに登場した「エボーク」、生産型モデルなら3年前、2001年の夏から販売開始された「CTS」によって、キャデラックの新時代、いわゆる“キャデラック・ルネッサンス”が始まった。
これは創業以来100年を超えたキャデラックブランドを、徹底的に改革し、まったく新しいイメージのモデル群によって新しいマーケットを開拓しようというドラスティックな戦略である。新しいマーケットとは、アメリカ内ではより若い世代への再挑戦であり、またこれまでアメリカだけに限られていたその市場を、競争激甚なヨーロッパやアジアにも積極的に拡大しようというものだ。
このため、これまでのFFレイアウトを持った、やや旧式なアメリカンエンジニアリングを捨て、メルセデスベンツやBMW、そしてレクサスなどをマークしたFRレイアウトの国際的なエンジニアリングを導入。エボークで試みたシャープな面やラインにキャデラックの伝統モチーフを盛り込んだ、新しいデザインテーマに挑んだ。
この路線に乗せて、久々の小型キャデラックたるCTS、エボークから進化した2座スポーツカー「XLR」、新世代SUVたる「SRX」を発表してきたキャデラックは、今回第4弾目ともいえるサルーン「STS」を登場させた。STSはキャデラックのミドルクラス「セビル」に代わるモデルであり、さらに2005年はトップモデルの「ドゥビル」も「DTS」へと切り替わるという。
大きなCTS
新しいSTSは、より大型化し、やや表現をソフトにしたCTSといった成り立ちを持つ。実際にプラットフォームはCTSやSRXと同じ、GM内で「シグマ・アーキテクチュア」と呼ばれるものを使う。従ってセビルのようなFFではなく、ヨーロッパや日本のライバルと同様のFRとなり、前はダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンクの4輪独立懸架サスペンションを備える。
ホイールベースは2955mmとセビルの2850mmよりだいぶ長いが、これは主としてリアルームの拡大に使われている。ボディサイズは若干幅広く、4995×1845×1455mm。デザインコンセプトはCTSやXLRの路線を受け継ぐが、比較的年輩層が多い従来の顧客のことも考慮して、CTSほどはアクは強くない。
室内を見まわすと、もはやセビルの面影はなく、CTSをより上質にし、XLRのイメージも巧みに盛り込んで、ヨーロッパ風ともアメリカ風ともいえない独特の新しい感覚を出している。それこそ多分、新しいキャデラック・ワールドなのだろう。
エンジンラインナップはSRXと同様で、「ノーススター」こと4.6リッターV8と、CTSにも2005年から使われる、比較的新しい3.6リッターV6である。ともにツインカム4バルブで、連続可変バルブタイミング機構を持つ。V8が320psと43.3kgm、V6は255psと34.6kgmのアウトプット。トランスミッションは、ともに学習機能付き5段ATと組み合わされることに加え、V8には4WD版も設定される。
生まれつつある新感覚
STSは、セビルに比べるならはるかにリファインされただけでなく、メーカーの狙い通りヨーロッパや日本のライバルに対抗できるだけのロードマナーを備えていた。
一方、モデルによっては煮詰めがやや不十分。STSに短時間乗った印象をまとめると、こうなる。
成り立ちからして大きなSTSは、乗ってもまたその通りであった。
やや重いが、応答は過敏なステアリングフィール。そのステアリングを通じて感じ取ることができるボディの剛性感は高い。トルクあふれるV8とかなりスポーティな感覚に満ちたV6、そしてセビル時代よりも格段に改善され、ドライバーの意志をかなり察するアダプティブ機能付き5ATなど、STSはセビル時代とはまったく異なる新しいキャデラックへと成長している。
「ノイズではなくサウンドを求めた」とエンジニアが語る通り、レクサスの絶対的な静粛さはないが、エンジンは気持ちいいノートを奏でるし、ノーマルタイヤ付きならロードノイズは驚くほどすくない。またこのノーマル版の場合、乗り心地もちょうどいい。つまり従来に比べるなら格段に足腰は締まっているが、アメリカ車特有のソフトな感触も残っている。
一方、オプションのスポーツパックは、ちょっと煮詰めが甘いように感じられた。255セクションの18インチタイヤに、GMお得意の「マグネティックライドコントロールシステム(MRC=電磁による可変ダンパー)」を組み合わせたものである。
MRC装着車の場合、ロードノイズが大きいのみならず、乗り心地のセッティングもいま一歩に感じた。スポーツモードを選んだ場合は単に硬くなるだけでなく、荒すぎるのだ。過剰にヨーロッパ製スポーツサルーンを意識したのだろう。もっとも、意外と一部のアメリカ人には受ける設定なのかもしれない。
まだまだこなれていない部分もあるし、荒削りな面も見出せる。でもルネッサンスを目指して、徹底的に自己改革を図ろうというその挑戦的な姿勢には、とても共感をおぼえた。
(文=webCG大川悠/写真=日本ゼネラルモーターズ/2004年9月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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