キャディラック・セビルSTS(4AT)【試乗記】
グローバルな魅力をもつセビルSTS 2002.04.24 試乗記 キャディラック・セビルSTS(4AT) ……686.0万円 洗練されたスタイルをまとい、クリーンなインテリアをもつキャディラック・セビルSTS。先進の4.6リッターV8を搭載、前輪を駆動するアメリカの高級車に、自動車ジャーナリストの金子浩久が乗った。グローバル・スタンダードの波
いま、世界の主な都市のストリートカルチャーが急速に似通い始めている。街を行く人たちが同じような格好をして、ヘッドフォンステレオで同じ音楽を聞きながら、「マクドナルド」や「スターバックスコーヒー」に入っていく。
本場アメリカの「ニューヨーク」や「サンフランシスコ」はもちろんのこと、「東京」「香港」「バンコク」「クアラルンプール」「ローマ」「ミラノ」「パリ」「ロンドン」「マドリッド」「ミュンヘン」「フランクフルト」「コペンハーゲン」「オスロ」等々の街の様子は、10年ほど前と較べると大きく変わった。
街の基本骨格は変わらなくても、そこに生活している人間の着ているものと食べるものに共通するものが急激に増えてきた。きっと、個々の家の中も同様の変化が起こっているのだろう。
「グローバルスタンダード」というか、「アメリカンスタンダード」の波は、衣食住の卑近な部分に顕著に現れているのだ。
嬉しい裏切り
「キャディラック・セビルSTS」に乗って最初に連想したのは、そんなことだった。“アメリカの高級車”キャディラックの中心車種であるセビルSTSが1998年のフルモデルチェンジを機に、ますます“アメリカ生まれの国際車”へとキャラクターのニュアンスを変えてきた。
何が、そのニュアンスの変化かというと、まずはセビルSTS内外の造形が変わった。旧型のセビルSTSも、伝統的なアメリカ車として見ると、繊細な線と面で構成された“いわゆるアメリカ車”らしからぬものだったが、現行モデルではそれに一層拍車がかかっている。
中央にキャディラックのエンブレムを配しただけのシンプルなフロントグリルとヘッドライト、バランスの取れたサイドウインドとサイドパネルの面積比率、およびピラーとの位置関係等々。
ドアを開けて車内を眺めると、セビルSTSが、従来のアメリカ車と比較して、例外的に「モダーン」で「クリーン」なインテリアを有していることがよくわかる。ドイツの一部のクルマのように、アルミや新素材を多用して超モダーンに流れることなく、ウッドと革と樹脂類をうまくバランスさせて心地よい空間を演出することに成功している。アメリカの、新興だけど高級なホテルのロビーに置かれた調度品のようだ。
セビルSTSは、走るとさらに我々の“アメリカ車観”を嬉しく裏切ってくれる。特に印象的だったのが、箱根ターンパイクでの走りっぷりだった。日本で最も傾斜のキツい有料道路を、セビルSTSは軽快に駆け上がっていった。
前輪を駆動する4.6リッターV8は、305psの最高出力を6000rpmで、40.8kgmの最大トルクを4400rpmでそれぞれ発生するが、数字以上に感じる力強さで1810kgのセビルSTSを引っ張る。
「AMG」の各車、BMWの「Mシリーズ」、アウディの「Sシリーズ」など、ある種のスペシャルなスポーツセダンを除いて、山道をこれだけ軽快に走る高級車が他にあっただろうか。普通の高級セダンで、こんなによく走るクルマを他に知らない。また、それがキャディラックだという事実に、失礼ながら、交替で運転した取材スタッフともども2度ビックリさせられた。
スポーティかつシュアに走る
セビルSTSには、「エンジン」「トランスミッション」「ステアリング」「サスペンション」「ブレーキ」の各コンポーネントを有機的に連携させ、統合的に協調制御する「ノーススターシステム」が装備される。
このノーススターシステムが有効に働いているから、あたかもボディがひとまわり小さくなったかのようにキビキビと走るのではないだろうか。そんな気がした。ただエンジンのパワフルさだけで走っているのではない。この走りっぷりは、駆動系やサスペンションなどもキチンと役割を果たした結果なのだ。
その証拠に、4.6リッターもの大排気量エンジンなのに、駆動力が操舵に影響を与える「トルクステア」の類は皆無。ボディの重さと大きさによる過大な姿勢変化もない。ソフト過ぎず、なおかつハード過ぎない乗り心地は、高級車らしく洗練されたものだ。
強いて難点を挙げると、左ハンドル車に装着される、油圧に加えて電磁気力で操舵力を制御する「マグナステア」パワーステアリングのアシスト感覚が人工的で、約60km/hを境にフィールが急変するところか。また「12WAY」と謳われる細かく調整できるシートは、しかし最後までベストポジションを見つけることができなかった。
同じGMのクルマも含め、スポーティかつシュアに走るという点で、セビルSTSは、他のアメリカ製高級車を大きく引き離している。現代的であり、国際的だ。急速に他の文化圏へ伝播している衣食住に関するアメリカンスタンダードのように、“国際的なアメリカンラグジュアリー”をあわせもつスポーティセダンとして、セビルSTSは、これからもアメリカ以外の土地でも一定の支持を獲得しつづけるに違いない。
(文=金子浩久/写真=郡大二郎/2002年3月)

-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。